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33 難問

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朝食を終えて、私たちはサロンに集まった。
今日は珍しく父も仕事をお休みしたようだった。

サロンには明るい日の光が入っていた。
そこには2人掛けのソファーと、1掛けのソファーが2つある。
私はそそくさと兄の手を引いて、2人掛けのソファーの兄の隣に座った。
父と美形男子の正面に座るためだ。
珍しく兄は何も言わなかった。

(こういう場合やっぱり、兄の隣が安心よね。
美形男子に突然抱きつかれるのは心臓の負担だし・・。)

それにテーブルを挟んでいるので、これで抱き着かれる心配はないだろう。
しばらくすると、父と先程の男性が入ってきた。
2人が座り、お茶の用意が終わると、父が口を開いた。

「ベルナデット、私の弟のトリスタンだよ。」

父が満面の笑みで美形男子を紹介してくれた。
私は出来るだけ笑みを崩さぬように高速で脳を回転させた。

(え~と。これって、なんて言うのが正解なの?
(1)はじめまして?
(2)先程はどうも?
(3)お久しぶりです?
ああ~わからない。全くわからないわ!!
そもそもこの3択でいいのかもわからないわ!!)

「は、はじめまして?」
「うう・・はじめまして・・そんな・・。」

どうやら私は選択肢を間違えてしまったらしい。
トリスタン様はまた泣き出してしまった。

(あ~。選択肢を間違えたわ。難しい・・。)

「その・・申し訳ありません。」

私は素直に謝ることにした。

「ベル・・。なんだかすごく大人になったね・・。」

すると今度は先程泣いていたはずのトリスタン様が、驚きのあまり、目を大きく開いた。

(ああ。つまり訳すと、我儘令嬢ではなくなったと言いたいのね。
はいはい。よく言われますよ~。それ・・。)

だが、こう言われた時の返しは完璧だ!
何度も経験済みなのだ!!

「はい。もう7歳ですので。」

私は営業スマイルで答えた。

「記憶を無くしたと兄さんから聞いてはいたけど・・。
本当だったんだね。辛い時に私は側にいてあげられなかったなんて!!
すぐに会いに来れなくてすまない!!」
「は・・はぁ。」

(どうしましょう。疲れてきたわ。部屋に帰って寝たいわ。
これなら昨日、お昼を食べる時に見た花を調べる方が楽かもしれないわ・・。)

私の意識が遠くに飛びかけた時、兄がようやく助け船を出してくれた。


「叔父上。もういいではないですか。過去のことを後悔するなど時間の無駄です。
目の前のベルとまた交流を持って下さい。」
「エリック・・。そうだな。ベル。私はトリスタンだよ。
ああ!そうだ!!今の君の大好きなことは何かな?なんでもいいよ。」

兄のおかげでようやくトリスタン様が落ち着いてくれて、ほっとしていた。

(ああ~。やっぱり、困った時の兄頼みね。兄!ありがたや!!)

会話がやっと出来そうなので、私も聞かれた答えることにした。

「大好きなことですか・・。」
「そう。夢中になれるものとか。」
「そうですね・・。」

考えていると、父が小さく笑った。

「ふふふ。確かにトリスタンはベルナデットに会う度にその質問をしているね。」
「確かにそうですね。」

兄もどこか微笑ましそうに見ていた。
トリスタン様も楽しそうに笑った。

「ははは。だって、可愛い子の一番は気になるじゃないか!!
ベルのことを教えてくれないかい?」
「夢中と言えるのは、ヴァイオリンでしょうか?」

私の答えにトリスタン様が思いついたように頷いた。

「ああ。そういえば、ヴァイオリンを始めたと言っていたね。
ん~。あ、そうだ!!私に弾いて聴かせてくれないかい?なんでもいいからさ。」
「え?」
「どうかな?」

(最近、サミュエル先生に褒めて貰えた曲が何曲かあるからそれにしましょう。
どれがいいかしら?
今の季節と時間を考慮すると、選曲はバラード曲よりワルツがいいかしら?
でも大人の男性が聴くなら交響曲もいいわよね。
とりあえず、部屋に戻って譜面を見ましょう。)

私の頭の中は一瞬でヴァイオリンのことに切り替わった。

「はい。では、ヴァイオリンを持ってきますので少々お待ち下さい。」

そう言って私は席を立った。

「ベル。侍女に取りに行って貰えばいいのではないか?」

兄に引き留められたが、私は振り向いて短く答えた。

「いえ。選曲をする必要もあるので、私が行きますわ。」
「そうか。」

兄が小さく返事をすると、トリスタン様が穏やかな顔でこちらを眺めていた。

「ふふふ。なんだか。ヴァイオリンの話になって、急にベルの顔が変わったな。
これは楽しみだ。」
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