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共通ルート
30 知る(前半)
しおりを挟む風が心地よくベルナデットの頬をなでた。
外で過ごすにはとてもいい気候だった。
山の上と言っても、それほど高い山ではなかったので緑も風に揺れていた。
そんなほのぼのとした周りの景色とは対照的に兄の表情は苦しそうだった。
(これは、重大なことを聞かされるのね・・。)
兄は、護衛を話が聞こえない場所に下がらせた。
しばらくアトルワ公爵領を見つめた後、苦しそうに口を開いた。
「ベルも7歳になり、これからは茶会などにも招待されるようになるだろう。
だからこそ、万が一にも他人に聞かされるよりも前に、私から伝えておく。」
「・・はい。」
(なにかしら?怖いわ!!)
「ベル。以前我が領に学校を設立するために準備していると伝えたな?」
「え、ええ。」
(兄と城下に休暇という名の視察に出掛けた時ね。あれだけ大きくて、今まで学校がなかったというのもおかしな話よね~。)
「我がイリュジオン王国では、王都にしか教育機関を置くことができない。」
「え?」
(王都にしか学校がない?それなら王都以外に住む人たちはどこで学ぶの・・?
まさか!!)
「反乱防止のために、教育内容は王家により管理されている。だから、王の管理する土地以外では学校を設立することはできないんだ。」
「・・・。」
日本でも、江戸時代の後期に子供たちに教育を行うために寺子屋が広がった。それが明治維新に直接繋がったとは言えないまでも、反乱の可能性は確かに否定できないと思えた。
「まだ王妃教育を受け始めたばかりのベルに、このような政治的な話をしても理解できないだろうか?」
「いえ。知識は時に剣よりも鋭利な武器になりえますから。」
何気なく言った言葉だったが、兄は一瞬固まり、そして大声で笑い出した。
「あははは。その年で、もう学問の本質に気付いているのか!!しかも、知識が剣を凌ぐなど、この国では一流の教師の口からもそのような真理が語られることはあるまい。」
兄は、そういうと小声で呟いた。
「やはり、あの方と血は争えないのだな。」
(あの方と血は争えない?どういうことかしら?)
「お兄様、血は争えないとはどういう・・。」
ベルナデットの言葉を兄は困ったように笑い遮った。
「そういう理由で、本来なら王都以外に学校を作ることはできないのだ。」
(兄がこの顔で話を遮る時は、私がいくら聞いても答えられない時なのよね。きっと今の私に伝えても私が困るだけなのでしょうね。本当に不器用ね。)
兄の不器用な気遣いに小さく溜息をついた。
過度の情報により心が壊れることがあるということを、大人の記憶がある私は知っている。
だが目の前の若干9歳の少年がその気遣いをやってのけるのだ。かなり不器用なやり方だが。
(本当に兄は将来、見た目も中身もかっこいい男性になるのでしょうね・・。)
そんなことを考えていると、兄がじっとこちらを見つめてきた。
「?」
不思議に思って兄の顔を見ると、泣いているような笑顔を浮かべた。
(辛い。兄のこの顔をみると心臓が痛くなるわ。)
「ベルのおかげで、我が領に学校を設立する許可が下りたんだ。」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・?
「え?」
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