30 / 145
共通ルート
28 本物の休暇です
しおりを挟む
朝食を食べた後は、ひたすらヴァイオリンの練習をした。
いつもは時間制限があるので、どうしても心の余裕がなくて、譜面をじっくりと見れないが、時間制限がないと安心して練習に没頭することが出来た。
昼食の時間になり、食堂に行くと兄が待っていてくれた。
「お兄様。待っていて下さったのですか?」
「ああ。久しぶりだろ?昼食を共に食べるのは。」
「そうですね・・。」
いつもの席に座って、にこやかに笑った。
「サミュエルが午後から来るそうだぞ?」
「本当ですか?」
「ああ。少し指導をして、お茶も一緒にとる時間があるそうだ。」
「嬉しいです。実は、どうしてもわからない箇所がありまして。」
王妃教育が始まる前まで、兄と昼食をとるのは当たり前だったが、最近では昼は忙しくて誰かと一緒に食べることがなかったので、懐かしく感じた。
(たった数カ月前のことが懐かしいだなんて・・・。)
そして昼食が終わり、またヴァイオリンを弾いていると、サミュエル先生が来てくれた。
宮廷楽団での指導もいいのだが、やはり自宅で集中して指導してもらう時間も大切だなと感じた。
時間制限もないので、いつもは聞けない細かいところまで質問できた。
練習が終わり、3人でテラスでお茶を飲むことになった。
「あの曲は、降りしきる雨の激しさを表現することで、人間の無力さと、自然の強大さを印象付けたかったのだと思います。」
「それでプレストを用いるのですね。」
「ええ。」
サミュエル先生と以前のように音楽の話に夢中になった。
「プレストとはなんだ?」
それに、兄が偶に話に混じる。
「早さなのですが、弾いてみましょうか?」
「え?!弾いて下さるのですか?」
「簡単にですよ?」
「ああ。頼む。」
サミュエル先生がヴァイオリンを持つと、簡単にさわりだけ弾いて説明した。
「こんな感じかな。」
「なるほど、確かに嵐のようだな。」
ほんの数カ月前までは、当たり前だったこの光景が今ではこんなにも貴重で大切な時間だったことに気付いた。
(当たり前だと思っていたけれど・・。失って初めて、この時間がどれだけ私にとって幸せな時間だったのかに気付いたわ。人って本当に失ってみないと気付かないのね・・。)
「おい、ベルどうした?」
「ベルナデット様、大丈夫ですか?」
兄とサミュエル先生が同時に顔を覗き込んできた。
「え?」
「どうして泣いているんだ?」
(泣く?)
兄に指摘されて、ようやく自分が泣いていることに気付いた。
「どうされました?何かありましたか?」
サミュエル先生が心配そうに手を握ってくれた。
「熱がぶり返しのか?」
兄の手がおでこに触れた。
「ふふふ。ご心配おかけしました。違うんです。」
「「違う?」」
兄と、サミュエル先生の声が重なった。
「はい。今までの私は幸せだったんだな~って。この時間が幸せで・・でも以前の私にとっては当たり前で・・。もうこんな時間は最後かもしれないと思ったら・・・。」
王妃になったら、例え兄といえども異性と一緒にお茶の時間を持つことは難しいだろう。
現に今では、クリスとしかお茶の時間は取れない。宮廷楽団に行ってもお茶どころか、曲のことをゆっくりと話す時間さえとれない。私はあの場所では、公爵家の令嬢であり、王子様の婚約者なのだ。
そう思うと止まらなかった。
「お休みもなく、お兄様ともサミュエル先生ともゆっくりとお話する時間も取れず、時間を気にしてヴァイオリンを弾く日常とつい比べてしまって・・。つい。・・恥ずかしいところをお見せしました。すみません。」
「ベル・・。」
「ベルナデット様・・。」
2人の心配そうな顔に罪悪感が襲ってきた。
「すみません。折角の貴重な時間です。それで、サミュエル先生やはり、第三楽章は・・。」
それから私たちは3人で夕食前まで、話をした。
とても楽しい時間だった。
サミュエル先生は3日後の午後もお時間がとれるとおしゃったので、3日後にもう一度、指導とお茶の時間をとれることになった。
1日が終わり、最高の気分でベットに入った。
(今日は最高の1日だったわ!!これぞ、休暇だわ。)
明日は、兄とハイキングだ。早く寝なきゃ。
~アトルワ公爵書斎にて~
ベルナデットが私室に入った後、エリックは父であるアトルワ公爵の私室を訪れた。
「失礼します。」
「ああ。エリック。どうかしたのかい?明日の許可はセバスから聞いていないかい?」
「それは伺いましたので、明日、行って参ります。」
「そうか。気をつけて。」
「・・・・。」
珍しく言い淀んでいるエリックに公爵は尋ねた。
「どうしたんだい?」
「イズール侯爵へ融資はされるのですか?」
「ああ。先日、次期侯爵殿の演奏を聴かせてもらった。問題ないだろう。」
「そうですか。」
エリックの返事に公爵が目を細めた。
「エリックが本当に聞きたかったことではなさそうだね。」
エリックは硬く拳を握りしめた。
「・・・・彼女は音楽の高等教育を望んでいます。」
エリックには、以前ベルナデットがサミュエルの演奏を聴かせてほしいとお願いした時に、父が承諾したのか理由がわかっていた。
恐らく父はベルナデットの環境を調べたかったのだろう。
エリックもこの問いに父が答えられないことは充分に承知していたが、聞かずにはいられなかった。
「いつも同じ答えですまない。いづれ時がきたら。ベルナデットが真に幸せになることがあの方の望みだからね。」
「真の幸せ。」
すると、アトルワ公爵は真剣な顔で続けた。
「そうだ。一時の感情に流されるような幻想の幸せではなく、長期的な幸せだ。」
エリックは頭を下げると、父に背中を向けて扉に向かって歩き出した。
「恨んでいるかい?私を。」
「いえ。」
エリックは背を向けたまま答えた。
「エリック。すまない。」
「ふっ。父上の謝罪は、聞き飽きました。・・・・それに。」
「それに?」
「私はこの立場で感謝しています。」
エリックは小さく笑うと、部屋を後にした。
部屋を出ると廊下から月が見えた。
明日はきっといい天気になるだろう。
「幸せか。私の幸せは今なのかもしれないな・・・。」
いつもは時間制限があるので、どうしても心の余裕がなくて、譜面をじっくりと見れないが、時間制限がないと安心して練習に没頭することが出来た。
昼食の時間になり、食堂に行くと兄が待っていてくれた。
「お兄様。待っていて下さったのですか?」
「ああ。久しぶりだろ?昼食を共に食べるのは。」
「そうですね・・。」
いつもの席に座って、にこやかに笑った。
「サミュエルが午後から来るそうだぞ?」
「本当ですか?」
「ああ。少し指導をして、お茶も一緒にとる時間があるそうだ。」
「嬉しいです。実は、どうしてもわからない箇所がありまして。」
王妃教育が始まる前まで、兄と昼食をとるのは当たり前だったが、最近では昼は忙しくて誰かと一緒に食べることがなかったので、懐かしく感じた。
(たった数カ月前のことが懐かしいだなんて・・・。)
そして昼食が終わり、またヴァイオリンを弾いていると、サミュエル先生が来てくれた。
宮廷楽団での指導もいいのだが、やはり自宅で集中して指導してもらう時間も大切だなと感じた。
時間制限もないので、いつもは聞けない細かいところまで質問できた。
練習が終わり、3人でテラスでお茶を飲むことになった。
「あの曲は、降りしきる雨の激しさを表現することで、人間の無力さと、自然の強大さを印象付けたかったのだと思います。」
「それでプレストを用いるのですね。」
「ええ。」
サミュエル先生と以前のように音楽の話に夢中になった。
「プレストとはなんだ?」
それに、兄が偶に話に混じる。
「早さなのですが、弾いてみましょうか?」
「え?!弾いて下さるのですか?」
「簡単にですよ?」
「ああ。頼む。」
サミュエル先生がヴァイオリンを持つと、簡単にさわりだけ弾いて説明した。
「こんな感じかな。」
「なるほど、確かに嵐のようだな。」
ほんの数カ月前までは、当たり前だったこの光景が今ではこんなにも貴重で大切な時間だったことに気付いた。
(当たり前だと思っていたけれど・・。失って初めて、この時間がどれだけ私にとって幸せな時間だったのかに気付いたわ。人って本当に失ってみないと気付かないのね・・。)
「おい、ベルどうした?」
「ベルナデット様、大丈夫ですか?」
兄とサミュエル先生が同時に顔を覗き込んできた。
「え?」
「どうして泣いているんだ?」
(泣く?)
兄に指摘されて、ようやく自分が泣いていることに気付いた。
「どうされました?何かありましたか?」
サミュエル先生が心配そうに手を握ってくれた。
「熱がぶり返しのか?」
兄の手がおでこに触れた。
「ふふふ。ご心配おかけしました。違うんです。」
「「違う?」」
兄と、サミュエル先生の声が重なった。
「はい。今までの私は幸せだったんだな~って。この時間が幸せで・・でも以前の私にとっては当たり前で・・。もうこんな時間は最後かもしれないと思ったら・・・。」
王妃になったら、例え兄といえども異性と一緒にお茶の時間を持つことは難しいだろう。
現に今では、クリスとしかお茶の時間は取れない。宮廷楽団に行ってもお茶どころか、曲のことをゆっくりと話す時間さえとれない。私はあの場所では、公爵家の令嬢であり、王子様の婚約者なのだ。
そう思うと止まらなかった。
「お休みもなく、お兄様ともサミュエル先生ともゆっくりとお話する時間も取れず、時間を気にしてヴァイオリンを弾く日常とつい比べてしまって・・。つい。・・恥ずかしいところをお見せしました。すみません。」
「ベル・・。」
「ベルナデット様・・。」
2人の心配そうな顔に罪悪感が襲ってきた。
「すみません。折角の貴重な時間です。それで、サミュエル先生やはり、第三楽章は・・。」
それから私たちは3人で夕食前まで、話をした。
とても楽しい時間だった。
サミュエル先生は3日後の午後もお時間がとれるとおしゃったので、3日後にもう一度、指導とお茶の時間をとれることになった。
1日が終わり、最高の気分でベットに入った。
(今日は最高の1日だったわ!!これぞ、休暇だわ。)
明日は、兄とハイキングだ。早く寝なきゃ。
~アトルワ公爵書斎にて~
ベルナデットが私室に入った後、エリックは父であるアトルワ公爵の私室を訪れた。
「失礼します。」
「ああ。エリック。どうかしたのかい?明日の許可はセバスから聞いていないかい?」
「それは伺いましたので、明日、行って参ります。」
「そうか。気をつけて。」
「・・・・。」
珍しく言い淀んでいるエリックに公爵は尋ねた。
「どうしたんだい?」
「イズール侯爵へ融資はされるのですか?」
「ああ。先日、次期侯爵殿の演奏を聴かせてもらった。問題ないだろう。」
「そうですか。」
エリックの返事に公爵が目を細めた。
「エリックが本当に聞きたかったことではなさそうだね。」
エリックは硬く拳を握りしめた。
「・・・・彼女は音楽の高等教育を望んでいます。」
エリックには、以前ベルナデットがサミュエルの演奏を聴かせてほしいとお願いした時に、父が承諾したのか理由がわかっていた。
恐らく父はベルナデットの環境を調べたかったのだろう。
エリックもこの問いに父が答えられないことは充分に承知していたが、聞かずにはいられなかった。
「いつも同じ答えですまない。いづれ時がきたら。ベルナデットが真に幸せになることがあの方の望みだからね。」
「真の幸せ。」
すると、アトルワ公爵は真剣な顔で続けた。
「そうだ。一時の感情に流されるような幻想の幸せではなく、長期的な幸せだ。」
エリックは頭を下げると、父に背中を向けて扉に向かって歩き出した。
「恨んでいるかい?私を。」
「いえ。」
エリックは背を向けたまま答えた。
「エリック。すまない。」
「ふっ。父上の謝罪は、聞き飽きました。・・・・それに。」
「それに?」
「私はこの立場で感謝しています。」
エリックは小さく笑うと、部屋を後にした。
部屋を出ると廊下から月が見えた。
明日はきっといい天気になるだろう。
「幸せか。私の幸せは今なのかもしれないな・・・。」
301
あなたにおすすめの小説
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる