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25 見えない心
しおりを挟むクリスとのお茶会から逃げるように城に用意してある自分の部屋に戻って、ベッドに倒れこんだ。
(耳に唇当たった?え?ええ~~。いや!!かすったのを大騒ぎしてるだけかも!!)
枕を胸に抱え込んで、ベッドの上を転げ回っていると、クリスのセリフが浮かんできた。
「ベルの初めては全部俺の物だから。」
(凄いセリフだな・・・。さすが王子様・・。初めてを全部か・・。)
そう思って、あることに気が付いた。
(ん?初めて?そういえば、初めてキスをされたのは、手だけどサミュエル先生ね。)
そして、ベッドから枕を抱いたまま身体を起こした。
(そういえば、初めて異性に贈り物をしたのもサミュエル先生だわ。さっき渡したクリップ。そして、初めてのお願いは、サミュエル先生の演奏・・・。)
そう考えて、頬が熱くなるのを感じた。
(違う。違う。違う。サミュエル先生は、尊敬するヴァイオリンの先生よ。憧れよ。ただの憧れ。それにサミュエル先生は私のことは生徒としか見てないし。)
そう思うと胸にチクリと何かが刺さったように感じた。
(ヴァイオリン弾かなきゃ!!)
私はヴァイオリンの練習に集中した。ヴァイオリンを持つと、サミュエルの音が耳の奥で聞こえる気がして、その音以外、すべてが気にならなくなるのだった。
(あの音に近づきたい。)
そうして今日もヴァイオリンを弾いた。
ヴァイオリンに集中していると仕事を終えた兄が部屋に入ってきた。
「ベル。遅くなってすまない。今日は殿下の機嫌が悪く・・・。」
兄と目が合うと、兄は話を中断して早に私に近づいてきて、おでこに手を当ててきた。
「ベル。熱がある。帰るぞ。」
「え?」
そう言われると足元がふらつくような感覚があった。
(熱?そういえば、頭がフラフラするような・・。ヴァイオリン!!片付けなきゃ!)
私は急いで、ヴァイオリンをケースにしまった。
ケースを閉じた途端に足に力が入らなくなった。
(あ、倒れる・・。)
すると、身体が浮いた。
(また私、兄に迷惑を・・。)
気が付くと、兄に抱きかかえられていた。
(折角のお姫様抱っこなのに、これをされる時はいつも余裕がないわね。)
よろよろと手を兄の首に回した。
お姫様抱っこをする時は首に手を回すと断然抱えるのが楽になると以前聞いたからだ。
(もっと近づきたいとかそういう理由があると思っていたのにな・・・。現実を知らない方が夢があったな・・。)
「エリック様!どうされたのですか?」
「ベルが体調を崩したようだ。急ぎ連れて帰る。」
「お待ち下さい。すぐに医者を呼びますので、本日は城にお泊り下さい。」
「結構だ。悪いが急ぐ。」
「エリック様!!」
兄と城で私のお世話をしてくれているルーナの声を聞いた。
(ルーナごめんね。私も家に帰りたいわ・・。)
そう思ったが声にはならなかった。そして、ゆっくりと目を閉じた。
ガタガタガタガタ
ぼんやりとした意識の中で兄の体温と身体に感じる振動に気が付いた。
(馬車の中・・?まさか、馬車までずっとこの体勢で・・。兄よ本当にごめんなさい。)
兄に抱えられたまま馬車に乗ったことに気が付いた。
兄の腕の中はとてもあたたかくて居心地がよかった。
(気持ちがいい~。)
段々と意識が遠ざかって行くのがわかった。
沈みゆく意識の中でふと、唇に何かが触れたような気がした。
「あと少しで・・・の物に・・・あきらめな・・・もう・・・・ごめんな、ベル。」
そうして、とても苦しそうな声が聞こえる。
(どうしたの・・・?苦しまないで。)
「だが・・を選んでくれ。ベル・・・してる。」
今にも泣き出しそうな声に泣かないでと言いたかったが、身体が動かなかった。
そのまま、私は意識を手放した。
~執務室にて~
クリストフが仕事を終えて、そろそろ部屋に戻ろうとしていると、つい先程部屋を出たローベルが戻ってきた。
「どうした?」
ローベルは神妙な顔で姿勢を正した。
「殿下、ベルナデット様の侍女からの報告です。
ベルナデット様は、先程、体調を崩されて屋敷に戻られたそうです。」
「体調?容体は?」
クリストフは動揺していた。
(先程は元気そうだったのに・・。)
「熱があったご様子で、足元がふらついたそうです。」
「どうして、そんな状態のベルを帰したんだ!」
「報告によると、熱があることに一目みて気付いたエリックが、そのまま抱きかかえて連れ帰ったようです。」
その言葉にクリストフは絶句した。
「熱?ベルは熱があったのか?」
「そのようです。」
「・・・そういえば、手がいつもよりも熱かった・・。」
クリストフが自身のこぶしを握り締めた。
「なぜ、気が付かなったんだ!!!俺は自分のことばかりで気付けなかった・・。」
「殿下、この気候ですと少し手が熱いくらいで体調の異変に気付くのは難しいと思います。」
「だが、エリックは気付いたのだろ?」
「そのようですね・・。」
クリストフは椅子に座りこみ、両手を顔にあてて天を仰いだ。
「はぁ、情けないな。」
しばらく天井を見つめて、身体を起こして、ペンと紙を手にした。
「・・・ベルの王妃教育の関係者すべてにベルの2週間の休暇を通達しろ。
陛下とアトルワ公爵には私から報告しよう。」
「2週間ですか?」
ローベルも急いで、自身の執務机に座り、書類を作り始めた。
すると、クリストフは自嘲気味に笑った。
「長いか?」
「はい。そう思います。」
「そうだな・・。だが、これは決定事項だ。それと、ベルに定期的な休暇を予定に組むように文官に伝えろ。」
「はい。」
2人が書類を作り終え、ローベルが椅子から立ち上がった。
「殿下、もしエリックからの休暇願が申請されたらどうされますか?」
「そうだな・・。どうしたらいいんだろうな・・。」
その瞬間トントンとドアをノックする音が聞こえた。
ローベルがドアを開け、書類を受け取ると、声を硬くした。
「殿下。エリックからの休暇願だそうです。」
「さすがエリックだな、仕事が早いな・・。期間は?」
「5日間だそうです。」
「5日か・・・長いな・・。」
するとクリストフは手を顎に当てて、考えを巡らせた。
「だが、病気なら5日の申請では済まないだろう。恐らく疲労かなにかで、ベルのリフレッシュに付き合う気なのだろうな・・・。ベルはこの分なら、1日寝れば回復しそうだな。」
クリストフは溜息をついて、また視線を上に向けた。
「どうされます?」
ローベルはクリストフにエリックの休暇願を手渡した。
クリストフは受け取ると、今度は机に突っ伏した。
「ああ~許可したくない!!」
そう言うと、顔を上げて、乱暴に休暇願に判を押した。
「殿下。」
「早急に文官に回せ。俺の気が変わらないうちに!!」
そうして、休暇願いをローベルに押し付けた。
「はい。」
ローベルは思わず微笑んでしまった。
「なんだ?」
クリストフが不機嫌そうにローベルを見た。
「いいえ。」
すると、肩を落としていたクリストフが急にいいことを思いついたという顔をした。
ニヤリと笑ったこの顔のクリストフを止めることができる者はこの城には存在しなかった。
「ローベル。6日後から数日休暇を取る。」
「まさか・・。」
「後は頼む。陛下とアトルワ公爵には俺が伝える。」
「本気なのですか?」
「冗談だとでも?」
「いえ・・。」
そして、2人は執務室を後にした。
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