25 / 145
共通ルート
23 それぞれの道
しおりを挟む休暇という名の視察が終わった次の日。
勉強が終わった私は宮廷楽団に急いでいた。
「こんにちは。サミュエル先生!」
私は、サミュエル先生を見つけて駆け寄った。
「こんにちは。ベルナデット様。初めての城下はいかがでしたか?」
サミュエル先生は優しく笑った。
私はそれを聞いて、思わず遠い目をして静かな声で答えた。
「大変勉強になりました。」
そんな私の様子にサミュエル先生は不思議そうな顔をした。
「勉強にですか?」
「お兄様は途中から完全に視察だと思っていた様子ですので。」
私の様子に状況を察してくれたサミュエルは私の顔をじっと見て手を取った。
「ふふふ。なるほど、エリックの楽しそうな様子が目に浮かぶようですね。
ではベルナデット様、機会がありましたら今度は私と城下に行きませんか?城下には楽器店もありますよ。」
「楽器店ですか!!ぜひお願いしたいです。サミュエル先生の貴重な一日を頂くのは申し訳ないですが、ぜひ私に先生の一日を下さい。」
(サミュエル先生と一緒に楽器店行ってみたい!!楽しそう!!)
「そんなことを言ってもいいんですか?」
「はい。ぜひご一緒したいです。」
「参りましたね・・。」
サミュエル先生が困ったように笑い、私の手を離した。
私は急いで、用意していた袋をサミュエル先生の目の前に出した。
「はい。ふふふ。サミュエル先生、これ日頃お世話になっているお礼です。受け取って下さい。」
これは昨日、雑貨屋で見つけてお土産に購入した物だった。
「なんでしょうか?開けてもいいですか?」
「はい。」
サミュエル先生が袋を丁寧に開けてくれた。
「クリップですね。茶会などの屋外で楽譜を止めるのに良さそうですね。」
そしてサミュエル先生は息を飲み、言葉を続けた。
「それにこれ・・ベルナデット様の瞳の色に似た石が使われているんですね。」
「はい。高価な宝石という訳ではないのですが、雑貨屋で色んな種類の石があって、クリップに付けられるとのことだったので、これにしました。」
そうして、自分の手元からもう一つの袋を出して、サミュエル先生に中身を見せた。
「実は、もう一つ、サミュエル先生の瞳の色に似た石を使った物も購入したので、もしそちらがよろしければ、そちらを差し上げます。先生が選ばなかった方を私が使います。」
「え?」
先生はとても驚いていた。いつも冷静なサミュエル先生のこんな姿を見たのは初めてだった。
(あ、やっぱり嫌だったのね・・・。凄く綺麗な色の石だったから選んだけど、買った後に私の目の色だと兄に指摘されて、サミュエル先生がそれに気付いて嫌な気分になるかもと思って、サミュエル先生の瞳の色の石をクリップをつけた物も一緒に買ったのよね。兄が気付いてくれてよかった!!)
「あの、こちらと替えて・・。」
「つまり、ベルナデット様はその私の瞳の色の石が付いたクリップを使われるということですか?」
私の言葉を遮り、先生が言葉を続けた。
サミュエル先生が私の言葉を遮ることなどこれまで一度もなかったのでとても驚いた。
兄やクリスはよく遮るが・・・。
「そうですね。サミュエル先生がこちらを選ばなければ・・。」
私の答えにサミュエル先生が考え込んでしまった。
「デザインが同じでお互いの瞳の色・・・・。深読みしてもいいんでしょうか?」
「すみません。先生、今なんとおしゃったのでしょうか?」
先生が何かを言ったので聞き返すと、サミュエル先生が美しい笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。私は、最初に頂いたこのクリップが欲しいです。」
「ふふふ。嬉しいです。その石、とてもサミュエル先生に似合うと思って選んだので。」
するとサミュエル先生が耳まで真っ赤になり、顔に手をあてて視線をそらした。
「お話中失礼します。アトルワ嬢、そろそろ殿下とのお茶の時間ではないですか?」
ヴィオラのリオネル先生に言われて、時計を見ると確かにそろそろクリスとのお茶の時間だった。
「リオネル先生、教えて頂いてありがとうございました。こちらは皆様でお召し上がり下さい。」
私はかごに入った焼き菓子を差し出し、リオネル先生に渡した。
「私たちにまで、ありがとうございます。」
「ではサミュエル先生、失礼します。」
「はい。またお待ちしています。」
私はあいさつを済ませると、クリスとのお茶に向かった。
~ベルナデットが去った後の宮廷楽団~
ピアノの幹部、ヴィオラの幹部、フルートの幹部がそれぞれ口を開いた。
「アトルワ嬢。『似合う』か・・。なかなか残酷なことをするな。」
「やっぱり深い意味はないのか?ご自身の色と似合うって、ほぼプロポーズ・・・。」
「待て!それ以上言うな。『ない』ってことにしとくのが一番無難だろ?今は。」
すると一番年長のコントラバスの幹部が楽しそうに笑った。
「ははは。私も娘に同じような物を貰った。サミュエルは、随分とアトルワ嬢に懐かれているな。」
「「「・・・・・。」」」
3人が一斉に無言で、サミュエルに視線を送った。
サミュエルは弱々しい笑顔を浮かべた。
「娘ですか・・・。」
そう呟いたサミュエルの背中に哀愁が漂っているように見えた。
「まぁ、娘は私と結婚するらしいぞ?」
そう言ってコントラバスの幹部がベルナデットに貰った焼き菓子を一つかごから取ると、サミュエルに向かって小さく笑って背を向けた。
「それは・・・朗報ですね。」
サミュエルはベルナデットに貰ったクリップを眺めていた。
47
お気に入りに追加
1,537
あなたにおすすめの小説
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました
雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた
スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ
この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった...
その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!?
たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく
ここが...
乙女ゲームの世界だと
これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる