我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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~宝石店にて~

ベルナデットが護衛と共に小部屋に入って行くのを見送ると、エリックが別の店員を呼んだ。

「この石を使ったカフスを依頼したい。形はまかせる。」

ずっと控えていたロランが口を開いた。

「ご自分で買い物されるなんて珍しいですね。」
「そうだな・・。で、どう思う?」

エリックは自分の選んだ宝石をロランに見せた。
そこには、太陽の下で真剣にヴァイオリンを奏でる時のベルナデットの瞳の色にとてもよく似た宝石が置かれていた。
その宝石は少しの光を受け、まるで瑞々しい新緑のように美しく輝いていた。

「これは・・。」
「ベルの選んだ石も確かにいいが、何かに夢中になっている時のベルの瞳の色はこれだと思うだろ?」
「助言はしないのですか?」
「ベルがすべてを自ら選んだ方が、失敗しないだろ?」

エリックが泣きそうな顔で笑ってみせた。
こんな彼の表情をみるのは珍しいことだった。
そしてエリックは、以前交わしたベルナデットとエリックの会話を思い出した。

「なるほど、例の男心への配慮ですね。」
「ああ。・・おかげで心から血が流れそうだ。」
「エリック様・・。」

ロランの主であるエリックはとても子供とは思えないくらいの冷静さと賢さを持つ。そしてさらにベルナデットが生まれた時から、非常に多くのことを我慢している。
なぜ世界はこんなにも幼い子供に多くのことを背負わせ、忍耐を強いるような残酷なことをするのだろうと、ロランはいつも思っていた。
彼はこの数奇な運命を持つ小さな主を全力で支えたいと常々思っていた。

「まぁ、ベルのことだ。深く考えて殿下にあれを渡すわけではないのだろう。
婚約者の義務とか義理とか仲間意識で贈ると言っているのだろうな。」
「ふふふ。私には、そう思うように誘導されたように見えましたが・・。」
「せめてもの抵抗だ。貰った方はそうではないだろうがな・・。」

あまりに苦しそうなエリックの様子にロランはつい口を滑らせてしまった。

「もう、お嬢様にお母上様のことを・・・。いえ。申し訳ございませんでした。」
「いや・・・でも、あと少しだったんだがな。これも運命っていうことなのだろう。」
「エリック様・・。」
「私は運命に負けたのだろうか・・。いや、運命などいう言葉に逃げるのは、私らしくないな。」

エリックは溜息をつくと、とても老成した表情を見せた。

「最後に笑うのは一体誰なのだろうな・・。」

エリックは目の前の宝石にまるで囚われたかのように魅入っていた。
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