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21 休暇の終わりに

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喫茶店でお土産を大量に買い込み、それから大型書店に行った。
大型書店には、家にも王立図書館にもない恋愛物や、ファンタジーなどの小説も豊富に揃っていて、大量に買い込んだ。
雑貨屋でも、小物を数点買った。

どこに行っても、兄から社会科見学のような説明を受けた。
だが、少しだけこの世界のことがわかったように思えた。

(自分が住む土地のことを知るには大切なことね・・。
本だけではよくわからなかったことがわかったし。兄に感謝ね。)

休暇だったのか、視察だったのか、社会科見学だったのかはわからないが、
普段とは違う一日にとても充足感を感じていた。

(今日はいい一日だったわね。帰ってヴァイオリンを弾きましょうか。)

さて帰ろうかと思った時に、大切なことを思い出した。

(あ!!折角、買い物に来たのだし、この機会に買っておこう。次はいつ来れるかわからないしね。)

「お兄様、宝石店に行きたいです。」
「宝石・・。ああ。殿下への贈り物か?」
「はい。」
「では、馬車で移動するか。もう少し城の近くに店がある。」

馬車で城の近くまで移動することになった。
城の近くは少し雰囲気が違っていて、高級な洋服を扱う店が軒を連ていた。

「なるほど、エリアによってだいぶ町の印象が違いますね。」
「ああ。」

そのエリアの中でも城に近い位置にある建物の前に馬車を付けた。
そこは看板も何も出ていなかった。

(宝石店なのかしら?こちらのお店って、知らないと入れそうもないわ・・。
まさか、京都の茶屋のように一見さんお断りのお店なのかしら?)

「ここが宝石店なのですか?」
「ああ、ここは王家所有の宝石の管理も行っている。だから防犯の理由で、紹介のある者しか入れないようになっている。」

(やはり京都などのお茶屋さんと同じシステムなのね。)

ベルは以前、日本でも同じような疑問を持ったことがあった。

「紹介者しか入れない?でも新しいお客さんが来なくて経営は、大丈夫なのでしょうか?」
「なかなかいい質問だな。客を選ぶからこその信用も価格に入っているんだ。」
「お客さんを選ぶからこその信用?」

(なるほど・・。一般の人にお店の敷居が高いと思わせることによって、その店を使うことが普通だと感じるお客さんを各方面から守っているのね・・。)

「腑に落ちないって顔だな。いいか、ベル。王族や私たち公爵家が簡単に誰かに利用されれば、国の一大事に繋がる可能性がある。利用されるのは情報だったり、持ち物だったりする場合もある。だから初めから我々は不要なリスクは避けなければならないんだ。」
「・・・・。」
「やはり難しいか?」
「いえ。だからこそ私は自由に城下に行ってはならないのですね。理解しました。」

すると、兄が嬉しそうに笑った。

「そうか・・。わかってくれたんだな。」
「はい。今日はご無理を言って申し訳ありませんでした。」
「いや。」

満足そうな兄について宝石店に入った。
宝石店に入ると二重扉になっていて、呼び鈴を鳴らした。

(本当に厳重ね・・・。)

お店の人に案内され入ってみると、本で見たことがあるような宝石ばかりがずらりと並んでいた。
宝石がこんなに並んでいる光景は壮観だった。

(宝石って、綺麗なのね・・。吸い込まれそう。そういえば、私、ベルナデットになる前は宝石は、ほとんど見たことないのよね・・。)

宝石に見とれていると、機嫌の悪そうな兄の顔が視界に入ってきた。

(いけない。男性は宝石店は好きではないわよね。早く選ばなきゃ!!)

「お兄様。どんな種類の石を選べば、失礼ではありませんか?」
「・・?どういう意味だ?」
「どういう・・?そうですね。
例えば、一定ランクの宝石でないと、王族にふさわしくない・・など。」
「殿下は、ベルからピアスが欲しいと言われたのだろ?」
「はい。」
「では、細かいことは気にするな。ベルが心からいいと思った物を選べ。」

兄からの予想外な答えに驚いた。

(てっきり、公爵家の面目を潰さぬ物を贈れって言うかと思ったわ。)

「それでいいのですか?」
「ああ。殿下は式典などでは、国宝の品々を身に着ける。
場合によっては、社交でも、相手によって様々な宝石を身に着ける。
それはすべて、この国の王子として身に着けるものだ。
殿下はベルにクリストフ様としてお願いしたんだろ?」
「あ。」
「だから、ベルのいいと思った物が最良だと思うぞ?」
「ありがとうございます。」

(クリスは私、個人からの贈り物が欲しかったのか・・。確かにクリスって私に名前を呼ばせたり、話し方を崩したり、クリス個人として接してほしそうよね・・。)

そして、重大なことに気付いた。

(そうか・・。クリスは今後、王として生きていかなくちゃいけないのよね。
私、自分だけが王妃として自由が無くなるって思ってたけど・・。
クリスもそうなのね。
だからこそ、少しの自由を認め合う仲間として、クリスは自分の目の色の宝石を私に贈ってくれたのか・・。)

「すみません。鏡を見せてもらえませんか?」

(つまりこれは、クリスの自由の象徴なのね。それなら、私の独断と偏見と好みと勢いで、クリスに似合いそうな物を贈るわ!!)

自分の目と宝石を見比べながら、やっといいと思える宝石を選んだ。

「これはどうでしょうか?」

兄に感想を聞いてみると大変不機嫌そうに答えた。

「ベルが選んだ物が最良だ。自信を持て。」

(お兄様、表情とセリフが合っていませんが・・・。付き合ってもらってるし、黙っておこう。)

「ありがとうございます。」
「お嬢様、ではピアスのデザインを決めますので、こちらにどうぞ。」

宝石店の店主に奥の商談席のようなスペースに案内された。
兄に視線を送ってみたが、どうやらついてきてはくれないようだった。
代わりに護衛の方がついてきてくれた。

「では、お兄様少し失礼致します。」
「いい。ゆっくり選んでこい。」

(兄も来てくれると思ってたんだけどな・・。よし!自分で決めよう!!)
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