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20 貴族の矜持

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兄の後に続いて建物の中に入ると、コーヒーの香りが漂ってきた。

(ここ喫茶店だったのね・・。)

どうやら、ショーケースの中からお菓子を選んで、それを席まで運んでくれるシステムのようだった。
思った以上に種類が豊富で選ぶのが楽しくなった。

「わぁ~。どのくらい頼んでいいのですか?」
「食べたいだけ頼め。」
「本当ですか?ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。」

(どれも美味しそう。2つくらい頼んでもいいかな?あ~迷う!!いつもおやつは出るけど、自分で選べる訳じゃないから、自分で選べるって最高だわ!!)

お菓子を選び、兄と一緒に席に着いた。
兄は紅茶を頼んだ。普段は紅茶を飲むが、今日はお店に入った時に香ってきたコーヒーが忘れられずにコーヒーを頼んだ。

「ベルはコーヒーが飲めるのか?」
「え?はい。」
「コーヒーは苦いぞ?大丈夫か?」
「はい。大丈夫だと思います。」

(そうか・・。私、まだこっちの世界でコーヒー飲んだとこないんだ!!うっかりしてた。)

お茶とお菓子がサーブされるのを待っていると、兄が楽しそうにこちらを見た。

「で?さっきの質問わかったのか?」
「ああ。なぜ文具店が増えたのか?ですか?」
「そうだ。」

(なるほど、さっきのおつかいがきちんとできたのか、結果を発表するのね。)

「そうですね。今まで使わなかった方々が文房具を使うようになった。
つまり、勉強する人が増えた。ということでしょうか?」
「ああ。素晴らしいその通りだ。」

どうやら兄の中では、今日の外出は休暇から完全なる社会科見学になっていた。

(勉強する人が増えた・・。それはいいことだけど・・。でも、どうやって勉強しているの?
学校は確か私たちが通う予定のオレオルともう一つしかなかったような?それだけで、みんな受け入れできるの?それともこれから出来るのかしら?)

「ではこれからは、もっと学校ができる、もしくは必要ということですね。」
「なに?」

兄が信じられない物をみたというように固まった。

「え?私、何かおかしなことを言いましたか?」
「ベル。なぜそう思ったんだ?」
「そうですね。近くの家の人が勉強して、便利に生活していたら、自分も便利に生活するために勉強したいと思うかな、と思いました。
でもみんなが、自分のこどもに勉強を教えられるわけではないので、教えられる人にお願いしますが、教える人が多くない場合は、一度に何人も教えられるように学校を作るかな、と思いました。」
「それは、自分で考えたのか?」
「?はい。」

兄は何かを考え込むように黙り込んだ。
そうしている間に、先程選んだお菓子とコーヒーと紅茶が運ばれていた。
コーヒーは兄の前に、そして紅茶とお菓子が私の前に置かれた。
兄が、そっとコーヒーと紅茶と入れ替えてくれた。

(コーヒーの味を知って入れば、普通逆だと思うわよね・・。)

お菓子を食べて、久しぶりにコーヒーに口を付けた。

(ああ。これよ!これ!!美味しい~~。コーヒーこの世界にもあったのね。幸せ。)

コーヒーのおかげで幸せを感じていると、兄が真剣な表情を見せた。

「今、まさに我がアトルワ公爵家は、領土での学校設立に向けて準備している。
それにベルにヴァイオリンを教えているサミュエルも父であるイズール侯爵と共に、王都に音楽学校の設立しようと尽力している。」

(サミュエル先生が、侯爵家?え?それよりも音楽学校?)

「お兄様。それは本当ですか?」

(サミュエル先生プロデュースの音楽学校?!絶対に入りたい!!)

「あの・・お兄・・」
「先に言っておく、ベルの音楽学校への入学は許可できないぞ?」
「え・・・。」
「そんな顔するな。音楽学校ができるのはまだまだ先だ。それに、ベルは王妃教育があるから、融通の利くオレオル学園への入学が決まっているだろ?」

兄がなだめるように説明をしてくれた。

「ちなみに私はいくつになったら、学園に通うのですか?」

オレオル学園の入学は聞いていたが、詳しくは聞かさせれていなかったので、この機会に聞いておくことにした。

「通常なら、13歳から16歳までの4年間だ。
だが、ローベルや、サミュエルのように在籍だけして、テストのみで通わない者もいるな。」
「そうなのですね。私は13歳から通うのですか?」

すると、兄が辛そうな顔をした。

「ベルは恐らく殿下が15歳から在籍されるから、14歳から通うことになる・・・だろう。」
「私は3年間通うのですね。」
「いや、おそらく殿下と共に卒業になるだろうな。だから、お前が学園に通えるのは2年だ。」
「・・2年。」

(はぁ。やっぱり私は、クリスの付属品扱いなのね。
クリスのいる期間だけの在学か。
行けるだけ幸せと思うべきなのかしら?
でも、ベルナデット個人としての生き方は今後は無理ってことよね。
私、王妃として生きるのか・・。)

「不安か?」
「・・・。」

私の表情を読んだのか、兄が困ったように呟いた。

「不満か・・。」
「・・・。」

兄の問いかけに何も答えることができなかった。
口を開けば、兄を困らせることしか言えないような気がしたからだ。


兄は紅茶を口に含むと、窓の外を見た。

「学園内では少しだけ自由だ。きっと一生に2年間しか自由はないだろう。」
「貴重ですね。」
「ああ。貴重だ。」

沈黙が2人の間を支配した。
兄はクリスの側近候補筆頭だ。
クリスのいる期間だけの在学となると、きっと兄は1年しか学園には通えないのだろう。

(王族に仕えるということはこういうことなのね。
滅私奉公という言葉があったけれど、本当にその言葉の通りなのね。)

「お兄様の貴重な1年、一緒に学園に通えますね。」
「そうだな。」
「嬉しいです。一緒に自由を謳歌しましょうね。」
「あはは。そうだな。そうしよう。」

わざと明るい表情を作った。
そうしないと涙が流れそうだったからだ。
兄も泣きそうな顔で笑っていた。

涙を流さないように流し込んだコーヒーは先程より苦く感じた。
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