上 下
21 / 145
共通ルート

19 休暇?休暇よね?

しおりを挟む

ええ。私は無知でした。
本当に無知でした・・・。

(万年筆ってこんなに高額なの~~~~~?!!!ひえ~~~!!!)

以前の私はペンと言えば、ボールペンを使っていた。
小さいころは、鉛筆やシャープペンシルも使っていた。
学校の書道の時間には筆も使っていた。

だが!
だが!!

万年筆なんて使ったことがなかったのだ!!
そういえば、文具専門店に行くと、ガラスケースに何やら高級なペンが入っていた気がする。
今思えば、きっとあれは万年筆だ!!

(なぜ気が付かなかった・・・私・・。)

父から外出の許可がおり、今日は、兄と一緒に城下に買い物にきていた。
最初に入った、文具店で私は自分の無知さを痛感したのだ。

「ああ。これが話題の万年筆か。万年筆がどうかしたのか?欲しいのか?」

万年筆の前で固まっていると、兄が興味深そうにケースを覗き込んできた。

「いえ。お兄様。私は今、自分の無知さを思い知り、恥ずかしさに耐えているのです。」

恥ずかしさで居たたまれなくなっていると、兄がとても上機嫌で顔を覗き込んできた。

「そうか。城下に出て、己の無知さを知るなど、最高の視察だ。視察を行うものとして、望ましい態度だ。」
「視察として望ましい態度・・。」

(あれ?今日は休暇だった記憶が・・。視察だった?)

「よし、その調子でベルに無知さをどんどん痛感させて、唯意義な視察となるようにしよう。」

どうやら兄の中で、これは休暇ではなく、視察に位置付けられてしまったらしい。
本当にめんど・・真面目な兄だ。
それから貴重な休暇は、社会科見学のような視察に切り替わるのだった。

「ベル、なぜ文具の専門店ができたと思う?」
「それは、文具を必要とする人が増えたからでしょうか?」
「そうだ。ではなぜ、増えたと思う?」
「なぜ?ん~このお店にはどんな方が買いにくるのでしょう?」

すると、兄がニヤリと笑った。

(今の笑い!!嫌な予感しかしないわ!!)

「折角、店主が目の前にいるのだ。私ではなく店主に聞いてみろ。私は外で待っている。」

そういうと、兄は店の外に出て行った。
どうやら、兄は私に初めてのおつかいを体験させる気らしい。
窓の外からこちらを心配そうに見ている姿が丸見えだった。

(予感的中・・。これは聞くまで終わらないわね・・。)

目の前で、私と兄の会話を微笑ましそうに眺めてていたこのお店の関係者と思われる男性に声をかけた。

「すみません。こちらにはどのような方が買いに来られるのですか?」
「はい。以前は貴族の方が使用されていたので、私共も店舗を持たずに、呼ばれたお宅にお邪魔していましたが、最近では、商人や町人からも必要とされるようになりましたので、こうして店舗を持つようになりました。」
「なるほど。皆様、どのような物を買われるのですか?」
「そうですね。紙やペンやインクなどですね。」
「基本的な道具ですのね。」
「貴族の方とは違い、ペンもインクも紙もあまり装飾のない安価な物がよく求められます。」
「実質的なものですね。質問のお答え頂き、ありがとうございました。」
「もうよろしいのですか?」
「は、はい。」
「またいつでもお越し下さい。お待ちしています。お嬢様、ご立派でしたよ。」

(あ~この反応は・・きっと外の兄と護衛の方が心配そうに見てる様子に気付いているわよね・・。
このこども扱い、結構精神的にきついわ・・。
まぁ、こどもだから仕方ないけど。)

男性がにこやかな笑顔で見送ってくれた。
私は居たたまれない思いで店を出た。

「お待たせしました。」
「無事に聞けたな。よくやった。」

にこにこ顔の兄に頭を撫でられた。
兄はどうやら覗いていたことを隠すつもりはないらしい。

「はい。」

周囲の視線を感じ、恥ずかしさで穴に入りたいと思った。
その思いが兄に伝わったのか、兄がそっと私の手を自分の腕に持っていった。

「では、カフェに移動するか?」
「は、はい。」

(え?どうして、兄と腕を組んで歩くの?こんなの初めてじゃない?恋人同士みたい!!兄妹で腕を組んで歩くのはいいのかしら?)

兄と腕を組んだことにドキドキしていると、兄が私の顔を見て、もっとしっかりと腕を掴むようにと促した。

「腕、しっかりと持て。迷子になられたら困る。」
「迷子防止ですか?手を繋ぐのではなく腕を組むのですか?」
「街中で手を繋がれたら、襲われたとき対処に遅れる。だから、ここでは腕を組んで歩いてくれ。」
「わかりました。」

(迷子防止・・・。まぁ、兄妹で腕を組むことに深い理由なんてないわよね・・。
でも確かに腕を組んでる方が、手を繋いでいるより咄嗟に離せるし、対処できるわね。
なるほど腕を組むのって、愛情表現だとばかり思っていたけど・・。合理的な護衛のためでもあるのね・・。)

「しっかりと私と腕を組んで歩くのだぞ?」

少しがっかりしていると、兄は追い打ちをかけてきた。

(そんなに私って問題児なのかしら?兄に私はいくつに見えているのかしら?
まさか、3歳児くらいに見えてないわよね?!
あ~もうこうなったら、問題児という汚名を返上するわ!!)

「はい。もちろんです。絶対に離しません。」

兄の腕にぎゅっとくっついた。兄の腕は2つ違いと思えないほどがっしりとしていた。

「ああ。そうしてくれ。一応、護衛もいるが、念のためな。」

あまりの兄の警戒ぶりに身体に力が入った。

「もしかして、治安が悪いんですか?」
「いや?そんなに悪くはない。陛下が、数年前に農地を開拓されて、職を増やされたからな。」
「なるほど。」

(陛下ってそんなこともされているのね。でも、治安が良くてよかったわ。)

兄と会話をしながら歩いていると、落ち着いた雰囲気のお店の前についた。

「ここだ。」

兄は特に説明もせずに店の中に入っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...