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19 休暇?休暇よね?
しおりを挟むええ。私は無知でした。
本当に無知でした・・・。
(万年筆ってこんなに高額なの~~~~~?!!!ひえ~~~!!!)
以前の私はペンと言えば、ボールペンを使っていた。
小さいころは、鉛筆やシャープペンシルも使っていた。
学校の書道の時間には筆も使っていた。
だが!
だが!!
万年筆なんて使ったことがなかったのだ!!
そういえば、文具専門店に行くと、ガラスケースに何やら高級なペンが入っていた気がする。
今思えば、きっとあれは万年筆だ!!
(なぜ気が付かなかった・・・私・・。)
父から外出の許可がおり、今日は、兄と一緒に城下に買い物にきていた。
最初に入った、文具店で私は自分の無知さを痛感したのだ。
「ああ。これが話題の万年筆か。万年筆がどうかしたのか?欲しいのか?」
万年筆の前で固まっていると、兄が興味深そうにケースを覗き込んできた。
「いえ。お兄様。私は今、自分の無知さを思い知り、恥ずかしさに耐えているのです。」
恥ずかしさで居たたまれなくなっていると、兄がとても上機嫌で顔を覗き込んできた。
「そうか。城下に出て、己の無知さを知るなど、最高の視察だ。視察を行うものとして、望ましい態度だ。」
「視察として望ましい態度・・。」
(あれ?今日は休暇だった記憶が・・。視察だった?)
「よし、その調子でベルに無知さをどんどん痛感させて、唯意義な視察となるようにしよう。」
どうやら兄の中で、これは休暇ではなく、視察に位置付けられてしまったらしい。
本当にめんど・・真面目な兄だ。
それから貴重な休暇は、社会科見学のような視察に切り替わるのだった。
「ベル、なぜ文具の専門店ができたと思う?」
「それは、文具を必要とする人が増えたからでしょうか?」
「そうだ。ではなぜ、増えたと思う?」
「なぜ?ん~このお店にはどんな方が買いにくるのでしょう?」
すると、兄がニヤリと笑った。
(今の笑い!!嫌な予感しかしないわ!!)
「折角、店主が目の前にいるのだ。私ではなく店主に聞いてみろ。私は外で待っている。」
そういうと、兄は店の外に出て行った。
どうやら、兄は私に初めてのおつかいを体験させる気らしい。
窓の外からこちらを心配そうに見ている姿が丸見えだった。
(予感的中・・。これは聞くまで終わらないわね・・。)
目の前で、私と兄の会話を微笑ましそうに眺めてていたこのお店の関係者と思われる男性に声をかけた。
「すみません。こちらにはどのような方が買いに来られるのですか?」
「はい。以前は貴族の方が使用されていたので、私共も店舗を持たずに、呼ばれたお宅にお邪魔していましたが、最近では、商人や町人からも必要とされるようになりましたので、こうして店舗を持つようになりました。」
「なるほど。皆様、どのような物を買われるのですか?」
「そうですね。紙やペンやインクなどですね。」
「基本的な道具ですのね。」
「貴族の方とは違い、ペンもインクも紙もあまり装飾のない安価な物がよく求められます。」
「実質的なものですね。質問のお答え頂き、ありがとうございました。」
「もうよろしいのですか?」
「は、はい。」
「またいつでもお越し下さい。お待ちしています。お嬢様、ご立派でしたよ。」
(あ~この反応は・・きっと外の兄と護衛の方が心配そうに見てる様子に気付いているわよね・・。
このこども扱い、結構精神的にきついわ・・。
まぁ、こどもだから仕方ないけど。)
男性がにこやかな笑顔で見送ってくれた。
私は居たたまれない思いで店を出た。
「お待たせしました。」
「無事に聞けたな。よくやった。」
にこにこ顔の兄に頭を撫でられた。
兄はどうやら覗いていたことを隠すつもりはないらしい。
「はい。」
周囲の視線を感じ、恥ずかしさで穴に入りたいと思った。
その思いが兄に伝わったのか、兄がそっと私の手を自分の腕に持っていった。
「では、カフェに移動するか?」
「は、はい。」
(え?どうして、兄と腕を組んで歩くの?こんなの初めてじゃない?恋人同士みたい!!兄妹で腕を組んで歩くのはいいのかしら?)
兄と腕を組んだことにドキドキしていると、兄が私の顔を見て、もっとしっかりと腕を掴むようにと促した。
「腕、しっかりと持て。迷子になられたら困る。」
「迷子防止ですか?手を繋ぐのではなく腕を組むのですか?」
「街中で手を繋がれたら、襲われたとき対処に遅れる。だから、ここでは腕を組んで歩いてくれ。」
「わかりました。」
(迷子防止・・・。まぁ、兄妹で腕を組むことに深い理由なんてないわよね・・。
でも確かに腕を組んでる方が、手を繋いでいるより咄嗟に離せるし、対処できるわね。
なるほど腕を組むのって、愛情表現だとばかり思っていたけど・・。合理的な護衛のためでもあるのね・・。)
「しっかりと私と腕を組んで歩くのだぞ?」
少しがっかりしていると、兄は追い打ちをかけてきた。
(そんなに私って問題児なのかしら?兄に私はいくつに見えているのかしら?
まさか、3歳児くらいに見えてないわよね?!
あ~もうこうなったら、問題児という汚名を返上するわ!!)
「はい。もちろんです。絶対に離しません。」
兄の腕にぎゅっとくっついた。兄の腕は2つ違いと思えないほどがっしりとしていた。
「ああ。そうしてくれ。一応、護衛もいるが、念のためな。」
あまりの兄の警戒ぶりに身体に力が入った。
「もしかして、治安が悪いんですか?」
「いや?そんなに悪くはない。陛下が、数年前に農地を開拓されて、職を増やされたからな。」
「なるほど。」
(陛下ってそんなこともされているのね。でも、治安が良くてよかったわ。)
兄と会話をしながら歩いていると、落ち着いた雰囲気のお店の前についた。
「ここだ。」
兄は特に説明もせずに店の中に入っていった。
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