我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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18 狸と狐?

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誕生祝賀会が無事に終わり、2ヶ月が過ぎた。
私は充実した毎日を送っていた。
そう。大変充実した毎日だ。
もっとはっきりと言おう。
自由時間の全くない毎日だ!!

この世界には、労働基準法や、子供の権利条約はないのだろうか?
私の記憶によれば、子供には、休み、遊ぶ権利があったと思うが、
王妃候補の公爵令嬢には適応されないのだろうか?
ヴァイオリンを弾く時間が1日最低2時間は確保されているので、
それで充分ということなのだろうか?

1日でいい。
のんびりと過ごしたい。
買い物行きたい。
王妃教育とは全く関係のない本が読みたい。
サミュエル先生のヴァイオリンが聴きたい・・・。

子供でもどうやらストレスは溜まるようだ。
それを知らなかった以前の私は、余程ストレスのない子供時代を過ごしたのだろう。
僥倖なことだ。

(それとも中身が子供ではないからストレスを感じるのかしら?)

そんなことを考えていると、クリスがサロンに入ってきた。
これから、休憩と言う名のミーテイングが始まる。

「遅れてすみません。ベル。」

ぼんやりとしていて気が付かなかったが、時計を見ると確かに約束の時間よりも遅れていた。
クリスがなんの言付けもなく遅れるのは初めての事だった。

「いえ、お気になさらないでください。」

(理由を聞いてもいいのかな?
守秘義務とかあるのかな?詮索するとよくないよね。)

クリスに遅れた理由を尋ねようか、やめようかと悩んでいると、
クリスがくすくすと笑いながらソファーに座った。

「遅れた理由を尋ねてもらって問題ありませんよ?」
「え?口に出してましたか?」
「いいえ。顔に書いてありました。」
「そうですか・・。」

(顔に?そんなにわかりやすいのかな?)

「ふふふ。困ってる顔を見るのもいいですが、
そんなにもったいぶることでもないので、お教えしますね。」
「はい。」
「城下に視察に行って来ました。」
「視察ですか?何を視察に行ったのですか?」
「ええ。最近商業区にカフェなど、雑貨屋や、文具店、大型書店など、
新しい施設が増えたと報告を受けたので、父の代理で確認に行ってきました。」
「カフェに・・雑貨屋、文具店に大型書店?!」

クリスはゆっくりと紅茶に手を伸ばすと、それを少し味わいにっこりと笑った。

「ええ。特にカフェで食べた、レーズンバターサンドは絶品でしたよ。
あと、文具の専門店がオープンしていまして、珍しい物を売っていたので買って来ました。」

クリスが胸元の内ポケットから、小さな箱を取り出して、蓋を開こうとした。

(まさか!またとんでもない物じゃ!!
まだ、ピアス渡してもないのに・・・!!)

「万年筆と言うらしく、インクをペンの中に入れて使うので、
手が汚れない優れものだそうですよ?」
「万年筆ですか。」

(よかった。宝石じゃなかった!!でも、万年筆!!
使ったことないけど、羽ペンよりは使いやすそう。
ペンならもらってもそんなに問題ないのかな?)

「ありがとうございます。嬉しいです。」

心からの笑顔でお礼を言うと、クリスの顔が赤くなって、
視線をそらすように従者の方を向いた。

「あと、レーズンバターサンドも買ってきたので、今用意させますね。」
「レーズンバターサンド・・・。」

その後、クリスは視察の様子を詳しく話をしてくれた。
クリスも城下に出たのは久しぶりらしく、いつもより興奮しているようだった。

(このくらい楽しそうにしてくれたら、年相応に見えるなぁ~。
いつものクリスは老けて・・大人びて見えるからなぁ~。)

「ベル?今、何か良くないことを考えませんでしたか?」
「え?もしかして、クリス様は人の心が読める特殊な能力でもお持ちなのですか?」
「まぁ、はっきりとはわかりませんが、大体はわかりますよ?」
「え?」

(心の中が読める?怖すぎる。でも試したい。クリス様、明日休暇下さい。)

「今、私が何を思ったか、わかりますか?」

真剣な顔でクリスを見つめていると、クリスが突然大きな声で笑い出した。

「あはは。そんな正確にわかるわけないだろ?俺が読んでいるのは、心中ではなく、顔色だ。」
「顔色・・?」
「まぁ、でもベルの考えてることなら、わかるぞ?」
「えっ?なんですか?」

最近のクリスは2人になると、たまに口調が崩れる。
私はその変化を嬉しく思っていた。

「おおかた、『心が読めるなんて、怖い。でも本当なのか?さっきのレーズンバターサンドもっと食べたい。』ってとこだろう?」
「凄いです。本当にクリス様の言う通り、おおかた合っています。」
「どこか違ったのか?」
「はい。最後が、レーズンバターサンド食べたいではなく、明日休暇がほしいでした。」
「あはは。それって、同じだろ?」
「え?」

そう言って、ぐっと顔を近づけてきた。
クリスのアップは正直心臓に悪いので止めてほしい。

「休暇をもらって、俺が、レーズンバターサンドを食べたっていうカフェに行きたいんだろ?」
「・・・ああ。言われてみると・・そんな気もしますね。」
「さっきから、ずっと羨ましそうな顔してたし。」
「あ!もしかして、いつも以上に楽しそうに話していたのって、わざとですか?」
「さ、どうだろうな。」
「酷い。」
「さて、ベルは本日、何をしたんですか?私に教えてもらえませんか?」
「クリス様・・・急に人格交代しないで下さい。人間不信になりそうです。」
「あはは。悪い。悪い。でも、このくらい慣れておかないと、城にはもっと悪質な狐や狸がたくさんいるぞ?」
「ご忠告感謝致します。肝に銘じておきます・・。」


そして、クリスと別れて、兄の仕事が終わるまでヴァイオリンの練習をするために部屋に移動して、ふと思った。

(うらやましい!!!私も視察に行きたい!!)

仕事が終わった兄が、私を迎えにきてくれた。
父は遅くなりそうなので兄と先に家に帰ることにした。
家族で職場が同じだと、とても便利だ。

帰りの馬車の中で、兄にお願いしてみることにした。
確か兄は側近としてクリスの視察に同行したはずだ。

「お兄様、私も視察に行きたいです。」
「視察?ああ、殿下からの土産の菓子が美味しかったのか?」

(まさか!!兄まで私の考えを読んだの??)

「なぜわかったのですか?」
「なんとなくだ。」
「皆さん、城の悪質な狐と狸で鍛えていらっしゃいますのね・・。」
「なんの話だ?」
「いえ、それより、視察です。どうでしょうか?」
「視察など面倒な手続きをせず、個人で行けばよいのではないか?」
「行ってもいいのですか?」

予想外に色よい返事にワクワクしてきた。
すると、眉に皺を寄せて、兄が苦虫を嚙み潰したような顔をした。

(あ、もしかして、やっぱりダメって言うんじゃ・・。)

「軽率なことを言ってすまない、諦めろ。」

(凄い!なんだ。私も読めるのね。悪質な狐と狸が周りにいるのかな?)

いつもならここで諦めるが、今日はそうはいかなかった。
どうしても城下に行ってみたい。カフェや大型書店や文具店や雑貨店に行きたかったのだ。

(よし。プレゼンスタート!やったことないけど。プレゼン。)

「お兄様、聞いて下さい。」
「な、なんだ?」
「私は、この数カ月、王妃教育を1日も休んでおりません。」

誕生祝賀会の次の日にお休みをもらったので、正確には2ヶ月だが、数カ月というずるい言い方をして訴えてみることにした。

「そうだな。」
「つまり、そろそろ1日くらい自由に過ごせる日があってもよろしいのではないでしょうか?」
「・・・・。それで、城下に行きたいというのか?」
「はい。そうです。できれば、少しでもいいので城下でお買い物ができるようにお小遣いもほしいです。」
「お小遣い??まさか、1人で行くつもりなのか?」
「ええ。」

すると、兄が大きな溜息をついた。

「それは絶対に無理だろう。仕方がない。私が同行しよう。」
「それなら行ってもいいのですか?」
「父上の許可が出たらな。」
「はい!ありがとうございます。」

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