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13 新しいライフスタイル
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クリスとの婚約を白紙に戻す案もでていたが、
元々この婚約は政略結婚の意味合いがかなり強いため余程の理由がないと
白紙に戻すことは難しいらしい。
そう父が陛下から念を押されたとのこと。
(記憶喪失って、余程の理由にならないんだね。)
そして私は王妃教育を受けるようになっていた。
クリスが訪問した2日後には兄が側近候補として城に戻ることが決まった。
兄が側近候補だったこともその時初めて聞いた。
今では父と兄と私は毎日のように3人で一緒に城に通っている。
父はもちろんのことだが、兄もかなり忙しそうだ。
心配していた王妃教育も、内容はそこまで難しい内容ではなかったし、
時間としては、午前3時間、午後2時間くらいなので、小学生くらいの拘束時間だ。
なのでヴァイオリンの練習は悲観するほど、できなくはなかった。
それよりも、城はヴァイオリンのためには最高の環境だった。
タッタッタ。
廊下を走っては行けないのは、どこの世界でも同じようなので、走らないように
早歩きで廊下をすすんだ。
トントン。
大きな扉を開けて中に入ると、いつもの顔を見つけた。
「サミュエル先生!!」
「ああ、お嬢様。もう勉強は終わりですか?」
「はい。」
ここは宮廷楽団。
宮廷楽団は城の中にあり、サミュエル先生をはじめ、
宮廷楽団員幹部の方は毎日ここに通っている。
楽団員は基本自宅で練習して、全体練習の時に集まるらしい。
ちなみにサミュエル先生は最年少ながら、ヴァイオリンパートのトップなので、
宮廷楽団員の幹部なのだそうだ。
(すごい。でも年齢ではなく、完全実力主義を認めるこの組織も凄い。)
つまり、今まではわからないことがあってもレッスン日にしかサミュエル先生には
会えなかったが、今では毎日のように会える環境なのだ。
毎日は流石に迷惑になるだろうと思っていたが、
「楽器を愛する人はいつでも歓迎だ。共に切磋琢磨し、至高の音色を奏でよう。」
との楽団員のトップの方のお言葉で、午前中以外なら来てもいいと許可を頂いたのだ。そこでお言葉に甘え、毎日のようにお邪魔していた。
さらにここでは、サミュエル先生以外にも多くの方が助言をくれるようになった。
そこで、サミュエル先生からの提案で、『先生』ではなく、
『サミュエル先生』と名前で呼ぶことにしたのだ。
「サミュエル先生、昨日指摘されたスピッカート、少しは改善したか見てもらえませんか?」
「はい。どうぞ。」
ヴァイオリンの練習時間は、朝2時間くらい、夕方2時間くらいだ。
そして、毎日のクリスとの午後のお茶の前に30分から1時間くらいの余裕があるので、
その間にこの宮廷楽団にお邪魔していた。
パチパチ。
「アトルワ嬢、1日でそれだけ修正するとは見事ですね。」
「あ。リオネル先生。ありがとうございます。」
曲を引き終わるとヴィオラのトップのリオネル先生が拍手をしてくれた。
「サミュエルも、優秀な生徒で教えがいがありますね。」
「そうですね。いつかお嬢様と一緒に皆様の前でセッションすることが今の私の目標です。」
「それはいい。お嬢様、ヴィオラはいりませんか?ぜひ私も仲間に入れて下さい。」
「じゃあ、私も参加しよう。ピアノがあると何かと便利だろ?」
「え?え?皆様とセッションなど恐れ多いですが、ぜひお願いしたいです。
全力で練習を頑張ります。」
(サミュエル先生とセッション!!最高!がんばろう!!)
先生方の提案に心が踊るのがわかった。
もっと頑張ろうと決意して、サミュエル先生の方を向いた。
「それで、サミュエル先生スピッカートどうですか?」
「だいぶよくなっています。後は、テンポと合わせられるようになりましょう。
スピッカートに気を取られていているようなので。」
「はい。」
「あとは何度も練習して身体に覚えさせましょう。」
サミュエル先生に指導を受けていると、室内の空気が張りつめてたのを感じた。
ドアの方を見ると、クリスと目があった。
(あ、私、お茶の時間に遅れた?)
急いで時計を見たが、まだ時間には15分くらい余裕があった。
突然のクリスの登場に楽団員の先生方は固まっていた。
クリスは王族の方である。
ここは城とはいえ、この場所に王族がいらしゃるのは珍しいのだろう。
「ベル。ここにいたのですね。」
「クリス様。お時間には余裕があると思うのですが、どうされたのですか?」
「もちろん、ベルを迎えにきたのですよ?」
「迎えですか・・。」
城に来たばかりの頃、案の定私は迷子になり、みんなに迷惑をかけた。
だが最近では、城に用意させている自分の部屋と、王妃教育を受ける部屋と、
クリスとのお茶をするサロンと、この宮廷楽団には迷わず行けるようになった。
(図書館や、クリスの執務室は・・・誰かに付き添ってもらうけど。
まだ、少し自信がありません。)
だが、過去の失敗を払拭するのは至難の業なのだろう。相変わらずの問題児扱いである。
「お手数をおかけして申し訳ありません。」
「いえ。もう用事は終わりましたか?」
正直もう少しサミュエル先生にアドバイスをもらいたかったが、
この緊張した空気の中では、他の楽団員の方々にもご迷惑になるだろう。
(また、明日来よう。明日は地理の先生だから早めに終わってくれるはず。)
今日は諦めて戻ることにした。
「はい。」
私は、手早くヴァイオリンをケースにしまう。
ヴァイオリンケースを片手に持つとクリスはいつものように手を繋いできた。
本当にどこまでも問題児扱いで泣けてくるが、
自分で撒いた種なのでどうしようもない。
私と手を繋いだクリスは先生方に軽く会釈をし、扉に向かって歩きだした。
「では行きましょうか。皆さん、私の婚約者がお邪魔しました。」
「い、いえ。」
クリスに手を引かれながら振りサミュエル先生の方を向いた。
「サミュエル先生、ありがとうございました。また、ご指導お願いします。」
「はい。いつでもお待ちしています。」
「失礼します。」
失礼なあいさつだったが、サミュエル先生のいつもの笑顔にほっとした。
~ベルナデットが去った宮廷楽団~
ピアノの幹部、ヴィオラの幹部、フルートの幹部がそれぞれ口を開いた。
「あれ?殿下ってアトルワ嬢と不仲だったんじゃないのか?」
「私もそう聞いていたが。破談秒読みとまで聞きましたよ。」
「噂って本当にあてにならない。殿下しっかり我々を牽制して行きましたよ?」
すると一番年長のコントラストの幹部が楽しそうに笑った。
「はは。殿下も若いな。まぁ、アトルワ嬢は可愛らしいからな、気持ちはわかるが。
ここに邪な感情を抱いている者などいないのにな。」
「「「・・・・・。」」」
3人が一斉に無言で、サミュエルに視線を送った。
サミュエルは美しい笑顔を浮かべた。
「そうですね。」
元々この婚約は政略結婚の意味合いがかなり強いため余程の理由がないと
白紙に戻すことは難しいらしい。
そう父が陛下から念を押されたとのこと。
(記憶喪失って、余程の理由にならないんだね。)
そして私は王妃教育を受けるようになっていた。
クリスが訪問した2日後には兄が側近候補として城に戻ることが決まった。
兄が側近候補だったこともその時初めて聞いた。
今では父と兄と私は毎日のように3人で一緒に城に通っている。
父はもちろんのことだが、兄もかなり忙しそうだ。
心配していた王妃教育も、内容はそこまで難しい内容ではなかったし、
時間としては、午前3時間、午後2時間くらいなので、小学生くらいの拘束時間だ。
なのでヴァイオリンの練習は悲観するほど、できなくはなかった。
それよりも、城はヴァイオリンのためには最高の環境だった。
タッタッタ。
廊下を走っては行けないのは、どこの世界でも同じようなので、走らないように
早歩きで廊下をすすんだ。
トントン。
大きな扉を開けて中に入ると、いつもの顔を見つけた。
「サミュエル先生!!」
「ああ、お嬢様。もう勉強は終わりですか?」
「はい。」
ここは宮廷楽団。
宮廷楽団は城の中にあり、サミュエル先生をはじめ、
宮廷楽団員幹部の方は毎日ここに通っている。
楽団員は基本自宅で練習して、全体練習の時に集まるらしい。
ちなみにサミュエル先生は最年少ながら、ヴァイオリンパートのトップなので、
宮廷楽団員の幹部なのだそうだ。
(すごい。でも年齢ではなく、完全実力主義を認めるこの組織も凄い。)
つまり、今まではわからないことがあってもレッスン日にしかサミュエル先生には
会えなかったが、今では毎日のように会える環境なのだ。
毎日は流石に迷惑になるだろうと思っていたが、
「楽器を愛する人はいつでも歓迎だ。共に切磋琢磨し、至高の音色を奏でよう。」
との楽団員のトップの方のお言葉で、午前中以外なら来てもいいと許可を頂いたのだ。そこでお言葉に甘え、毎日のようにお邪魔していた。
さらにここでは、サミュエル先生以外にも多くの方が助言をくれるようになった。
そこで、サミュエル先生からの提案で、『先生』ではなく、
『サミュエル先生』と名前で呼ぶことにしたのだ。
「サミュエル先生、昨日指摘されたスピッカート、少しは改善したか見てもらえませんか?」
「はい。どうぞ。」
ヴァイオリンの練習時間は、朝2時間くらい、夕方2時間くらいだ。
そして、毎日のクリスとの午後のお茶の前に30分から1時間くらいの余裕があるので、
その間にこの宮廷楽団にお邪魔していた。
パチパチ。
「アトルワ嬢、1日でそれだけ修正するとは見事ですね。」
「あ。リオネル先生。ありがとうございます。」
曲を引き終わるとヴィオラのトップのリオネル先生が拍手をしてくれた。
「サミュエルも、優秀な生徒で教えがいがありますね。」
「そうですね。いつかお嬢様と一緒に皆様の前でセッションすることが今の私の目標です。」
「それはいい。お嬢様、ヴィオラはいりませんか?ぜひ私も仲間に入れて下さい。」
「じゃあ、私も参加しよう。ピアノがあると何かと便利だろ?」
「え?え?皆様とセッションなど恐れ多いですが、ぜひお願いしたいです。
全力で練習を頑張ります。」
(サミュエル先生とセッション!!最高!がんばろう!!)
先生方の提案に心が踊るのがわかった。
もっと頑張ろうと決意して、サミュエル先生の方を向いた。
「それで、サミュエル先生スピッカートどうですか?」
「だいぶよくなっています。後は、テンポと合わせられるようになりましょう。
スピッカートに気を取られていているようなので。」
「はい。」
「あとは何度も練習して身体に覚えさせましょう。」
サミュエル先生に指導を受けていると、室内の空気が張りつめてたのを感じた。
ドアの方を見ると、クリスと目があった。
(あ、私、お茶の時間に遅れた?)
急いで時計を見たが、まだ時間には15分くらい余裕があった。
突然のクリスの登場に楽団員の先生方は固まっていた。
クリスは王族の方である。
ここは城とはいえ、この場所に王族がいらしゃるのは珍しいのだろう。
「ベル。ここにいたのですね。」
「クリス様。お時間には余裕があると思うのですが、どうされたのですか?」
「もちろん、ベルを迎えにきたのですよ?」
「迎えですか・・。」
城に来たばかりの頃、案の定私は迷子になり、みんなに迷惑をかけた。
だが最近では、城に用意させている自分の部屋と、王妃教育を受ける部屋と、
クリスとのお茶をするサロンと、この宮廷楽団には迷わず行けるようになった。
(図書館や、クリスの執務室は・・・誰かに付き添ってもらうけど。
まだ、少し自信がありません。)
だが、過去の失敗を払拭するのは至難の業なのだろう。相変わらずの問題児扱いである。
「お手数をおかけして申し訳ありません。」
「いえ。もう用事は終わりましたか?」
正直もう少しサミュエル先生にアドバイスをもらいたかったが、
この緊張した空気の中では、他の楽団員の方々にもご迷惑になるだろう。
(また、明日来よう。明日は地理の先生だから早めに終わってくれるはず。)
今日は諦めて戻ることにした。
「はい。」
私は、手早くヴァイオリンをケースにしまう。
ヴァイオリンケースを片手に持つとクリスはいつものように手を繋いできた。
本当にどこまでも問題児扱いで泣けてくるが、
自分で撒いた種なのでどうしようもない。
私と手を繋いだクリスは先生方に軽く会釈をし、扉に向かって歩きだした。
「では行きましょうか。皆さん、私の婚約者がお邪魔しました。」
「い、いえ。」
クリスに手を引かれながら振りサミュエル先生の方を向いた。
「サミュエル先生、ありがとうございました。また、ご指導お願いします。」
「はい。いつでもお待ちしています。」
「失礼します。」
失礼なあいさつだったが、サミュエル先生のいつもの笑顔にほっとした。
~ベルナデットが去った宮廷楽団~
ピアノの幹部、ヴィオラの幹部、フルートの幹部がそれぞれ口を開いた。
「あれ?殿下ってアトルワ嬢と不仲だったんじゃないのか?」
「私もそう聞いていたが。破談秒読みとまで聞きましたよ。」
「噂って本当にあてにならない。殿下しっかり我々を牽制して行きましたよ?」
すると一番年長のコントラストの幹部が楽しそうに笑った。
「はは。殿下も若いな。まぁ、アトルワ嬢は可愛らしいからな、気持ちはわかるが。
ここに邪な感情を抱いている者などいないのにな。」
「「「・・・・・。」」」
3人が一斉に無言で、サミュエルに視線を送った。
サミュエルは美しい笑顔を浮かべた。
「そうですね。」
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