我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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10 クリストフside1

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公爵家のベルナデットとは彼女が生まれた時から結婚することが決まっていた。

婚約ではなく結婚だ。
兄は数人の候補から婚約者を選び、婚約期間を経て、結婚となるらしいが、
私には他の候補者はいないし、彼女と結婚しないという選択肢もなかった。
つまり、結婚することが絶対に確定した婚約者だったのだ。

元々そう言い聞かされて育ってきたので、異論はないし、
ベルナデットの兄であるエリックとは物心ついてから共に過ごしてきた、兄以上に
兄のような存在だったので、エリックの妹なら問題ないだろうと思っていた。

初めて会ったのは、ベルナデットが3歳、私は4歳の時だった。

まるで天使のようなぱっちりとした大きな目からは、
エメラルドよりも綺麗な瞳がキラキラと輝き、
小さな唇はバラの花のように鮮やかであまりにも美しい容姿で一目で恋に落ちた。
丹精な顔立ちのエリックやアトルワ公爵とも似ていなかったので
きっと会ったことのない公爵夫人に似たのだろう。
完全な政略結婚だが、ベルナデットとの結婚を選んでくれた父である国王陛下に
感謝した。

だが、現実はそんなに甘くはなかった。
ベルナデットは、非常に我儘な令嬢だった。
彼女は気まぐれに現れて、いつでも私の邪魔をした。
最近では、毎日のようにお茶の時間を強要し(私の予定もあるのだが・・。)
顔を見れば、イノシシのように突進してきて、私の片腕にまとわりつき、
私の世話をしてくれていた侍女には色目を使ったと騒ぎ立てた。
だが、それはまだ、許容範囲内だった。
まだ許せる。

ベルナデットは大事な社交相手にも迷惑を掛けた。
一番ヒヤリとしたのは、隣国の使者の令嬢に嫉妬し、暴言を吐いたことだ。
相手の令嬢が大人で事無きを得たが、下手すれば外交問題だった。

ベルナデットは私の人間関係もことごとく破壊していった。
彼女は使用人や従者などからの評判もかなり悪かった。
ずっと仲のよかったエリックもベルナデットの素行をいつも私に詫びていた。
側近候補筆頭であり、優秀なエリックは本来なら絶対に側近候補から外れることは
ないが、ベルナデットの行いの責任を感じ、側近候補を辞退したいとの相談を
受けるほどエリックは憔悴していた。

私もベルナデットには疲れ切っていた。
以前は好きだった顔も今は見たくもない顔になった。

そこで、私はアトルワ公爵にお願いして、
しばらくベルナデットを城に立ち入らせないようにしてもらうことにした。
責任を感じていたエリックは、城で私の側近候補として学ぶのをストップして(なんとか辞退ではなく休暇ということにした)ベルナデットの監視役として共に公爵家に籠ることになった。


ベルナデットが城に来なくなって4ヶ月、私は本当に平和だった。

ただ時折、ベルナデットがいつもくっついていた片腕が寂しい気もしたが、
あの我儘な令嬢から解放されたときの清々しさは形容しがたいものだった。
月に1度のお茶会は城に招こうと考えていたのだが、ベルナデットの妨害によって
溜まっていた雑務を優秀な側近候補のエリックの抜けた状態で、片付けていたら
いつの間にか月日が流れていたのだ。

「殿下。来月はアトルワ令嬢のお誕生日がありますが、
流石に一度お招きした方が良いのではないでしょうか?」

側近候補筆頭であるローベルがふと目をあげ、至極真っ当な提案をしてきた。
丁度滞っていた雑務が全て片付いたタイミングだった。

「ああ。そうか。もうそんな時期か・・・。
エリックに任せっきりで放置していたから、怒っているだろうな。
ベルナデットは。」

ベルナデットの険しい顔を思い出すと頭が痛くなった。

「殿下。では、エリックもこの執務室にお呼びするのはどうですか?」
「エリックもか・・。
確かにそろそろエリックの息抜きもさせてあげないと可哀そうだな。」

何カ月もベルナデットの監視を一人で請け負ってくれているエリックの名前を
出されると諦めるしかなかった。

「ええ。ですから、こちらにアトルワ令嬢をお招きすれば、
私もエリックもお傍に控えられます。
他の場所ですと人目もありますから、婚約者とのお茶会に私やエリック様が同席すると、影口を叩く者も現れるかもしれません。」
「そうだな・・。エリックの息抜きはしてやらないと、可哀そうだよな。
では、手配を頼む。」
「わかりました。」

ベルナデットのためというより、エリックのために重い腰を上げたのだった。
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