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共通ルート
7 兄の提案
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次の日の午後。
いつものように、勉強が終わり、
ヴァイオリンを弾いてお茶を飲んでいると兄がテラスにやってきた。
もうすっかり慣れた距離となったすぐ隣に座る。
いつもならすぐに話しかけてくる兄が、なかなか話かけてこない。
兄は隣で何か考えこんでいるようだった。
「お兄様、どうされたのですか?」
「いや・・。婚約を白紙に戻すか?」
「え?」
兄の意外な提案に目を白黒させた。
家庭教師の先生から私と王子様の結婚は貴族の均衡を保つためにもかなり重要なもので、公爵家にとっても領民にとっても利のあるものだと、今日の授業で説明を受けたばかりだったのだ。
公爵家の事を第一に考える兄の口から飛び出したとは思えない提案だった。
「私は、あそこまでベルが動揺するとは思わなかった。
記憶を無くすというのは想像以上に精神的な負担なのだな。
私は今まで、状況を楽観視し過ぎていたのかもしれない。
ベル、すまなかった。」
まさか兄から謝られる日が来るとは夢にも思っていなかったので、驚いた。
だが、その申し出はかなり有難い。
王子様に恐怖を感じるのはもちろんだが、
自分の生活圏内があんなに広くわかりにくいお城では、生活できるとは思えなかった。
昨日お城を少し見たが、方向音痴な私には迷子になることが100%確定した未来のように思えた。
そう、100%だ。絶対に迷う。
迷子決定だ。
「やめて下さい。お兄様。
お兄様はいつも助けて下さっています。
しかし、もの叶うなら、
王子様の婚約者は辞退したいと思います。」
「そうだな。
7歳になったら城で本格的な王妃教育も始まる。
今までのようにベルと休憩しながら話を聞いてやることもできなくなる。
ベルには酷かもしれないな。」
「王妃教育・・?」
兄の口から、また不穏な単語が出てきて軽く眩暈を起こしそうになった。
「ああ。
これまでと違い一日中、城で王妃教育だ。」
「一日中・・城?もしかして、ヴァイオリンを弾く時間も無くなりますか?」
「そうだな。ヴァイオリンの練習は、今のようにはできなくなるだろうな。」
(NOOOOO!!!それは、きっと無理!!王妃教育ってなに?聞いたことないし!!
しかも、ヴァイオリンの時間がこれ以上減ったら、サミュエル先生の音に遠ざかる。
折角、G線が綺麗に響くようになったのに~~!!
毎日何時間も練習してやっとだよ?
挑戦したい曲もあるのに!!
ヴァイオリン練習は減らしたくない~~~。)
「あはは。ヴァイオリンの心配か。
それに私との時間も無くなるしな。」
すぐ隣をみると、兄がお腹を抱えて笑っていた。
最近ようやく、兄の笑顔が見れるようになってきて嬉しい。
「ふふふ。それも嫌だわ。」
(兄の笑った顔は年相応に見えて可愛いよね。)
兄と談笑していると、ドアを数回ノックして、セバスがテラスに入ってきた。
セバスはこの屋敷を取り仕切る責任者なので、用件はマリーやロランである専属の従者から私やお兄様に話が伝わるのが普通だ。
それが、わざわざセバスが来たということは、緊急だという事だ。
「失礼致します。お嬢様。お見舞いにとクリストフ殿下とローベル様がお見えです。
サロンにご案内しましたので、ご準備下さい。」
「殿下が?」
指先や足が緊張から冷えていくのがわかった。
頭と身体が王子様に会うことを拒否しているように感じた。
「大丈夫か?」
兄が心配そうに顔を覗き込んできた。
「はい。」
かろうじて口から声が出た。
すると、さっきまで冷えていた左の手に温かさを感じた。
兄が手を繋いでくれていた。
「今日も、手を繋ぐか?」
「お願いします。」
いつものように、勉強が終わり、
ヴァイオリンを弾いてお茶を飲んでいると兄がテラスにやってきた。
もうすっかり慣れた距離となったすぐ隣に座る。
いつもならすぐに話しかけてくる兄が、なかなか話かけてこない。
兄は隣で何か考えこんでいるようだった。
「お兄様、どうされたのですか?」
「いや・・。婚約を白紙に戻すか?」
「え?」
兄の意外な提案に目を白黒させた。
家庭教師の先生から私と王子様の結婚は貴族の均衡を保つためにもかなり重要なもので、公爵家にとっても領民にとっても利のあるものだと、今日の授業で説明を受けたばかりだったのだ。
公爵家の事を第一に考える兄の口から飛び出したとは思えない提案だった。
「私は、あそこまでベルが動揺するとは思わなかった。
記憶を無くすというのは想像以上に精神的な負担なのだな。
私は今まで、状況を楽観視し過ぎていたのかもしれない。
ベル、すまなかった。」
まさか兄から謝られる日が来るとは夢にも思っていなかったので、驚いた。
だが、その申し出はかなり有難い。
王子様に恐怖を感じるのはもちろんだが、
自分の生活圏内があんなに広くわかりにくいお城では、生活できるとは思えなかった。
昨日お城を少し見たが、方向音痴な私には迷子になることが100%確定した未来のように思えた。
そう、100%だ。絶対に迷う。
迷子決定だ。
「やめて下さい。お兄様。
お兄様はいつも助けて下さっています。
しかし、もの叶うなら、
王子様の婚約者は辞退したいと思います。」
「そうだな。
7歳になったら城で本格的な王妃教育も始まる。
今までのようにベルと休憩しながら話を聞いてやることもできなくなる。
ベルには酷かもしれないな。」
「王妃教育・・?」
兄の口から、また不穏な単語が出てきて軽く眩暈を起こしそうになった。
「ああ。
これまでと違い一日中、城で王妃教育だ。」
「一日中・・城?もしかして、ヴァイオリンを弾く時間も無くなりますか?」
「そうだな。ヴァイオリンの練習は、今のようにはできなくなるだろうな。」
(NOOOOO!!!それは、きっと無理!!王妃教育ってなに?聞いたことないし!!
しかも、ヴァイオリンの時間がこれ以上減ったら、サミュエル先生の音に遠ざかる。
折角、G線が綺麗に響くようになったのに~~!!
毎日何時間も練習してやっとだよ?
挑戦したい曲もあるのに!!
ヴァイオリン練習は減らしたくない~~~。)
「あはは。ヴァイオリンの心配か。
それに私との時間も無くなるしな。」
すぐ隣をみると、兄がお腹を抱えて笑っていた。
最近ようやく、兄の笑顔が見れるようになってきて嬉しい。
「ふふふ。それも嫌だわ。」
(兄の笑った顔は年相応に見えて可愛いよね。)
兄と談笑していると、ドアを数回ノックして、セバスがテラスに入ってきた。
セバスはこの屋敷を取り仕切る責任者なので、用件はマリーやロランである専属の従者から私やお兄様に話が伝わるのが普通だ。
それが、わざわざセバスが来たということは、緊急だという事だ。
「失礼致します。お嬢様。お見舞いにとクリストフ殿下とローベル様がお見えです。
サロンにご案内しましたので、ご準備下さい。」
「殿下が?」
指先や足が緊張から冷えていくのがわかった。
頭と身体が王子様に会うことを拒否しているように感じた。
「大丈夫か?」
兄が心配そうに顔を覗き込んできた。
「はい。」
かろうじて口から声が出た。
すると、さっきまで冷えていた左の手に温かさを感じた。
兄が手を繋いでくれていた。
「今日も、手を繋ぐか?」
「お願いします。」
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※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)
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