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最終章

64 忍びの特技

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 地面が揺れ、爆風が吹き荒れる。

 ここは黒騎士が歴代研鑽けんさんを積んできた訓練場。数百年の歴史を持つこの訓練場が今、倒壊の危機に瀕していた。ヴァルラムが俺の無属性魔法習得のために提供してくれたこの場所は今、魔法によって多くが破壊されていた。ハレッサーのシールドでこの訓練場の他には一切被害が及ばないのが救いだ。

 ――ここは好きに使ってもらって構わない。少々の破損は気にしないでほしい。

 ヴァルラムにそう言われた俺たちは、という言葉では生温いほどの修行を積んでいた。
 全属性に加え、いにしえについえた幻の複合魔法まで習得したマイアが杖を振り上げ、高らかに声を上げた。

「レン様、お見事です!! 次、行きます!! 複合魔法、氷と雷の雨『凍雷雨アイスボルトレイン』!!」

 俺は先程までマイアが放っていた風と氷の複合魔法を避け切ったところだった。
 だが、マイアは休むことのなく新たな複合魔法を放って来た。

「ここは地獄か……? レンは化け物かもしれない。それにしても……マイアさん……ただ複合魔法を使いたいだけなのでは?」

 ハレッサーのシールドに包まれたジンバの呟きにジンバの肩に乗っているハレッサーが答えた。

「あ~~うん。そうかも~~」

 俺はというと、マイアの放つ強力な氷と雷の乱舞する中を、無属性魔法シールドと、無属性魔法の魔法攻撃無効を剣に付与して、マイアの魔法に立ち向かっていた。

 シールド魔法を使いながら、雨と雷に刃を合わせる。
 雷に刃を合わせるのは、本当に至難の業だ。

 雷だけに意識を向けると、氷の塊が飛んでくる。氷の塊は剣では無効化できなので、避ける必要がある。
 繊細な雷を斬りながら、矢のような氷攻撃を避ける。

 上忍の資格を持つ俺にとって、修行は慣れたものだが、そんな俺でもこの訓練は難易度が高かった。

「すごいですっ!! 『凍雷雨』をこんなに簡単に攻略してしまうなんて!!」

 マイアが魔法を放ちながら斜め上のことを言っている。
 全く簡単ではない。表情に出ないだけで、そろそろ限界が近い。
 一瞬でも気を緩めれば、氷の刃か、雷を浴びてしまう。こんな状況で、なんて言葉を使うのは止めてほしい。
 俺たちの様子を見ていたベルスリータが声を上げた。

「ん~~ハレッサー、私個人に、シールドをお願い!! ここを出て、レンを攻撃するわ。レン私も行く!! 私を傷つけないように……制して!!」
「あ、ベルスリータも行くんだね。わかった~~~」

 ハレッサーがベルスリータ個人にシールドをかけた瞬間、ベルスリータが正面から、弾丸のように剣を構えて突っ込んできた。

「ベルスリータ?!」

 空からは氷と雷、地上はベルスリータ。
 しかも俺は、絶対にベルスリータを傷つけることはできない!!

 俺はベルスリータを避けるという選択をしたが、ベルスリータは氷と違って避けてもまた向かってくる。
 何度も何度もベルスリータと氷を避ける。ベルスリータに当たる氷は、解けているのでハレッサーがベルスリータのシールドには火の複合魔法を使っているのだろう。

 生憎と、俺はそんな芸当はできない!!
 
「レン様~~雷と氷の感覚を早めま~~す!」

 マイアは可愛い顔でなかなか厳しい。氷と雷の雨が強くなった。

「じゃあ、私も!! 火剣!!」

 するとベルスリータも火を剣にまとった。
 ベルスリータに近づくと火剣で雷が追えない!!

「くっ!!」

 火剣を制することに集中した時だった。

「レン!! 危な~~~~い!!!」

 ハレッサーが叫んだ瞬間……俺の身体はシャボン玉のような物に包まれていた。
 どうやら、ベルスリータと氷を避けながら、雷を斬るのに夢中になって、シールドが解除されていたようだった。

「悪い……ハレッサー」

 俺はシャボン玉のような中に浮かんだまま、膝をついた。

 これが魔法を使う代償……。
 身体が重い……。

 俺がシャボン玉に入った瞬間。マイアの魔法が止まって、先ほどまでうるさいほどだった訓練場が静まり返った。

「レン!! 大丈夫?!」

 ベルスリータが心配そうな顔をして、地上からシャボン玉の中にいる俺に話かけた。

「ハレッサー、下ろしてくれ」
「はいは~~い」

 俺はハレッサーに地上にシャボン玉を下ろして貰った。
 ベルスリータとマイアとジンバが急いで近づいて来た。

「レン、そろそろ今日の訓練を終わる?」

 心配そうなベルスリータに向かって俺は呼吸を整えて答えた。

「いや、さっき何かを掴めそうだった。もう少し頼む……早く、ベルスリータのお兄さんを助けに行こう」

 ヴァルラムの話では、ベルスリータのお兄さんは自分の力の暴走を察知してどこかに隠れたのだ。
 これ以上長引かせるわけにはいかない。

 俺は、マイアを見ながら言った。

「もう少し付き合ってもらえないかな?」

 するとマイアが大きく頷きながら答えた。

「もちろんです!! 一晩中でもお付き合いいたします!!」
「一晩中……はは、頼もしいな。じゃあ、頼む。みんな」

 こうして、俺は無属性魔法を使いこなすための訓練を重ねたのだった。







――――――――――――



大変長らくお待たせいたしました。
これまで待って下さった皆様に感謝いたします。

週一更新を目指して頑張ります。
ゆっくりな更新ですが、どうかよろしくお願いいたします。

たぬきち25番



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