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第三章
55 仕上げに(1)
しおりを挟むマイアは6属性の魔法を全て使えるようになったようだ。しかも複合魔法も使えて、聖獣の加護持ち。魔法に関してはマイアが居てくれれば、問題なさそうだ。
俺が、マイアとハレッサーを見つめていると、俺の隣に立っていたベルスリータが呟くように言った。
「これでマイアが自分を責めることもないわね」
これまでマイアは自分だけが、ルトゥスアーク家の中で全属性が使えないと言っていた。忍びの世界でも秘術が使えるというのは、自分の存在意義に関わる。忍びの術は血で継承されるので、修行をすれば発現すると言われているが、発現しない場合もある。その場合、一族でもかなり肩身の狭い思いをするし、任務も選べずにつらい内容だったりする。
「そうだな」
俺は素直に頷いた。
「マイアちゃんは、本当に凄いな……これは、歴史的光景だぞ」
ジンバは興奮したように言った。おれたちがマイアとハレッサーを見守っていると、2人は話を終えたようで、俺たちの方に来た。ハレッサーは、マイアの肩から俺の頭の上に移動した。尻尾が耳に当たって少しくすぐったい。
そしてマイアは、俺たちの3人の前に立った。
「ベルスリータ様、レンさん、ジンバさん!! 私、6属性使えるようになりました!! これまで以上に皆さんのお役に立てるように頑張りますので、よろしくお願いいたします!!」
マイアの笑顔に、ベルスリータは微笑みながら答えた。
「期待しているわ」
「はい!!」
マイアがいつもより輝いて見えた。立ち姿からこれまでと違っていた。もしかしたら、マイアがハレッサーから返して貰ったものは魔導士としての自信だったのかもしれないと思えた。
「レン様、頼まれていた物できましたよ!」
マイアがベルスリータに返事をした後に俺を見ながら言った。 実は、俺が潜入している間、マイアやジンバたちに、あるものを作るようにお願いしていたのだ。
「もう出来んだ? すごいな……」
ジンバの話では時間がかかるかもしれないと言っていたので、たった1日で完成していたことに驚いた。俺がジンバの方を見と、ジンバが自信に溢れた笑みを浮かべながら言った。
「ああ。もちろんだ!! マイアちゃんの魔法と魔力が使いたい放題だったからな。レン君も驚く出来栄えになったと思うぞ」
「それは見るのが楽しみだ」
俺は、少し離れた場所にいたコルアルの元に向かった。普段はすぐに飛び立ってしまうが、今日はハレッサーがいるからか、コルアルも動かずに俺たちを下ろした場所に留まってくれていた。
俺はコルアルに話かけた。
(コルアル、例の物出来てるって)
コルアルにも作戦の話をしてしているので、俺はコルアルにも報告した。するとコルアルが俺を見ながら言った。
(そうか、ではまた私の出番だな。これから行くのか?)
今日はまだ朝日が昇ったばかりだ。動くのは夜がいいだろう。
(今夜にしよう。どうかな?)
(わかった。では、夜にここに来る。何かあれば、ハレッサーに言えば私を呼べる)
「うん!! 僕に言ってね~~~」
ハレッサーが尻尾を揺らしながら答えたが、揺れる尻尾がくすぐったい。
(ハレッサーとコルアルは連絡が取れるのか、それは助かるな)
俺がそう言うと、コルアルが翼を広げた。
(では、何かあったら呼べ)
(ありがとう、コルアル!!)
コルアルは空に飛び立って行った。飛び立ったコルアルを眺めていると、ハレッサーが楽しそうに笑った。
「ふふふ、コルアルが何かあったら呼べだって!! ふはは」
「どうしたんだ? 突然?」
俺が尋ねると、ハレッサーが頭の上から首に移動して答えた。
(いや、コルアルってさ、人にとって恐怖の対象だった時はずっと命を狙われていたしさ、人に『霊鳥フォルヴァレ』なんて呼ばれ出してからは、捕獲されそうになってさ……そんなコルアルを周りの鳥や動物も距離を取っててさ。コルアルってずっと孤独だったんだ。だから、レンと仲良くなってよかったと思ってさ)
ハレッサーは声には出さすに直接俺の頭の中に話すように言った。
コルアルと出会った時、コルアルは俺を警戒していたように思う。だが、どこか驚きの中にも興味があるという瞳を向けられた。その瞳に縋ったのはこの世界に来たばかりで余裕のない俺の方だった。
(俺もコルアルと会えてよかったと思ってるよ)
「ふふふ、あ~~レン。お腹空いたんだけど? 朝ごはん食べたい~~!!」
ハレッサーが微笑んだ後に、声を上げた。
「レン、今日の朝ごはんは何?」
ベルスリータが楽し気に声をかけてきた。
「ん~~昨日の夜は何を食べたんだ?」
昨日は俺は朝からいなかったので、みんなが何を食べたのか知らなかった。
「……スープだよ。木の実のスープ?」
ジンバが俺から視線を逸らしながら答えた。
「へぇ~~じゃあ、昼は?」
「……スープだよ。木の実のスープ?」
ジンバの答えにマイアが気まずそうに答えた。
「……あれは、木の実ではなくお肉ですが……」
「あ、それはすみません」
ジンバが急いであやまった。そして、マイアが俺を見ながら真剣な顔で言った。
「レン様の作って下さる物でしたら、なんでも構いません!!」
「そうよ、レンが作るならなんでもいいわ!!」
ベルスリータは真剣過ぎて怖いくらいだった。
(レン……作ってあげなよ……)
ハレッサーが俺にだけに言った。
「わかった。じゃあ、作るな」
こうして俺は食事を作ることにしたのだった。
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