上 下
56 / 70
第三章

54 聖獣の加護持ちの史上最強魔導士の誕生

しおりを挟む
 




 ランアデルバ国皇女護衛兼侍女、マイア・ルトゥスアーク。
 この国の魔導士で彼女の名前を知らぬ者はいない。

 魔導士の名門ルトゥスアーク家出身で、全属性は使えなくとも、強大な魔力を持つ。
 ランアデルバ国王太子、レーグルス・フュルスト・ランアデルバは、全属性が使えないからと隠されていた彼女を一早く自分の手元に置いた。そして、自分ではなく最愛の妹であるベルスリータ・フュルスト・ランアデルバの側に置いた。

 魔導士たちは表では、『全属性が使えないルトゥスアーク家の落ちこぼれ』と言いながらも、裏では彼女の魔力を恐れてた。
 誰一人として、彼女に正面から魔力で立ち向かう者など存在しなかった。

 ただでさえ、敵の彼女が……。

「あ~~マイア~~。ずっと借りてたからさ~~利子付けといたよ~~」

 ハレッサーがのんびりとした雰囲気で声を上げた。『まるで今からご飯食べようよ~』というような雰囲気だ。

「利子……ですか?」

 マイアも意味がわからなかったようで、驚いた様子もなくのんびりと答えた。
 きっと利子というから悪いことではないのだろう。
 皆、どこかのんびりとした様子で、マイアとハレッサーの話を聞いていた。

「うん。そう。僕ってさ、セガルから魔法を借りたのおかげで、無属性魔法と土属性魔法を混ぜる複合魔法を使えるようになったんだけどさ。それも付けといたから」

 ハレッサーの言葉に、マイアの顔色が変わった。

「え? 複合魔法??」
「複合魔法って……あの失われた古代の術??」

 ジンバもぎょっとしながら、ハレッサーを凝視した。
 2人の様子を見て、どうやらこれはただ事ではないということを察した。
 黙り込んでしまったマイアの代わりに、ベルスリータが口を開いた。

「複合魔法って、マイアが私の髪を乾かしてくれる時に使う魔法?」

 ベルスリータの問いかけに答えたのは、マイアだった。 

「いえ……あれはあくまで、風魔法と火魔法を同時に使っているだけなので、複合魔法ではありません」
「まぁ、普通は同時に違う属性の魔法なんて使えないんだけど……」

 ジンバが肩を落としながら言った。
 そんな3人に向かって、ハレッサーがニンマリと笑いながら言った。

「無属性魔法と土属性魔法を混ぜたらね~~」

 ハレッサーが何気なく言うと、グラグラと地面が揺れた。

「え? 何? 地震??」

 ベルスリータが俺の腕にしがみついてた。
 俺もすぐに地震に供えた。
 数秒で揺れが収まって、ほっとしていると、ハレッサーが得意気に言った。

「今のが複合魔法。土魔法の土を操る特性と、無属性魔法の空間を操る特徴を混ぜて、大地を揺らしたの」
「大地を揺らす?」

 ベルスリータが眉を寄せながらハレッサーを見た。
 ハレッサーは、「うん」と頷くと、すぐにマイアを見た。

「うん。マイアもやってみて。出来るはずだよ」
「はい」

 グラグラグラグラ。
 すると先ほどと同じように地面が揺れた。よくよく観察すると、この辺りは揺れているが小屋の辺りは全く揺れていなかった。ここから数センチ離れた木々は揺れていたが、数メートル離れた草木は揺れていなかった。

 揺れの範囲は半径3メートルくらいか……。

 俺は咄嗟にこの魔法の及ぶ範囲を把握したが、この範囲もマイアがコントロール出来るのかもしれない。

「できた……」

 マイアは自分が使えたことが信じられないと言った様子だった。
 
「凄いわ……マイア」
「ああ。こりゃ……敵に回したくねぇな」

 ベルスリータとジンバが呆然としたように言った。
 呆然としているみんなの空気を容赦なく破ったハレッサーがさらなる驚きの発言をした。

「ふふふ。出来ただろ? 実はマイアには僕が複合魔法を使えるようになった時の感覚も一緒にプレゼントしたらさ、無属性魔法と土属性魔法だけじゃなくて、水と土とか、火と無とか色んなパターンで試せるよ。好きに試してね」

 皆がハレッサーの言葉の意味が理解出来ずに戸惑っているとコルアルが言った。

(なるほど、加護を付けたのか)

「え? 加護?」

 思わず声を上げた俺に、ハレッサーが楽しくてたまらないといった様子で言った。

「そうマイアに僕の加護を付けた~~貸してくれてありがとうのお礼だよ~~」
「聖獣様の加護? 私に?!」

 マイアは目を白黒させながら、ハレッサーをじっと見ていた。

「そうそう! セガルの子孫だしね、それに、僕がセガルに魔法を借りたせいで、マイアは苦労したんだろう? マイアのためなら僕はなんでも手伝うから、困ったことがあったらなんでも言ってね」

 そう言ってハレッサーは嬉しそうに笑ったのだった。
 そんなハレッサーの笑顔につられるようにマイアも呆然としていた顔をフルフルと振って、ハレッサーに笑顔を向けながら言った。

「ありがとうございます。ハレッサーさん。ではよろしくお願いします」
「うん、よろしくね~~~マイア~~」

 全属性使用可能。
 底なしの魔力。
 失われた幻の術複合魔法使用可能。
 そして、聖獣の加護持ち。


 マイアはこの日、名実共にこの国最強の魔導士になったのだった。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,008pt お気に入り:5,624

婚約者を追いかけるのはやめました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:269pt お気に入り:5,424

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:2,607

「愛の筆跡 - Love's Imprint」

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...