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第三章

53 数奇な縁

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 ベルスリータがあいさつをして、マイアが少し考え込んだ後に頭を下げた。

「はじめまして、ハレッサーさん。私はマイア・ルトゥスアークと申します」

 きっとマイアはハレッサーのことをなんと呼べばいいのかを考えていたのだろう。『ハレッサー様』と呼ぶのは止められてしまっているので、彼女の中で『ハレッサーさん』と呼ぶことに落ち着いたというところだろうか。マイアの言葉にハレッサーが目を輝かせながら口を開いた。

「ルトゥスアーク?! ねぇ、セガルって知ってる??」
「セガル……我が ルトゥスアーク家の魔力の始祖となった者がセガルという名ですが……その者でしょうか……」

 ハレッサーの問いかけに、マイアが困ったように答えた。
 名門だという ルトゥスアーク家の始祖。随分と途方もない話だ。
 マイアの言葉にハレッサーが「ん~~」と唸った後に口を開いた。

「始祖って言われても、わかんないな~~。セガルはセガルだし。……僕の魔力とセガルと相性良くてさ。彼に魔力をたくさんあげる代わりに彼の無属性と土属性を借りたんだ」
「……え? 無属性と……土属性を?」

 マイアが目を大きく開けて固まったままハレッサーを見つめた。
 確かマイアは6属性全ての属性が使えるルトゥスアーク家の中でも唯一4属性しか使えず、一族からずっと落ちこぼれ扱いをされてきた過去があるはずだ。
 マイアが使えない属性は……。

 ――無属性魔法と土属性魔法。

 マイアが信じれないという思いでハレッサーを見ていると、ハレッサーが首を傾けてマイアに尋ねた。

「ねぇ、マイア。セガルに会えるかな? もうこの力を自分のものにしたからさ、彼から借りていた無属性魔法と土魔法を返したいんだ」

 マイアは、少し震えながら答えた。

「始祖セガルは……百年以上前に……他界しております」

 さっきまで楽し気だったハレッサーが瞳を伏せながら言った。

「あ……そうか……そうだよね……人間の生きる時間は長くないんだったね……」

 すると、後ろでずっと黙っていたコルアルが口を開いた。

(人の時は、私やお主との時間とは違う……)
「(そうだね)」

 ハレッサーは言葉に出さずに、コルアルに言った。

「始祖がハレッサーさんに無属性魔法と土魔法を貸した?」

 マイアの呟きにハレッサーが答えた。

「ああ。そうだよ。セガルに魔法を借りて、すっごく助かったんだ。だからセガルに会って『ありがとう』って……言いたかったな。セガル……」

 みんなでしんみりとしていると、ベルスリータが口を開いた。

「ハレッサー、横から口を挟むようで申し訳ないのですが、昔からルトゥスアーク家には『先祖返り』と呼ばれ、膨大な魔力を持つけれど、6属性ではなく、4属性しか使えない者が生まれると聞いたことがあります。マイアを私の護衛にする時に私はお兄様からそう説明を受けましたわ。ですから、ハレッサーは、マイアに力を返せばいいのではないでしょうか?」
「ベルスリータ様?!」

 マイアがベルスリータを見て声を上げた。
 確かに、ハレッサーが魔法を借りたせいで、子孫のマイアが魔法を使えなくて困っているのなら、マイアに返せばいい。

「ああ、そうか!! セガルの子孫に僕のせいで魔法が使えない子がいるのか!! それなら君に返そう!!」

 ハレッサーが明るい顔で言った。ハレッサーはそう言って、マイアを光の玉で包んだ。その光は少し離れた場所にいる俺の位置でもあたたかくて、さらにやわらかな光だった。
 光が収まった途端、マイアの頭上に透けた様子の1人の男性の姿が現れた。

『ハレッサー殿。お久しぶりです』
「セガル?! どうしたの??」

 ハレッサーが驚きながら尋ねた。この男性がセガルというらしい。確かに目元がマイアに似てる気がする。マイアも上を向いて驚いたように言った。

「あなたが始祖セガル……?」

 マイアの問いかけにセガルが答えた。

『子孫よ、すまない。ハレッサーが私に会えないと寂しがると思ってな。子孫の血にもしハレッサーに会えたら話ができるように術をかけた』

 術をかけた?!
 この世界で、マイアの一族ルトゥスアーク家は、魔法一家としてその名を轟かせているらしいが、まさかこんな規格外の術が使えるなんて……。
 俺は困惑しながらセガルという人物を見た。

「会いたかったよ!! 君のおかげで、洞窟を作って結界を張って穏やかに過ごせた。ありがとう」

 ハレッサーは嬉しそうにセガルに向かって話かけた。セガルもマイアからハレッサーに視線を移して、優しく微笑んだ。

『そうですか、それはよかった。ハレッサー殿。最後にあなたにお会いできてよかった』
「え? もう消えちゃうの?! イヤだよ!!」

 嫌がるハレッサーに向かってセガルが困ったに微笑みながら言った。

『そう悲しい顔をされないで下さい。例え消えても、私はずっとあなたの友人です』
「消えても……うん。そうだね!! セガルと僕は、友人だ!!」

 ハレッサーが笑顔で答えると、セガルも嬉しそうに笑った。

『ハレッサー殿、どうかお元気で』
「セガル!! 会えてうれしかった!!」
『ええ、私もお会いできてよかった』

 セガルはそう言うと、消えてしまった。

(セガルと言う者……自らの意思をハレッサーの力の中に移したのか……。人間とは思えぬ魔力量だったのだろうな……まぁ、ハレッサーの魔力を譲り受けたということだからな。可能だったのかもしれないが……)

 コルアルが、消えるセガルを見ながら呟いた。
 寿命を魔力に閉じ込める……そんなことが出来るのか……。
 タイムトラベルのような話だ。

 何がなんだかわからない様子のマイアを見ながら、ハレッサーが声をかけた。

「マイア……友人の子孫は僕にとっても大切だ。何か困ったことがあったらすぐに言ってね。君の力になるよ」
「ありがとうございます。ハレッサーさん!」

 こうして、ハレッサーからマイアに無属性魔法と土属性魔法が返されたのだった。

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