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第一章
21 学び
しおりを挟む俺はフェリスにあいさつをされて、あいさつを返した。フェリスの俺に対する『一般的なイケメン』という謎の呼び方は気にかかるが、これから一緒に旅をして行くのだ。良好な人間関係を築きたい。
「さぁ、行きましょうか!!」
ベルスリータは、すでに歩き出していた。
「そうですね~~」
マイアもベルスリータの後に続いて歩き始めた。俺も歩き出そうとした時……。
ヒュンと殺気もなく、フェリスが俺に向かって剣を振り下ろした。
ガシャン!!
俺は咄嗟に、先ほど磨いたばかりの短剣で、フェリスの剣を防いだ。見た目以上の衝撃で、腕にビリビリと電流が走ったような感覚があった。
そんな衝撃を受けたのは俺の腕だけではなかった。
フェリスの一振りで、短剣にパリッと亀裂が入ったかと思うと、つぎの瞬間……短剣は、木っ端微塵に砕け散った。砕けた短剣の欠片はパラパラと光を集めながら、地面に落ちて行った。
「やるね……イケメン君」
フェリスがニヤリと口角を上げて俺を見ていた。殺気もなく至近距離からの超重量級の攻撃。
(随分と、過激なあいさつしてくれんじゃね~か、こいつ……)
俺がフェリスを見ていると、ベルスリータとマイアの焦った声が聞こえた。
「レン?!」
「レン様?! 大丈夫ですか?!」
俺たちの一瞬のやり取りを、どうやら、ベルスリータとマイアも見ていたようで、2人は血相を変えてこちらに近付いて来た。そして、ベルスリータは、ケンカ腰でフェリスに近付き大きな声を上げた。
「ちょっと!! フェリス!! いきなり斬りかかったら危ないじゃない!! しかも、今、剣に風魔法を付与してたでしょ?! 何を考えているのよ!! レンがケガしたらどうするよの?! 偶々、避けられたから良かったものの!!」
凄い剣幕で怒り狂うベルスリータに、フェリスは両手を自分の前に出して、必死でベルスリータをなだめていた。
「ベル、お、落ち着いて。ちゃんと、イケメン君には風で防御してたから、当たっても剣を弾いたし、それに彼、偶々避けた訳じゃないと思う……」
「それでも、万が一ということもあるでしょう?! そもそも、イケメン君って何よ!! レンっていう名前があるんだから!!」
「レンね! わかった! だから、ベル、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるわけないでしょう?! そもそもフェリスは……」
ベルスリータとフェリスのやり取りを横目に、俺は砕けた剣を見ていた。先ほど、ベルスリータは『風魔法を付与した』と言っていた。俺は強度の面から短剣を選んだのだ。だが、魔法を帯びた剣がこれほどの凶器になるのなら、俺も対策を考え直さなければならない。
(魔法剣対策か……どこかで魔法についての体型的な知識を入れたいな……)
「レン様、大丈夫ですか?」
魔法対策について考えていたらマイアが俺の近くまで来て、心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。マイア」
「いえ……ご無事でなによりです……」
俺自身には、特に傷などもなく問題はなかった。だが、短剣は砕けてしまった。
(魔法剣を受けた時の勉強だと思うか……)
俺は残された短剣の柄を近くに合った石で軽く叩いて破片を全て取り除いた。これはよくある柄に刃の部分をはめ込むタイプの剣のようなので、柄だけでも鍛冶屋に行けば、引き取ってもらえるかもしれない。俺は柄をリュックに入れた。そして、立ち上がると、先ほどまでフェリスと言い合いをしていたベルスリータが、俺の左腕に巻きついて来たかと思うと、俺を見上げながら言った。
「レン、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
心配してくれたことにお礼を言うと、ベルスリータがほっとしたように「そう、よかった」と言って笑った。そして、俺の腕に巻きつきながら、フェリスに向かって言った。
「とにかく、フェリスはレンに近付かないで!! レン!! マイア、行きましょう」
「ベル!! もう、攻撃しないから、大丈夫だって!!」
フェリスが、ベルスリータのすぐ近くまで小走りで追い付き言った。ベルスリータは、俺の腕を引いて歩きながらフェリスに言った。
「不安しかないわ!!」
「大丈夫、大丈夫!! ……ところで、ベル……レンとの距離近くない? レーグルスが見たら心配する……」
「どうしてここで、お兄様が出て来るのよ?!」
ベルスリータとフェリスは、本当に仲がいいようで、お互いに言いたい放題だ。大変結構なことだが、俺としては、腕に巻きつかれるのは歩きにくいし、近くで大声で叫ばれるのは耳が痛いので、もう少し離れたところで言い合ってほしいと思いながら、今日の寝床へ急いだのだった。
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