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第一章
19 小川のほとりにて
しおりを挟む「はぁ~~水が美味しいわ~~涼しい~~~」
ベルスリータは、木陰に座って、水を飲みながらまったりとしていた。
「ホントですねぇ~~ベルスリータ様~~~川の水も冷たくて気持ちいいですよ~~」
マイアは、川に足をつけて、歩き疲れた足をアイシングしているようだった。
俺は、少々和み過ぎている2人を横目に、こちらに来てから買った短剣を磨いていた。
手に馴染んだ武器も持っているが、こちらの剣も西洋の剣と同じように重量があるようなので、盾替わりに使用するために短剣を購入したのだ。きっと剣士に短剣を盾替わりにするなどと言ったら、邪道だと言って気を悪くされるかもしれないが、俺は忍びだ。任務のためなら手段は選ばず、どんな武器も使いやすいように使う。現代の忍びである俺は武器として針から散弾銃までいざと言う時に使えるように訓練している。
(こっちの剣は、このくらいでいいな。もう一本を……ん? ……なんだ?)
俺はかすかな違和感を覚えて顔上げた。そして、それを感じた方向に神経を集中させた。
何かがこちらに近付いて来る。まだ少し距離はあるが、物凄いスピードだ。生き物だと思うのだが、チーターのトップスピードくらいの速度が出ている。
俺は、素早く短剣を足の横に仕舞いながら大きな声を上げた。
「2人共!! もの凄いスピードで何かが来る!! 今回はヤバそうだ。早くこっちへ」
2人は、「え?」と言いながら、慌てて立ち上がった。このまま2人を連れて、逃げようかとも思ったが、きっとこの速度の生き物から逃げるのは、車かバイクくらいの乗り物がなければ不可能だろう。俺はただの動物の移動かもしれないと思い、木の陰で隠れて様子を見て、いざとなったら迎え撃つことにした。
俺は素早く移動して、ベルスリータを抱き上げ、靴とマイアを抱き上げ木陰に身を隠した。マイアが、急いで靴を履きながら尋ねた。
「レン様、敵ですか?」
俺はじっと気配のする方を見ながら答えた。
「わかないけど、確実にこちらに向かってる」
「レン、凄いスピードって……動物なの?」
ベルスリータが俺を見上げながら尋ねた。
「生き物であることは間違いないから……ただ通り過ぎるだけならいいんだけど……」
「そうね」
ベルスリータが剣の柄に手を置いた。
「来た。この速度なら……5秒くらいで着く」
(5・4・3・2……)
木の陰から様子を見ていると、凄いスピードの生命体が、近づいたかと思うと、俺たちの隠れている木の前でピタリと止まった。
(狙いは、俺たちか……)
通り過ぎることを祈っていたが、どうやらそう上手くはいかなかったようだった。俺は、息をひそめて木陰で様子を伺っていると、木の向こうから明るい声が聞こえた。
「……ベルスリータ様、みぃ~~つけた!!」
ベルスリータが、眉を寄せながら小声で呟いた。
「この声は……フェリス!! ……仕方ないわね…………話をするわ」
「ベルスリータ様。お待ちください!!」
ベルスリータが木陰から出ようとしたので、俺とマイアも急いでベルスリータを守るように木陰から出ると、立っていたのは至って普通の男性だった。
バイクのような乗り物もないし、動物もいない。
俺は警戒しながら相手の出方を見ていた。すると、突然。このフェリスという男性の頭の上に、初めてベルスリータと会った時に現れた文字が浮かんで来た。
――『ベルスリータを連れ帰る』
――『このまま様子を見る』
そして『ベルスリータを連れ帰る』という文字の後に、高速で映像が見えた。最終的に、この選択肢を選んだ場合、このフェリスという男性は、銀の髪の男性が倒れている前で、激しく泣き叫び、目から光を失っていた。
一方、『このまま様子を見る』を選んだ場合は、大きな噴水の前に立って、大声で誰かを呼んでいるようだった。ベルスリータの時はすぐに一つの選択肢が消えたが、この男性の選択肢は中々消えなかった。
――迷っているのかもしれない……そう思った。
俺が思わずフェリスという男性の頭上に見える選択肢を見ていると、フェリスは軽い口調でベルスリータに向かって言った。
「ベル。やっぱりこっちを選んでいたのか……無茶な道……選ぶなよ……皆が探している。アンセルなんて、カラぺまで行くそうだぞ?」
そんなフェリスに、ベルスリータは剣の柄に手を乗せたまま答えた。
「そう、ご苦労なことね」
フェリスは、ベルスリータと距離を詰めることなく、どこか子供を諭すように言った。
「一緒に城に戻ろう、な?」
「断るわ!! それとも力尽くで連れ帰るとでも言うの? 悪いけど、フェリスと言えども全力で抵抗させてもらうわ!!」
ベルスリータは、等々剣を抜いて、剣先をフェリスへと向けた。マイアも杖を向けて臨戦態勢を取っていた。
フェリスの瞳が迷いで揺れていた。フェリスの頭上の選択肢を見ると、まだ両方とも文字が消えていなかった。
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