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第一章

9  交易都市 エニフ(2)

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 街に入ると、かなり活気に溢れていた。城門が石だったが、街中は木の家や店が所狭しと並んでいた。道は広く取られていて道の両側には露店が並んでいる。道を歩く度に威勢のいい声が聞こえて来る。

「これは、シェダル産の髪飾りだよ!! エニフじゃないと手に入らないよ」
「エニフならではのこの価格だよ。ここで買わなきゃ損したって、奥さんに叱られるよ!!」

 人々の会話から、どうやらこの街は『エニフ』と言う街だと予測できた。皆、「さすがエニフだ安い」「エニフまで来てよかった」と言いながら買い物をしていた。ふと、露店を見ると数字が書いてあったが、単位はわからなかった。ジャガイモに似た芋が一カゴ山盛り入って『3』と数字だけが書かれていた。俺はそんな光景を見ながら、隣を歩いているエルに話しかけた。

「エニフは物が安いのか?」
「ああ、そうだ。エニフは二つの街道が交わる交流地点だ。交易の街としてわざわざ王都から貴族も買い物に来るんだ」

 コルアルの背に乗ってここに来た時、街道の交わった地点、高速道路でいうとジャンクションのようになっているように思ったが、その読み通りここは、交易の都市のようだ。買い物には好条件だ。ここで必要な物を揃えた方がいいだろう。大きな通りを歩いているとすぐに換金所を見つけた。皆、美しい織物などと硬貨を交換していた。

(換金するか……)

 俺が換金所をじっと見ていると、エルが眉を下げ俺の耳に口を寄せながら言った。

「レン、こっちだ。バロの礼に、いい店連れて行ってやるって言っただろう? 変な店に入ると、正当な評価をしてもらえないからな。その点、テラさんの店なら安心だ。貴族様の鑑定まで請け負ってるからな。腕も信用もこの町一だ」
「そうなのか、助かる」

 短い付き合いだが、エルは兄貴肌で面倒見のいい人物だと言うことはわかった。それに兵士だけではなく先ほどから様々な人に声をかけられ、慕われている人物のようだった。
 エルは表通りにある高級感漂う換金所の前をスルーして、裏路地にある看板も何もない場所で止まり、バロの手綱を木の柵に結ぶと、店を指差しながら言った。

「レン、ここだ」

(看板もないのか……まるで一見さんお断りの店みたいだ……この店を自分で見つけるのは至難の技だな)

 俺が店を見ていると、エルは扉に手をかけた。

「テラさ~ん、お客さん」

 そしてエルは戸惑うことなく扉を開けると店に入った。すると壮年の男性がルーペのような物を目に当てて鑑定をしているようだった。どうやら彼がこの店の鑑定士のようだった。

「お? エルか……換金か? 鑑定か?」
「換金だよ。恩人なんだ。頼むよ」

 エルが笑うと、鑑定士は困ったように言った。

「まぁ、正当に鑑定するしか出来ないがな」
「それでいいよ」

 エルが俺を見て微笑んだので、俺はポケットからネックレスを取り出して、テラと呼ばれた鑑定士の前に置いた。

「お願いします」

 テラは金のネックレスを持ち上げると、興味深そうに俺を見ながら言った。

「金のネックレスか…重さも何も混じっていない純金の重さだな……お前さん、出身はどこだ?」
「チーカ村だよ!!」

 俺ではなく、変わりにエルが答えた。

「チーカ村か……たまに鑑定依頼があるが……あの村から来る物はいつも独特なんだよな……」

 テラはそう言うと、真剣な目つきで鑑定を始めた。重さで純金を見分けるのは見事だと思った。俺たち忍びは金の商品を購入する時に必ず計りを持参するようにしている。全ての店がそうではないが、中には計りに細工をしている店もあるのだ。

(この人信用できそうだな)

 エルと2人でじっと待っていると、テラが顔を上げた。

「ちょっと時間くれ。エルはもう戻っていいぞ」
「そう? じゃあ、戻ろうかな~」

 エルは俺を見ながら爽やかに笑った。

「じゃあ、レン。ありがとうな」
「ああ、こっちこそありがとう、エル」
「帰りも気を付けて帰れよ!! じゃあな!!」

 俺たちは互いにお礼を言い合うと、エルはテラの店から去って行った。俺は店に置いてあった木の椅子に座って待つことにした。表通りは賑やかだったが、ここは小さな通りだからか、とても静かだった。店の中を見渡して、俺はこの世界の木造建築の技術力の高さに感心した。外観はそれほど大きくはないが内部は異人館のような雰囲気だった。窓から見える場所は馬車置き場のようで、馬車置き場を完備している辺り、貴族御用達というのも本当なのだろう。裏通りなのに整備された道を眺めていると、テラが顔を上げた。

「これは、困ったな。随分といい物だ。鑑定料を引いて、これでいいか?」

 俺の目の前に、多くの硬貨が差し出された。見ると、全て500パールと書かれていた。これは500パール硬貨のようだった。正直に言うと、俺にはこの貨幣価値がわからないが、先ほどの露店で売られている品物の値段を見る限り少なくはなさそうだった。俺は数枚の硬貨をすぐに出せるようにズボンのポケットに入れ、残りをシャツの中に来ていた防弾チョッキでもあり、隠しポケットでもあるベストの中にしまった。

「助かったよ、ありがとう」

 俺がテラにお礼を言うとテラがニヤリと笑った。

「また何かあったら持って来な。こんないいものなら大歓迎だ」
「ああ、じゃあ、機会があったらまた頼む」

 俺はそう言って、テラの店を出た。

(500パール硬貨か……パールが単位なのか? 服が買えるかどうか、服屋に行ってみるか)

 俺は無事に換金を済ませて次の店に向かった。

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