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第一章 幸せが約束された未来

13 友人たちとの時間(2)

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 呆然と走り去ったゲオルグを見ていると、エカテリーナが呟くように言った。

「まさか、あの子がシャルロッテが婚約したこと、知らなかったなんて……」

 そう言われてみると、エカテリーナには報告したが、ゲオルグは丁度、乗馬の訓練中で、その日は途中から一緒に遊んだ気もする。

「ゲオルグは、乗馬の訓練中で、伝えてなかったかもしれないわ」

 私の言葉に、エカテリーナが大きな溜息をついた。

「なるほど、自分だけ知らされてなくて、仲間外れにされたと思って拗ねたのね……はぁ~~最近少し成長したと思ったのに……まだまだ子供ね。弟が失礼な態度を取ってごめんなさいね。シャルロッテ」

「私も、伝えなくてごめんなさい。仲間外れにされたら、誰でも怒るわよね」

 ずっと一緒に遊んでいた友人の中で、自分だけが知らされておらず、こんな形で知れば、誰だって気分が悪いだろう。

(たぶん、私もハンスとの婚約が決まって戸惑っていたんだわ)

 冷静ではなかった自覚があるので、ゲオルグには本当に悪いことをしてしまった。
 私が落ち込んでいると、エカテリーナが困ったように微笑むと私の肩に手を乗せた。

「まぁ、次に会う時までには機嫌は直っていると思うわ。それより、ぜひ、伯爵家にお邪魔するわ」

「ありがとう。エカテリーナ……ゲオルグには帰って手紙でも書くわ」

 私はなぐさめてくれているエカテリーナを見上げて言った。

「ありがとう、助かるわ」

 それから、私はエカテリーナに見送られて、侯爵家の馬車で家に戻った。
 いつもは、見送ってくれるゲオルグの姿が見えなくて、私は胸の奥に痛みを感じた。


☆==☆==


「あ~~そりゃ~お嬢……早急に、詫びを入れた方がいいですね」

 キッチンで、ジャガイモの皮をむいているエイドの隣に座って、私は玉ねぎの皮をむいていた。

「やっぱり、そうよね……」

「ええ。俺だって、エマとお嬢から仲間外れにされたら、拗ねますよ。全力で」

 エイドは器用に小刀で皮をむきながら言った。

「うう~~。そうよね。すぐに手紙を書くわ!!」

 私が立ち上がると、エイドがジャガイモの皮をむくのを止めて私を見上げた。

「今から、行きますか? 詫び入れに。こういうのは早い方がいいでしょ?」

「ええ?? だって、食事の準備は??」

 エイドはニヤリと笑った。

「馬車じゃなくて、馬を飛ばせば、すぐに戻れますよ。少々獣道ですが、最短で行ける道知ってますし♪」

 私は、エプロンを外すと、エイドに向かって頭を下げた。

「エイド!! お願い!!」

 エイドがエプロンを外しながら二カッと笑った。

「行きましょう!! お嬢!!」

「ええ!!」

 こうして、私はエイドと一緒に馬で、侯爵家に向かうことになったのだった。

☆==☆==

「お嬢、大丈夫ですか?」
 
 私とエイドは馬に乗って、高速で森の中を移動していた。私はエイドの前に乗せられている。いつも馬車だったので、馬の上は新鮮だった。

「うん。すごく早いけど」

「でしょ? さて、大丈夫なら、お静かに。舌を噛みますからね」

「はい」

 森の中を移動していると、ここがどこなのか全くわからないが、侯爵家の屋敷が見えてきた。

(あ、見えた!!)

 もうすぐ、侯爵家と言うところで、数人の衛兵を見つけた。
 よく見ると、数人の衛兵と一緒にいるのは、ゲオルグだった。まさか、屋敷の外で出会えるとは思わなくて驚いてしまったが、ここで会えたことが嬉しくて、急いでエイドに声をかけた。

「エイド!! あそこ、ゲオルグがいるわ!!」

「ああ、何かの稽古中ですかね?」

 私は、大きな声を上げた。

「ゲオルグ~~~!!」

 すると、ゲオルグがこちらに気づいて大きく目を開けた。

「シャルロッテ?!」

 私たちは、ゲオルグの近くで馬を止めると、エイドが馬上から私を降ろしてくれた。

「こんなところで、何をしているんだ?」

 ゲオルグが慌てて、私の方に駆け寄ってくれた。
 私は、唖然としたゲオルグの顔を見ると、急いで頭をさげた。

「ゲオルグ、本当にごめんなさい」

「……え?」

「お友達から、自分だけ大切なことを知らされてないなんて、イヤな気持ちになるのも当たり前だわ。
 でも、秘密にしようとか、仲間外れにしようと思ったわけではないの。それは信じて!! 本当にごめんなさい!!」

 私は頭を下げたまま、緊張しながらゲオルグの言葉を待っていると、ゲオルグが呟いた。

「仲間外れ……?」

 私は、思わず顔を上げてゲオルグを見た。するとゲオルグが眉間にシワを寄せて、口をへの字にして、難しそうな顔をしていた。
 そのまま、私を見つめた後に、大きな溜息をついた後に、呟いた。

「なるほど……あの態度は、そう思われるわけか……それは遺憾だな」

「遺憾……」

 やはりゲオルグは、怒っているのだろうか?
 恐る恐る見ていると、ゲオルグが私を見て真剣な顔をした。

「シャルロッテ。俺は、いい男になることにする」

 一体これは、なんの宣言なのだろう?
 だが、怒っているという雰囲気ではない。

「ゲオルグ、それは素晴らしいことだと思けれど……怒っていないの?」

「ああ。怒っていない。だが……俺はしばらく忙しくなるから、シャルロッテには会えなくなるかもしれない。だが、これだけは知っていてほしい。俺はシャルロッテが嫌いなわけではない」

 会えなくなるのは寂しいが、嫌われていないのなら、また一緒に遊べることもあるだろう。

「わかった。許してくれてありがとう!! ゲオルグ!! またね!!」

「ああ、またな!!」

 ゲオルグに許して貰えて、私は、急いで馬の近くで待っているエイドに駆け寄った。

「エイド~~、ゲオルグに許して貰えたよ~~」

「おお!! そいつはよかった!! じゃあ、すぐに帰って、『具材控えめ、愛情たっぷりスープ』を完成させましょうか、お嬢!!」

「ええ!!」

 私はエイドに抱き上げられて、馬に乗ると、こちらを見ていたゲオルグに手を振った。
 すると、ゲオルグも手を振り返してくれたのだった。私は嬉しくなって、上機嫌で家に戻ったのだった。





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