上 下
13 / 97
第一章 幸せが約束された未来

12 友人たちとの時間(1)

しおりを挟む




「会いたかったわ!! シャルロッテ!!」

「エカテリーナ!! 私も会いたかったわ」

 侯爵家の馬車で、エカテリーナの屋敷に向かうと、エカテリーナとゲオルグが迎えてくれた。

「シャルロッテ、久しぶりだな」

 エカテリーナに抱きしめられた後に、ゲオルグが手を差し出してくれたので、私も嬉しくなって、ゲオルグの手を握った。

「うん! 本当に久しぶりだね、ゲオルグ」

 あれから私たちは、何度も遊ぶうちに仲良くなった。
 少し前までは、週に一回くらい一緒に遊んでいたが、今日は半月ぶりくらいの再開だった。
 3人でたわいもない話をしながら、サロンに向かった。

「ふふふ、聞いて! ゲオルグったら、あなたにチェスで勝てるようになるためにって、毎日寝る前にチェスの勉強をしてるのよ!!」

 エカテリーナが嬉しそうに笑うと、真っ赤な顔をしたゲオルグが大きな声を上げた。

「姉さん!! 余計なこと言わないで下さい!!」

「私も時間のある日は、エマと一緒にチェスをしているわよ。エマには全然勝てないけど……」

 毎日ではないが、私もよくエマとチェスをしている。
 昔から、かくれんぼや鬼ごっこをしてくれるのは、エイド。
 刺繍を教えてくれたり、チェスをしてくれるのがエマなのだ。

「シャルロッテが全然勝てないなんて……エマって何者なの??」

 エカテリーナが首を傾けながら言った。

「ちなみにエマには、お母様も、エマにチェスを教えたお父様も、『もう勝てない』っておっしゃっていたわ。だから、私が強いのはエマに色々と教えて貰っているおかげだから、私が強いわけじゃないのよ」

 するとゲオルグが顎に手を当てて「ん~」と考えた後、口を開いた。

「では、私と一緒に強くなる方法を考えて、エマに勝てばいい。どうすれば強くなれるか考えよう」

「うん!! 楽しそう!!」

 私が同意するとエカテリーナが「くすくす」と笑いながら言った。

「本当に、あなたたち2人と一緒にいると飽きないわ。
 いいわ。私も侯爵令嬢よ。将来チェス好きな旦那様が出来た時のために、あなたたちと一緒に強くなるわ」

「姉さん、チェスが強くなるのに侯爵令嬢は関係ないんじゃ……」

 ゲオルグが小声で呟くと、エカテリーナがゲオルグに顔を寄せながら言った。

「何を言っているの? 私は、将来、高位貴族の方々に嫁ぐ可能性があるのよ?
 皆様、チェスは嗜んでいるでしょう? あまりにも出来ないのでは、恥ずかしいじゃない!!」

「はいはい。じゃあ、姉さんも頑張って」

「もちろんよ」

 こうして、私たちはいつのもように楽しい時間を過ごしたのだった。

☆==☆==

 ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。

 楽しい時間が過ぎるのは本当に早い。
 もう、帰る時間になってしまった。

「あ、もう帰る時間だわ」

「本当に、時間が過ぎるのが、早いわ……また、遊びに来てね。シャルロッテ!!」

 エカテリーナが私の手を握りながら言った。

「うん……あ!!」

 私は、ハンスに言われたことを、エカテリーナとゲオルグに伝えることにした。

「あのね。エカテリーナ、ゲオルグ。今度は、ホフマン伯爵家でお茶をしてはどうかって」

「ああ、それは楽しそうね」

 エカテリーナは嬉しそうに笑って受け入れてくれたので、ほっとしていると、ゲオルグが眉間にシワを寄せながら尋ねてきた。

「なぜ、ホフマン伯爵家でお茶を?」

 すると私の代わりにエカテリーナが答えてくれた。

「それは、シャルロッテが普段お世話になっているお屋敷だからでしょ?」

「まさか、もう奉公に出されているのか?! シャルロッテは、まだ幼いのに!!」

 奉公?!

 確かに、私たちのような下位貴族は奉公に出ることもあるが、大体は貴族学校を卒業してから奉公に出る。さすがに私たちの年齢で奉公に出ている令嬢はいない。
 だから、まさか奉公先と言われるとは思わなくて、私の方が驚いてしまった。

「違うわ。誤解よ、ゲオルグ!!」

 私が否定すると、エカテリーナが説明してくれた。

「ちょっと、ゲオルグ。何言っているのよ。ホフマン伯爵家は、シャルロッテの婚約者の家よ。奉公ではなく、勉強に通っているのよ」

「え……婚約? 誰が? 誰と?」

 急にゲオルグの顔から表情が抜け落ちて、呆然とエカテリーナを見ながら尋ねた。

「シャルロッテが、ホフマン伯爵子息とに決まってるでしょ?」

 エカテリーナがゲオルグの問いかけに答えると、ゲオルグが泣きそう顔でエカテリーナに向かって怒鳴りつけるように言った。

「それ、本当なのか? シャルロッテが婚約って!! 俺、聞いてない!! 嘘だろ?! 婚約だなんて!! 俺たちまだ7歳だぞ?! 早すぎるだろ!! どうせ、婚約者候補ってだけだろ?!」

 するとエカテリーナが驚いた顔をした。

「ちょっと、ゲオルグ何をそんなに怒っているの?? それにシャルロッテは、ホフマン伯爵子息の婚約者候補ではなく、正式な婚約者よ。失礼なことを言うのはやめなさい!!」

「嘘だ!! 俺は認めない!! こんな……の……」

 ゲオルグは、バタンと扉を大きく開けて、部屋から走り去って行った。

 私とエカテリーナは、しばらく呆然として、ゲオルグが開け放って行った扉を見つめたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです

冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。 あなたを本当に愛していたから。 叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。 でも、余計なことだったみたい。 だって、私は殺されてしまったのですもの。 分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。 だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。 あなたはどうか、あの人と幸せになって --- ※ R-18 は保険です。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

処理中です...