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プロローグ

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「……シャル……すまない……君との婚約を……破棄したい」


 私は、シャルロッテ・ウェーバー子爵令嬢。

 目の前にいるのは最愛の人、ハンス・ホフマン伯爵子息。
 黄金色の髪に陽の光が反射すると、とても綺麗で私はいつも憧れていた。深いエメラルドグリーンの瞳に優しく見つめられる時間が、愛しいと思っていた。

 だが、ハンスの美しい瞳は、臥せられ、私と目を合わせようともしない。
 眉を寄せ、苦しそうに右手で自分の左腕を押さえて震えていた。
 これは、ハンスがつらい時にする癖だ。


――それほどつらそうなのに、なぜ、婚約破棄をするの?

 心の中で問いかけてみたが、言葉には出来なかった。

 私は目を閉じて、この世で一番大好きな人からの言葉を噛み締める。


 『君との婚約を……破棄したい』


 ――イヤだ……。婚約破棄したくない!!

  
 初恋で、ずっと私の世界の中心だった人。

 努力が足りなかった?
 私の態度に問題があったの??

 ……何が悪かったの?

 考えてみてもわからなかった。


――ずっと、大好きで頑張ってきたのにな……。


 婚約を破棄する相手への想いを、未だに凍らせることの出来ない自分に嫌気が差した。

 ゆらゆらと揺れる美しい翡翠のような瞳には、すでに私は映っていないというのに……。
 過去にどれだけ『好きだ』『愛している』と言われたところで、きっともう、元の関係には戻れないのだろう。


――あれほど『好きだ』と言ってくれたのに、本当に終わるの?


 往生際悪く、あがいて縋りつこうとしている自分を、必死に押さえつける。
 ハンスはこう見えて、慎重な人だ。
 遊びや一時の迷いで、婚約破棄を口にしたわけではないだろう。


――ずっと、一緒にいたい!!


 心はそう叫んでいるが、ハンスが一度決めたことを覆すことはないだろうな、と納得している自分もいた。
 幼い頃から、彼だけを見ていたのだ。

 だからこそわかってしまう。

 ハンスが再び私を見てくれることは、ないのだろう。

 


 目の前が霞んで、ハンスの顔が良く見えない。
 どうしてだろう。


 私はゆっくりと息を吐いて、愛しい人を見つめた。


「……婚約破棄を……受け入れます」

 
 こうして私は、この世で一番大好きで、この世で一番愛しい人との婚約破棄を受け入れた。






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