婚約破棄までの七日間

たぬきち25番

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番外編

お気に入り500感謝SS【アルベルトSIDE】

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感謝SS第一弾はアルベルト殿下SIDEです。
カルラとの出会い編です。

どうぞ







――――――――――――







「それではアルベルト殿下、ご確認下さいませ」
「ああ。ではこちらも頼む」

 私とロゼッタは、公務の打合せをしていた。今回は4事案を私たちが担当することになり、そのうち3件をロゼッタが草案を作り、1件を私が作ることになった。今は互いの作った草案を確認しているところだった。

「すまない、ロゼッタ。ここはなぜこのようなことをするのだ?」
「こちらは、数ヶ月前にリガル国で導入され、大変良い結果をもたらしたので、我が国にも採用しようと思いました」
「数ヶ月の事案……そうか。では、ここはなぜだ?」
「こちらは……」

 結局私は、説明を受けてもロゼッタの草案の意味がわからないことが多かった。

「アルベルト殿下。これは、この問題に対処できません。こうされた方がよろしいかと」
「ふむ……」
「ここを変えますと、ここにも問題がありますので、こちらも……」

 その後、ロゼッタが私のまとめた草案を添削した。

「これで問題ないと思います」

 結局私の作った草案は、始めに作った物と全く違う物になってしまった。

 私の案などどこにも残っていないな……。

 自分が未熟だから仕方ないのだが、『始めから全て彼女が作ればいい』そう思って卑屈になる自分に気付いて首を振った。

 いけない。これは公務なんだ。

「では、これを提出しよう。フォアルド頼んだ」
「……かしこまりました」

 ロゼッタが、書類をフォアルドに渡しながら尋ねた。

「次の依頼は届いているかしら?」
「届いておりますが、こちらは本来ロンド公爵が行った方がよろしいかと……」

 ロンド公爵の案件ということは貴族の利権関係だ。かなり厄介そうだ。

「見せてくれる?」
「……かしこまりました」

 ロゼッタは書類を受け取っていつもと変わらぬ表情で答えた。

「ロンド公爵は現在、国境付近の堤防の利権の調整で多忙を極めているわ。この件急ぎのようだし、こちらで対応致しましょう。大丈夫です」
「かしこまりました」
「アルベルト殿下、次はこちらですわ」

 書類を見たが、細かすぎて全くわからない。

 これをやるのか……。

 私は、げんなりとしてロゼッタを見たが、ロゼッタはいつも通りだった。

 やはり、私は努力不足なのだろうな……。

 私はロゼッタに気付かれぬように息を吐いた。

 ロゼッタと私は生まれた時から共に育った。ロゼッタの方が半年ほど早く生まれたが、ほとんど同時期だったので、私の記憶にはいつもロゼッタがいる。
 私とロゼッタは物心ついた時からいつも一緒に遊んでいた。
 その流れで私が帝王学を学び始めるのが7歳からなので、ロゼッタも試しに王妃教育を始めたところぐんぐん覚えるので、すぐに本格的な王妃教育に入った。ロゼッタはとても聡明で、本来なら13歳から18歳の5年間で行う王妃教育を7歳から始めたのだ。

「アルベルト殿下。私は無事に王妃教育を終えました。ですので、これからは殿下をお助け出来るように帝王学も学びます」

 私たちが10歳になった時、ロゼッタは信じられないことに大人でも学ぶのが大変だと言われる王妃教育を終えた。そして、私を助けるために帝王学を学び始めた。

「凄いじゃないか!! ロゼッタ!! これから一緒に頑張ろうな!!」
「はい。よろしくお願いいたします」

 その時の私は単純に嬉しかった。一人で孤独に学んでいた帝王学を共に学ぶ仲間が出来たのだ。それにロゼッタと一緒なら絶対に楽しいと思ったのだ。

 だが――それが私の苦悩が始まりだった。

「ロゼッタ嬢は、ここまで結構です。お疲れ様でした。……殿下、ロゼッタ様はもうここまで覚えておいでですよ。殿下ももう少し頑張りましょう。殿下の方が先に勉強を始めたのですから」
「わかっている」

 私はロゼッタよりも3年も早く帝王学を学んでいるのに、数ヶ月でロゼッタに追いつかれてしまった。1年も過ぎるとロゼッタについていくことがやっとになって、15歳の時にはロゼッタとは天地の差が生まれてしまった。
 ロゼッタはその頃には帝王学も学び終えて、随分と専門的な知識まで身に着けていった。
 帝王学は18歳までに終えることになっているが、ロゼッタは15歳で帝王学を学び終えて、私は結局17歳までかかってしまった。

「アルベルト殿下。こちらの案件は私が草案を作ります。よろしいでしょうか?」
「ああ。頼む」
「かしこまりました」

 私にその件は無理だ……そう思った。だが、少しでも理解できるように私も様々な者の意見を聞いたり、書物を読んで書類の内容を検討することにした。

 やはりわからなかったな……。

 ロゼッタに任せっきりにするとまたしても意味が全く分からなくなるので、私なりに調べた結果、3日ほど満足に寝れずに、私は学園に向かった。
 16歳で入学して、一年が過ぎて17歳になり、座学から実技の授業が増えてきた。今回の授業は異性とのお茶の嗜み方という授業だった。授業は成績順で女性のトップが男性の最下位の者と組み、男性のトップが女性の最下位の者というシステムだ。
 私は男性のトップだったので、クラスで最下位の令嬢と組んだ。
 座学で知識として学んでいるので、そう指摘する点もないだろうと思っていた。

 ああ、酷いな。きっと注意点だらけだろうな。

 ところが私の相手のライ伯爵家の令嬢は、手順は合っていても所作には優美さの欠片もなく、会話も片言。正直にいうと貴族令嬢としては全く話にならなかった。
 私は今後、この令嬢とペアを組むことになる。

 この令嬢は今後、社交界に出て大丈夫なのだろうか?

 私が本気で心配していると、教師が今日の授業の注意点を書いた紙を彼女に渡した。

「カルラ嬢、どうぞ」
「ありがとうございました」

 案の定、紙を埋め尽くされるほどの注意点が書かれていた。私の紙には当たり前だが『問題なし』と書かれていた。教師の去った後に私は令嬢に話かけた。

「随分と注意を書かれているようだが……そのようにたくさん書かれて恥ずかしくないのか? もう少し努力してはどうだ?」

 令嬢は、口の端をピクピクとさせて怒りを誤魔化しながら笑顔で答えた。

「御言葉ですが、殿下。私は昨年しっかりと学び、座学では合格を頂きました。私は学ぶためにこの学園に入っております。初めての実践の授業で、悪いところを指摘して頂いたということは、悪いところを知れたということです。確かにマナーを知らぬままに卒業したら恥ずかしいかもしれませんが、現時点で知らなくても恥ずかしいということはありませんわ」

 あまりにも堂々と出来ないことは恥ずかしいことではないと言い切る令嬢に私の方が困惑してしまった。

「だが……座学でも学んでいるだろう?」
「確かに学んでおりますが……。知識で得たことを実践できるかは、別だと思いますし、一度で全て完璧にできる人なんていません。だからこそ何度も授業があるのではないでしょうか」

 一度で全てを覚えられる人間はいない?
 そんなことはない。
 ロゼッタなら覚えることが出来る。

「そうとも限らない。一度で全てを覚えられる人間はいる。一度で完璧に覚えられるように努力すべきだ」

 私が声を上げると、令嬢は眉を寄せて怪訝な顔をした後に口を開いた。

「殿下……大変失礼かと思いますが、学園では皆同じ生徒ということで、無礼な発言をお許しいただけますか?」
「……許す」
「それ、努力の方向間違っていると思います……ここは学びの場ですよ? なぜ、一度で完璧に出来なければならないのですか? 初めてなのですから出来るまでやればいいのではないでしょうか? 最終的に出来るようになればいいのではないですか?」

 ――最終的に出来るようになればいい?

 私は、思わず声を上げていた。

「最終的とはいつだ!! 一度で完璧に出来なければ、何も進まないではないか! 一度で完璧に出来なければ許されないのだ」
「殿下、いかがされました?」

 私の声を聞いたクイールが慌てて近付いて来た。そして、少し遅れてエディも近くに寄って来た。
 令嬢は呆気に取られた後に、気まずそうに口を開いた。

「あの……殿下。気軽にこんなことを言うのは問題かもしれませんが、このあとはお時間がありますか? まず私に殿下の考えている『完璧』とは何かを教えていただけませんか? そうでなければ、そのご質問には答えられませんし……それに……現時点で、私には殿下のおっしゃる『完璧』は幻想に思えるのです」
「無礼な!!」

 クイールが慌てた様子で言った。

「何があったのか存じませんが、カルラ嬢。言葉にお気を付け下さい」

 エディが笑っていない目でカルラを見ると、カルラも笑っていない目でエディを見ながら言った。

「何があったのかわからない状況で安易に口出しするのですか? 私は殿下と授業についての話をしておりましたの。言葉に気を付けるのはそちらではありませんかぁ~?」
「へぇ~言ってくれますねぇ~面白い」

 ライ伯爵家の令嬢は無謀にも宰相家のエディに随分と強気な態度だった。

「ふっははははは」

 私は可笑しく思わず笑ってしまった。

「殿下が笑われて?」
「殿下……どうされました?」

 エディとクイールが笑っている私を見て慌てていた。それもそうだろう。私もここ数年笑った記憶がない。

「はははは。悪い。はははは」

 私が笑っている姿を伯爵令嬢とエディとクイールが唖然としながら見ているが私も笑いを止められそうになかった。

 その後しばらく笑った後に、私は目に浮かべた涙を拭いながら言った。

「あ~カルラ嬢だったか? この後時間はある。少し話そう」

 カルラは唖然としたあとに、はっとしたような顔をして答えた。

「ぜひ」

 それから私たちは、4人で話をするようになったのだった。




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