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真・第七章 新生チーム結成、真実への船出
296 風向きが変わる時(1)
しおりを挟むフィルガルドは自分の部屋に戻るとソファーに座り込んで頭を抱えた。
「クローディアは私を守るために、あのような振る舞いを……?」
フィルガルドはただただ混乱していた。
エリスがイドレ国と通じていた可能性があることは少なからず驚いたが、常に裏切りや陰謀の渦巻く城で生きてきたフィルガルドの心に波風を立てるほどではなかった。
それよりも……
クローディアはフィルガルドを守るために心を殺して我儘な令嬢を演じていたと言っていた。
(では、いつも私にべったりとくっつき側に居て欲しいと言って甘えていたのは演技だったというのか?)
そう、フィルガルドが先ほどの話を聞いて一番、衝撃を受けたこと……
それは――自分に嫉妬してくれて我儘に振舞っていたクローディアの嫉妬心が演技だった、ということだ。
フィルガルドは、クローディアが王妃としての資質がないと周りに言われてとても困っていた。
なんとか、彼女を皆に認めさせたいと必死だった。
何度かクリスフォードに『クローディアとの婚約を取り止めたらどうか?』と助言を受けた。
クリスフォードの助言は素直に受け入れてきた彼は、どうしてもクローディアと婚約を取りやめることだけは頑なに拒んできた。
クローディアを安心させるために、貴族が口出せないような功績を得るために研究に没頭した。彼女の信頼をえるために、『クローディア』というバラを作った。彼女を守るためにガルドの過酷な訓練に耐えて……強くなった。
それは……
クローディアほどの女性が、なりふり構わず周りに対して嫉妬をしてくれるくらい自分に想いを寄せてくれることが嬉しかったのだ。
殺伐とした王宮で、クローディアの想いだけが……フィルガルドの孤独を癒し、支えていたのだ。
だから周囲からの評判がどうであれ、クローディアを手放すつもりはなかった。
心から――大切に守りたい……と、そう思っていた。
だからフィルガルドは何年も、何年もクリスフォードの『他の女性を婚約者に』という助言を拒み、クローディアが王妃として相応しい女性になってくれることを期待した。
そんな中、クローディアが王妃に相応しくないから排除しようという、クローディアの暗殺の動きがあると聞いた。
さらに、ダラパイス国の王からもクローディアの暗殺計画があることを知った。
フィルガルドは焦った。
いくら自分を想ってくれていても、このままではクローディアを守れない。
何度も何度も説得したが、全く変わらないクローディアに、フィルガルドは身の心も疲弊し限界を感じて、クローディアを手放すことにした。
だが、それは……クローディアの望んだことだったのだ。
自分への嫉妬は、互いを守るための嘘で……クローディアの想いではなかったのだ。
(だからエリスとの結婚を打ち明けた時、あれほど簡単に受け入れたのか……クローディアの望んでいたことだったから……)
絶望が……
フィルガルドの心を浸食していく。
暗く淀んだ想いがインクをこぼしたように……心が黒く染まる……
哀しみ……そんな生温い想いではない。
裏切り……そんなことで割り切れる想いでもない。
怒り……そんな原始的な感情で片付けられるほどの想いでもない。
身体から力が抜け、思考する力、動く力……全てを根こそぎ奪っていくような……そんな空虚さ。
この感情を人は何と呼ぶのだろうか?
モウ……何モカモ……ドウデモイイ……
何モ……イラナイ……
何モ……信ジナイ……
何モカモ捨テテシマエバ……
瞳の奥に暗い闇を宿し、無言で一点を見つめるフィルガルドの前に、湯気の立つカップが置かれた。
「……」
フィルガルドがゆっくりと顔を上げると、レガードがお茶を置いてくれていた。
フィルガルドがじっとレガードを見つめると、レガードが口を開いた。
「昔、家同士が敵対しているにもかかわらず、愛し合った男女が結ばれ、彼らを取り巻く人々が争い、最後、愛し合う二人が死に別れることになる悲劇を鑑賞したことがあるのですが……」
フィルガルドが彼らしくなく自嘲気味に言った。
「……私たちがその――悲劇を演じていると言いたいのか?」
レガードは少し考えた後に言った。
「はい。そうです」
レガードがあまりにはっきりと口にしたので、フィルガルドは驚いて目を大きく開けてレガードを見つめた。
そして、しばらく無言だったフィルガルドが無表情で言った。
「はっきり……言うな……」
レガードがフィルガルドの前に座りながら言った。
「すみません、ですが……このままでは確実に悲劇になる気がします」
フィルガルドは怪訝な顔でレガードを見つめた。
「このままでは?」
レガードが真っすぐにフィルガルドを見ながら頷いた。
「はい。このままでは」
レガードはそう繰り返すと再びフィルガルドを見つめた。
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