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真・第七章 新生チーム結成、真実への船出

285 霧が晴れる時(4)

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 ――ハイマ王家に国外の血を入れるのを反対していた者たち。

 身体の血が高速で動き出すような感覚、心臓が痛いほど大きく脈を打ち……眩暈がする。

 そんなロウエル元公爵の言葉で、身体に異変があったと思った次の瞬間、頭の中に砂嵐のような映像が見えたと同時に見知らぬ男の声が響いた。

『こいつが……確かに……色が違うな……』

 すぐに途切れた映像と音声。

 何? 
 今の……

 まるで、古い映画のワンシーンを見せられているように脳裏に現れる。
 そして、今度はディノの言葉……が心に浮かんで来た。

 ――ではなく、の間違いでは……

 私の態度ではなく、存在が疎まれている?

 そう認識した瞬間、頭に砂嵐の映像と共に声が響いた。

『こいつが……波風……気の毒なだな』

 また?
 何か……見えた……

 そして次の瞬間、再び頭の中にまるで砂嵐のように映像が流れ、音声が途切れ途切れに頭に響いた。

 白黒映画のように頭の中で再生される映像……
 映像の中は暗くて冷たい部屋で、私は床に転がされて両手、両足を縛られて転がされていた。
 映像なのに冷たさや、腕を縛られた痛み、そして匂いまで感じる。
 甘い匂いが部屋中に立ち込めて、私は意識が朦朧としている。

 冷たい……痛い……怖い……
 映像と音声と身体が同化していく感覚……

 これ、もしかして?
 この世界に初めて来た時に感じた、途切れた夢を見た時と感覚が似ている。
 夢の中の感覚と、自分の五感全てが身体に溶け込んで来る感覚。

 ふと、随分と周りの景色に色が戻って来てたかと思うと、音が聞こえた。

 耳をすませば、隣の部屋から聞こえてくるかすかな声……
 静まり返ったこの場所に、男たちの声は想像以上に響いていた。
 私はぼんやりと意識が薄れる頭で必死で男たちの会話を聞いていた。

『こいつが……ダラパイス国……王の目を持つ娘……この娘が王家に入れば……王太子を亡き者……必要がある』

 ――私ト結婚シタラ、王太子ヲ亡キ者二スル?

 私と結婚したら……あの優しいフィルガルド殿下が……殺される?

 ――そんなのは、絶対に許せない!! あの方ほどいい王などいない!!

 お腹の底から湧き上がる危機感と怒りと……焦り。
 守りたいと心から思う。

 フィルガルド殿下を守りたい。
 あの方を失いたくない。
 あの方の治世を見たい……
 

 じゃあ……私がいなくなれば……
 そうだ、このまま私は消えればいい……簡単なこと……


 信じられないほど、過去の私……クローディアはフィルガルド殿下を守るために、簡単に自分の命を捨てようとしていたことに……私は唖然としてしまった。

 
 そして、クローディアがそう決めた瞬間、再び男たちの声が聞こえた。

 
『この娘……亡き者にすれば……ダラパイス国……ハイマに戦を……』

 男たちの声が部屋に響く。

『ああ……この瞳に心酔している人間は多い……』



 私がいなくなったら……戦?



 私は死ねない?
 私がいなくなったらダラパイス国がこの国に戦を仕掛ける?

 でも……

 私が生きていたら、フィルガルド殿下が殺される?

 どうしたらいい?
 どうしたら……

 手足を縛られ、意識が朦朧とする状況で過去のクローディアは必死で考えた。
 戦を回避して、フィルガルド殿下を守る方法……

 


 私という王妃になりうる存在を消すしかない……




 そう決意した。

 ちょっと待って、他に道はないの?
 もう少し考えようよ!!
 そんな簡単に自分を……あきらめないでよ……

 身体のコンデションは最低で、頭も回ってないのに、それだけは決めてしまったクローディア。

 その時だった。
 大きな音と男たちの叫び声が聞こえた。その直後……扉が開いて、男の子の声が聞こえた。


『見つけた!! ガルド隊長!! こっちだ!!』

 一瞬、紫に輝く宝石が見えた気がした。

 ――きれいな色……

『おい、おい、しっかりしろ!! ……眠っているだけか……よかった。……つらかったな……そのまま今日のことなど……忘れてしまえ……』

 遠い意識の中でクローディアはその誰かの声を聞いていたが、返事はできなかった。
 そして心の中で叫んでいた。


 ――絶対に忘れない。

 私は、自分の存在を……消す……

 そう誓った……














「私……知っていたかもしれない……」



 突然口にした言葉に、みんなは私を見ながら固まったのだった。













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