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第七章 お飾りの王太子妃、再びの海へ
275 飛来客(3)
しおりを挟む私はディノを見ながら尋ねた。
「ねぇ、ディノ。イドレ国が裏で糸を引いているというのはわかるの。でも、エルガルド陛下はどうして?」
ハイマ国とダラパイス国の交易で王家だって多くの恩恵を受けているはずだ。
それに陛下は、貿易を自由化を推し進めている。
今更、運河を塞いでもメリットはないように思える。
「『あまりにも手際がよかったから』というのが理由です。内部の……しかも権力者が動いたかのような印象を受けました」
なるほど、つまり……
「状況証拠と呼べるほど明確な理由ではないのね?」
私の言葉にディノは頷きながら答えた。
「はい、その通りです。これは推測です。まだ何一つ証拠を手にしたわけではありません」
私はディノを見ながら言った。
「サフィールたちがそう判断するくらいの手際だったことは覚えておくわ。ありがとう、ディノ」
ディノは私を見ながら頭を下げた。
「いえ」
ディノは顔を上げて私に向かって微笑んだ後に、ゆっくりと口を開いた。
「ところでディア様、少々王太子殿下と話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「え?」
私はフィルガルド殿下を見た。
フィルガルド殿下は、「ああ、かまわない」と答えた。
私は二人を気を遣って「どこか移動する?」と提案した。するとディノが首を振りながら言った。
「いえ、ここで結構です」
そう言ってフィルガルド殿下を見つめた。
「フィルガルド殿下、実はサフィール閣下ではなく私がこの船に来た最大の理由は……あなたがこの船に乗っていたからです」
え?
私は、思わずディノを見つめた。
フィルガルド殿下は、何か心当たりがあるような気まずい様子でディノを見つめていた。
「我が国の刺客については、我が国が対処するとお伝えしたはずです。そしてあなたは『必ずディア様を守る』とサフィール閣下と約束した。約束の印に、バラのクローディアとダラパイス国の大公領から採取される幻の鉱石を交換までしました。……それなのに、なぜ、側妃を迎えると言ってディア様を手放そうとされたのですか? 閣下はディア様から話を聞いた時……斬りかかる勢いでした。これは、我が主に対する裏切りではないですか?」
そう言えば、ダラパイス国に行った時、みんな私がお飾りの王妃だと言われていることを知っていたが……
サフィールは知らなかった。
大公補佐という地位についているのに知らないのは少し違和感を感じていた。
フィルガルド殿下はつらそうに顔を歪めていた。
「言い訳だが……以前のクローディアの態度は国内に大きな波紋をもたらした。守り切るのが困難なほどに……だからクローディアではなく別の女性を王家に迎えることで反発を抑えようと思った」
以前の私の態度……
自分の記憶も、話に聞くのもかなりの問題児っぷりだ。
正直……居たたまれない……
私が項垂れている横で、ディノはゆっくりと口を開いた。
私やサフィールに接する時のような少しお道化たディノではない。
相手に牙を剥き主を守る獰猛な猛禽類のような鋭い瞳を向けていた。
「態度? ……存在の間違いでは? なぜこの期に及んで隠そうとされるのです?」
フィルガルド殿下が青い顔をしたのだった。
――――――――――――――――
明日も更新します!!
よろしくお願いいたします☆
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