258 / 260
第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ
263 図書館への潜入(5)5/5 +??
しおりを挟む「クローディア様、植物を別の場所に移す許可を」
水を止めると決まってすぐにヒューゴが声を上げた。
「ええ、もちろんよ。水が止まったら枯れてしまうかもしれないもの」
私の言葉を聞いたボブが力強く言った。
「この場所に植えてた植物は、そろそろ収穫しようと思っておりました。部下にすぐに収穫させます」
ボブの言葉に隣に立っていた男性がすぐに水の中に足を入れて収穫をした。ヒューゴとジーニアスが「お手伝いします」と言った。
そして二人は水の中に足をつけて、ボブの部下と三人で植物を収穫することになった。
「もし何かあった時のために移動させておきたいものはあるか?」
レオンの言葉に、ボブが入口付近まで歩き本棚を指差しながら言った。
「この上の階の本は全て偽物ですが、ここの本と研究資料は本物なので、念のために運び出したいと思います」
やっぱり上の本は偽物だったんだ!!
私は一部は本物かと思っていたが、どうやら全部偽物だったようだ。
ボブ、そしてアドラーとリリアも本を運び出す手伝いを申し出た。
「私もお手伝いを……」
手伝いを申し出ると、ブラッドが止めた。
「どんな仕掛けがあるかわからない。ここで待っていろ」
「う、うん」
私はブラッドの言う通り、伸ばしていた手を引くとブラッドとレオンは本を運ぶために本棚の前に向かった。
私だけ何もすることがない……かなり申し訳ない。
「こちらから外に出ることが出来ます」
ボブは奥にあるかなり頑丈な二重扉を開けると、外の光が見えた。
私は眩しくて手で目を守るようにしながら言った。
「眩しい……そうか……ここ建物の構造では一階部分だからそのまま外に出ることができるのね……でも、どうしてわざわざ書庫の隠し扉を開けておいたの?」
ボブが頷きながら言った。
「はい。何度も賊に侵入されるので、隠し扉を開け放って他を荒らされないようにしたのです」
なるほど……
人は隠されていると暴きたいと思う。だから開け放った。
「他を荒らされないように……わざと隠し扉を開けるか……」
レオンが小さく呟いた。
そして私の顔を覗き込みながら尋ねた。
「ところでクローディア、水を止めるのをどこで見る?」
私はすぐに答えた。
「もちろん、ここで見るわ。石の器に何かが浮かび上がって来るかもしれないし……」
ダラパイス国の時と同じ仕掛けなら、底がガラスになっていて絵が浮かび上がって来る可能性が高い。
「そうか……」
レオンの言葉に、ブラッドが少し考えながら言った。
「ここで見るのは構わないが、念のために退路を確保して入口付近で確認することにしよう」
確かにどうなるかわからないので、退路を確保するというブラッドの言葉も理解できる。
「そうだな、そうしよう」
レオンもブラッドの意見に頷いた。
この二人はこういう咄嗟の時、いつも意見が合う。
過保護過ぎるということはないが、安全な策を用意してどんな場合にも備えている。
きっとこれがこれまで国を支えてきた二人の……挑戦と、リスク管理ということなのだろう。
「クローディア様、全ての荷を運び出しました」
アドラーとリリアが側に戻って来て報告してくれた。
「ありがとう、早かったわね!!」
そしてその後すぐに、ジーニアスとヒューゴも戻って来た。
「クローディア様、収穫を終え外に全て運びだしました」
私はみんなを見ながら言った。
「それじゃあ、いよいよね。水を止めましょう!!」
レオンがすぐに声を上げた。
「ボブ、水を止めてくれ!!」
「はい!!」
ボブが水を止めるために動き出したのだった。
◇
ボブは空になった本棚を難なく横に持ち上げてずらすと、石の壁に鉄製の取っ手のようなものがついている場所に向かった。取っ手を引くと石の中にぽっかりと穴が空いていた。
その奥にボブは手を入れた。
「それでは皆様、いきますよ……」
ボブは、奥にある石の出っ張りを中に押した。
その時だった辺りに水のせり上がる音が聞こえた。
「何だ!?」
レオンが水音を警戒していて私はブラッドに腰を抱き寄せられ、アドラーがぴったりと私に張り付いた。
そして水音が近くなったかと思えば、先ほどまで植物が植えてあった石の器からまるで間欠泉のように水が噴き出した。天井まで一気にせり上がり建物全体を水で洗うかのような水量だった。
「なんだ!?」
そして地面がぐらぐらと揺れた瞬間、私はブラッドに抱き上げられていた。
ブラッドも急いでいたようで、彼の顔がかなり近い。一瞬、私の口がブラッドの頬に……当たった。
だがブラッドは私を抱きしめたまま声を上げた。
「皆、出るぞ!!」
そして、私を抱いたまま外に飛び出した。
アドラーやリリアもそれに続き、みんな無事に脱出した。
最後に出たレオンが急いで扉を閉めた途端、建物内の中腹部分の光を通さずカーテンのような物で覆われていたはずのガラスに光が見え始めた。
それと同時に建物の中では何かが崩れ落ちるような大きな音が聞こえる。
「あの辺りには木の壁があったはず……なぜ急に光が……それにこの音……」
ジーニアスが光が見え始めた窓を見ながら呟いた。
「光が……どんどん下まで広がっています!!」
リリアも大きな声を上げた。
真っ暗に閉ざされていた窓は、上から順番に光を通し始めていた。
「もしかして……木の壁が剥がれているの?」
ブラッドに抱かれたまま私は思わず呟いた。
そして、しばらくして全ての窓に光が差した頃……建物の上層部から順番にガラスの明度が上がっていく。
「今度はガラスが透明になって行く……」
思わず呟くと、レオンが声を上げた。
「クローディア、見ろ!! 水だ。あの間欠泉が吹きあがっているのが見える!!」
レオンが建物中央部の大き目のガラスを指さしながら言った。
「え!? 見えない!!」
私が見ようとすると、ブラッドがお姫様抱っこからお尻を腕に乗せて目線をブラッドと同じくらいにしてくれた。
ブラッドの顔がすぐ近くに見える。
心臓が急激に早くなると、ブラッドが無表情に言った。
「見えるか?」
「え? ……ええ見えるわ!! 本当だわ!! 吹きあがっているわ……何……これ……」
間欠泉が建物全体を水で押し流すように噴き出している。
「この建物に引いていた水を止めたのに……どうして……」
ボブが唖然としながら言った。
私はブラッドに抱かれたまま目線の低くなったボブを見下ろしながら言った。
「きっと水を止めることで間欠泉のように噴き出す仕組みだったのね……」
「ではこれも噴水だと考えてよろしいのでしょうか?」
アドラーが私を見ながら言った。
先ほど少しだけ見た時に、水は間欠泉のように凄い勢いで石の器の中から吹きあがった。
「そうね……確かにこれも噴水だわ……」
私の言葉を聞いたヒューゴ震えた声で呟いた。
「まさか……スカーピリナ国にも噴水が隠されていたなんて……しかも石造りの建物で覆われているという構造もダラパイス国の大噴水と酷似している……」
みんながヒューゴの言葉に息を呑んだのだった。
――――――――――――――――
次回更新は11月21日(木)です☆
《おまけ 新聞作成秘話?? 新聞応援企画??》
クイーンイザベラ号の一室。
ここはジーニアスとシャロンが壁新聞を制作している場所だった。
最近はシャロンは船に留守番だが、ジーニアスが多忙で新聞作成は中断していた。
シャ:ん~~次の企画だけでも考えるか……
シャロンが腕を組んで頭を悩ませていると、ノックの音が聞こえた。
シャ:はい!! あ、お、お疲れ様です!!
シャロンはすぐに立ち上がるとすぐに姿勢を正した。
ロ:気にしないでほしい。
部屋に入って来たのはロウエル元公爵だった。
シャ:どうされました?
シャロンの問いかけにロウエル元公爵は威厳のある態度で言った。
ロ:壁新聞、いつも読んでいる。……最近新しいものが出ないので様子を見に来た。
シャロンは心底驚いた。
シャ:ええ!? それはありがとうございます。ですが、現在ジーニアスが不在で……彼が戻るまでは出ないかと……
ロ:……そうか……残念だ。
見るからに肩を落とすロウエル元公爵にシャロンが慌てて言った。
シャ:ジーニアスが戻ってきたら、すぐに作ります。待っていて下さい!!
ロ:そうか! いや……ゆっくりでかまわない……邪魔したな……
部屋を出て行くロウエル元公爵の背中を見ながらシャロンは誓った。
シャ:ジーニアスが戻って来たら、すぐにでも新聞を出す!!
壁新聞を楽しみにしているというご意見を頂きありがとうございます。
本当に、本当に嬉しいです。感激です。
現在、ジーニアス多忙につき……彼が戻ったら再びお届けいたします!!
951
お気に入りに追加
9,276
あなたにおすすめの小説
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。