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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ

263 図書館への潜入(5)5/5 +??

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「クローディア様、植物を別の場所に移す許可を」

 水を止めると決まってすぐにヒューゴが声を上げた。

「ええ、もちろんよ。水が止まったら枯れてしまうかもしれないもの」

 私の言葉を聞いたボブが力強く言った。

「この場所に植えてた植物は、そろそろ収穫しようと思っておりました。部下にすぐに収穫させます」

 ボブの言葉に隣に立っていた男性がすぐに水の中に足を入れて収穫をした。ヒューゴとジーニアスが「お手伝いします」と言った。
 そして二人は水の中に足をつけて、ボブの部下と三人で植物を収穫することになった。
 
「もし何かあった時のために移動させておきたいものはあるか?」

 レオンの言葉に、ボブが入口付近まで歩き本棚を指差しながら言った。

「この上の階の本は全て偽物ですが、ここの本と研究資料は本物なので、念のために運び出したいと思います」

 やっぱり上の本は偽物だったんだ!!

 私は一部は本物かと思っていたが、どうやら全部偽物だったようだ。
 ボブ、そしてアドラーとリリアも本を運び出す手伝いを申し出た。

「私もお手伝いを……」

 手伝いを申し出ると、ブラッドが止めた。

「どんな仕掛けがあるかわからない。ここで待っていろ」

「う、うん」

 私はブラッドの言う通り、伸ばしていた手を引くとブラッドとレオンは本を運ぶために本棚の前に向かった。

 私だけ何もすることがない……かなり申し訳ない。

「こちらから外に出ることが出来ます」

 ボブは奥にあるかなり頑丈な二重扉を開けると、外の光が見えた。
 私は眩しくて手で目を守るようにしながら言った。

「眩しい……そうか……ここ建物の構造では一階部分だからそのまま外に出ることができるのね……でも、どうしてわざわざ書庫の隠し扉を開けておいたの?」

 ボブが頷きながら言った。

「はい。何度も賊に侵入されるので、隠し扉を開け放って他を荒らされないようにしたのです」
 
 なるほど……

 人は隠されていると暴きたいと思う。だから開け放った。

「他を荒らされないように……わざと隠し扉を開けるか……」

 レオンが小さく呟いた。
 そして私の顔を覗き込みながら尋ねた。

「ところでクローディア、水を止めるのをどこで見る?」

 私はすぐに答えた。

「もちろん、ここで見るわ。石の器に何かが浮かび上がって来るかもしれないし……」

 ダラパイス国の時と同じ仕掛けなら、底がガラスになっていて絵が浮かび上がって来る可能性が高い。

「そうか……」

 レオンの言葉に、ブラッドが少し考えながら言った。

「ここで見るのは構わないが、念のために退路を確保して入口付近で確認することにしよう」

 確かにどうなるかわからないので、退路を確保するというブラッドの言葉も理解できる。

「そうだな、そうしよう」

 レオンもブラッドの意見に頷いた。
 この二人はこういう咄嗟の時、いつも意見が合う。
 過保護過ぎるということはないが、安全な策を用意してどんな場合にも備えている。
 きっとこれがこれまで国を支えてきた二人の……挑戦と、リスク管理ということなのだろう。

「クローディア様、全ての荷を運び出しました」

 アドラーとリリアが側に戻って来て報告してくれた。

「ありがとう、早かったわね!!」

 そしてその後すぐに、ジーニアスとヒューゴも戻って来た。

「クローディア様、収穫を終え外に全て運びだしました」

 私はみんなを見ながら言った。

「それじゃあ、いよいよね。水を止めましょう!!」

 レオンがすぐに声を上げた。

「ボブ、水を止めてくれ!!」

「はい!!」

 ボブが水を止めるために動き出したのだった。







 ボブは空になった本棚を難なく横に持ち上げてずらすと、石の壁に鉄製の取っ手のようなものがついている場所に向かった。取っ手を引くと石の中にぽっかりと穴が空いていた。
 その奥にボブは手を入れた。

「それでは皆様、いきますよ……」

 ボブは、奥にある石の出っ張りを中に押した。
 その時だった辺りに水のせり上がる音が聞こえた。

「何だ!?」

 レオンが水音を警戒していて私はブラッドに腰を抱き寄せられ、アドラーがぴったりと私に張り付いた。
 そして水音が近くなったかと思えば、先ほどまで植物が植えてあった石の器からまるで間欠泉のように水が噴き出した。天井まで一気にせり上がり建物全体を水で洗うかのような水量だった。

「なんだ!?」

 そして地面がぐらぐらと揺れた瞬間、私はブラッドに抱き上げられていた。
 ブラッドも急いでいたようで、彼の顔がかなり近い。一瞬、私の口がブラッドの頬に……当たった。
 だがブラッドは私を抱きしめたまま声を上げた。

「皆、出るぞ!!」

 そして、私を抱いたまま外に飛び出した。
 アドラーやリリアもそれに続き、みんな無事に脱出した。
 最後に出たレオンが急いで扉を閉めた途端、建物内の中腹部分の光を通さずカーテンのような物で覆われていたはずのガラスに光が見え始めた。
 それと同時に建物の中では何かが崩れ落ちるような大きな音が聞こえる。
 
「あの辺りには木の壁があったはず……なぜ急に光が……それにこの音……」

 ジーニアスが光が見え始めた窓を見ながら呟いた。

「光が……どんどん下まで広がっています!!」

 リリアも大きな声を上げた。
 真っ暗に閉ざされていた窓は、上から順番に光を通し始めていた。

「もしかして……木の壁が剥がれているの?」

 ブラッドに抱かれたまま私は思わず呟いた。
 そして、しばらくして全ての窓に光が差した頃……建物の上層部から順番にガラスの明度が上がっていく。

「今度はガラスが透明になって行く……」

 思わず呟くと、レオンが声を上げた。

「クローディア、見ろ!! 水だ。あの間欠泉が吹きあがっているのが見える!!」

 レオンが建物中央部の大き目のガラスを指さしながら言った。

「え!? 見えない!!」

 私が見ようとすると、ブラッドがお姫様抱っこからお尻を腕に乗せて目線をブラッドと同じくらいにしてくれた。
 ブラッドの顔がすぐ近くに見える。
 心臓が急激に早くなると、ブラッドが無表情に言った。

「見えるか?」

「え? ……ええ見えるわ!! 本当だわ!! 吹きあがっているわ……何……これ……」

 間欠泉が建物全体を水で押し流すように噴き出している。

「この建物に引いていた水を止めたのに……どうして……」

 ボブが唖然としながら言った。
 私はブラッドに抱かれたまま目線の低くなったボブを見下ろしながら言った。

「きっと水を止めることで間欠泉のように噴き出す仕組みだったのね……」

「ではこれも噴水だと考えてよろしいのでしょうか?」

 アドラーが私を見ながら言った。
 先ほど少しだけ見た時に、水は間欠泉のように凄い勢いで石の器の中から吹きあがった。

「そうね……確かにこれも噴水だわ……」

 私の言葉を聞いたヒューゴ震えた声で呟いた。

「まさか……スカーピリナ国にも噴水が隠されていたなんて……しかも石造りの建物で覆われているという構造もダラパイス国の大噴水と酷似している……」

 みんながヒューゴの言葉に息を呑んだのだった。










――――――――――――――――






次回更新は11月21日(木)です☆






《おまけ 新聞作成秘話?? 新聞応援企画??》

 クイーンイザベラ号の一室。
 ここはジーニアスとシャロンが壁新聞を制作している場所だった。
 最近はシャロンは船に留守番だが、ジーニアスが多忙で新聞作成は中断していた。

シャ:ん~~次の企画だけでも考えるか……

 シャロンが腕を組んで頭を悩ませていると、ノックの音が聞こえた。

シャ:はい!! あ、お、お疲れ様です!!

 シャロンはすぐに立ち上がるとすぐに姿勢を正した。

ロ:気にしないでほしい。

 部屋に入って来たのはロウエル元公爵だった。

シャ:どうされました?

 シャロンの問いかけにロウエル元公爵は威厳のある態度で言った。

ロ:壁新聞、いつも読んでいる。……最近新しいものが出ないので様子を見に来た。

 シャロンは心底驚いた。

シャ:ええ!? それはありがとうございます。ですが、現在ジーニアスが不在で……彼が戻るまでは出ないかと……

ロ:……そうか……残念だ。

 見るからに肩を落とすロウエル元公爵にシャロンが慌てて言った。

シャ:ジーニアスが戻ってきたら、すぐに作ります。待っていて下さい!!

ロ:そうか! いや……ゆっくりでかまわない……邪魔したな……

 部屋を出て行くロウエル元公爵の背中を見ながらシャロンは誓った。

シャ:ジーニアスが戻って来たら、すぐにでも新聞を出す!!



 壁新聞を楽しみにしているというご意見を頂きありがとうございます。
 本当に、本当に嬉しいです。感激です。
 現在、ジーニアス多忙につき……彼が戻ったら再びお届けいたします!!
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