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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ
256 図書館への潜入(2)2/5
しおりを挟む奥に続く部屋を見つけたことで私はみんなを呼んだ。
「クローディア様、さすがですね……」
ヒューゴが隠し扉を見ながら声を上げた。
「ん~~建物の大きさを考えていたら、ここを見つけたのだけれど……全体の大きさをある程度把握した方がいいかもしれないわ。一度建物の外に出て、確認してみるわ」
私は暗い部屋を見渡しながら言った。
どこからか、かすかに水音が聞こえる。もしかしたら外が近いのかもしれないが、私の記憶ではもっと建物は大きかったように思える。
ずっと暗い中にいたので記憶が曖昧になってきてしまった。
外に出ようとすると、リリアとアリスが声を上げた。
「クローディア様、それでは私が外に出てこの建物の大きさを測って参ります。クローディア様は内部の捜索をお続け下さいませ」
「私も手伝います」
リリアとアリスが測ってくれるのなら頼もうと思った。
それに外にはレオンたちもいるので二人でも問題ないだろう。
「わかったわ。お願いね、二人とも」
「かしこまりました」
私は二人に建物全体の大きさを測ってもらうことにして捜索を進めることにした。
ジーニアスが部屋を見渡しながら言った。
「クローディア様。ここの部屋は物がほとんどありませんね」
見渡すとここは狭くもなく、物もほとんどない。
大きなテーブルと数脚の椅子が置いてあるだけだった。
「会議室のような場所かしら?」
「……隠し扉の中が会議室……先ほどの研究施設を隠していたと考えるのが妥当か……」
ブラッドが呟いた。
「確かにそうね……でもそうなるとこの会議室に入口が無いのは不思議よね……」
私が唸っていると、ジーニアスが声を上げた。
「クローディア様!! この部屋の隅にドアノブがついていたと思われるくぼみを見つけました。ですが、扉があるようには思えせん」
私はジーニアスの見つけたドアノブがついていた場所に向かったが、確かに扉は見えない。
「ん~~まるで密室ね……」
私たちが悩んでいると、アリスが早足で戻って来た。
「クローディア様。ガルド様がヒルマさんの案内で水賊の本拠地に調査に向かわれるそうです。調査の補佐として同行してもよろしいでしょうか?」
私はすぐ近くにいたブラッドを見た。
「まさかブラッド……元々ガルドを水賊のアジトに潜入させるつもりだったの?」
ブラッドは無表情に答えた。
「町の様子を確認して判断するとは聞いていた。それに……ガルドにも事情がある。私はそれを止めることはできない」
「そう……」
私はブラッドの様子を見て息を吐いた後にアリスに向かって言った。
「わかったわ。アリス、くれぐれも無理しないで。それと……ガルドにも無理をしないよう伝えて」
「かしこまりました。ガルド様が無茶なことをすれば……必ず止めます」
アリスは真剣な顔で私を見ながら言った。
そしてアリスはすぐに出て行った。
「ガルドの目的か……」
ガルドの強さは知っているつもりだが、騎士団にいる時から一人で賊のアジトに潜入していたと聞いた。
治安維持のため……そう思っていたが……
もしかしてガルドには別の目的があるのかしら?
ブラッドを見つめたが、ブラッドは私から視線を逸らすことなく見つめ返すだけで何も言ってはくれない。
私は、頭を切り替えて部屋の中を見た。
窓も何もない暗い部屋にいると平行感覚まで鈍くなる。
「クローディア様、お待たせいたしました」
リリアが外から戻って来てくれた。
そして、ジーニアスが見つけたドアノブのついている壁の前に立った。
「恐らくこの方向にまだ、私の歩幅で20歩はありました」
リリアの歩幅は恐らく50センチ前後だろうから、10メートル前後はあることになる。
結構広いわね……
私は天井を見たが暗くてよくわからない。
何か……ヒントがないかしら?
そしてヒューゴを見た。
「ヒューゴ。何か煙が出るようなものを持っていないかしら? お線香とか??」
私は常に薬草の入ったカバンを持ち歩いているヒューゴに尋ねた。
この場所を見つけた時のように空気の流れをで部屋の構造を見てみようと思ったのだ。
「煙の出る香は持ち歩いていますよ」
そう言うとヒューゴが用意してくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
私は香を入れた小さなお皿を持った。
緩くけむりが上がり、爽やかでとてもいい匂いがした。
「華やかでいい匂いですね」
ラウルが香を嗅ぎながら言った。
「ふふ、ラウルはこの匂いが好きなの?」
「はい」
するとブラッドも口を開いた。
「私も嫌いではない」
ええ~~!!
なぜだろう、ブラッドの口からそんなことを聞けるなんて思っていなかったので驚いてしまった。
「この香はバラの花から匂いを抽出しています」
ヒューゴが説明をしてくれて、私は香の話をしながら部屋中を歩きまわった。
「……おかしいわ」
「何がおかしいのだ?」
私はブラッドと見つけた隠し扉付近に煙を近づけた。
すると煙は隠す扉の付近だけ空気の流れがあるようにゆらゆら揺れた。
だが、この部屋のドアノブのついていた壁一面がゆらゆら揺れている。
「ヒューゴ、ありがとう。助かったわ」
「いえ、お役に立ててよかった」
私はヒューゴに香を返すと考え込んだ。
そしてドアノブ付近を押さえてみたがビクともしない。
「私がやってみます」
「お願いね」
「はい」
アドラーに代わりに押さえてもらったがビクともしない。
ドアノブはカモフラージュだろうか?
「待って、ドアノブ??」
私はこれまで西洋風の建物ばかりだったので忘れていた。
この大きさでこの形……
私は、押すのではなく横に力を入れてスライドした。
すると壁だと思わたものが動き始めた。
「まさか、横にずらすのか!? クローディア様お手伝いいたします!!」
ラウルが手伝ってくれたので、一気に壁が横にスライドして壁が消え去った。
「え? これは?」
目の前にはぼんやりと淡く光る壁。
さらに部屋の中心部には大きな噴水のような石の器の中には水が入れられ、中に植物が育てられていた。
これって……もしかして水耕栽培??
私は想像もしていなかった光景に目を白黒させてしまった。
「あなたは本当にとんでもないな」
「え?」
ブラッドを見ると、ブラッドが植物を見ながら呟いた。
「これはダラパイス国の噴水に描かれていた植物ではないか?」
ブラッドの言葉ですぐにヒューゴを見ると目を大きく開けながら言った。
「これはエル―ル国で確認されていた静心花……いくら手を尽くしても育たなかったのに……水の中で育つ植物だったのか……」
そしてジーニアスが植物が育っている石造りの水槽を覗き込みながら口を開いた。
「ここの水……とても綺麗ですね……」
私もつられるように覗き込み中を見た。
確かにとても綺麗な水だった。
「本当だわ……とても綺麗……」
その時だ。
ガタリと音がして振り向くと、レオンの元部下で現在この町を守っているというボブが立っていた。
「あなた方がいらっしゃると聞いて、イヤな予感はしていましたが……見つけてしまわれたのですね……」
気が付けば、私はブラッドに抱き寄せられており、剣を抜いて構えるアドラーとラウルの背中が見えた。横を見るとリリアも剣を抜いていた。
ボブは両手を上げながら言った。
「危害は加えません。あなた方に勝てるとも思えませんし……それに、ここは今は亡き父が必死で守った研究施設です。剣を抜いて荒らす真似はしません」
アドラーとラウルそして、リリアも剣を鞘に収めた。
そしてブラッドが声を上げた。
「説明を聞かせてくれるか?」
ボブは頷きながら「わかりましたが……その前に……」と言葉を切った。
そして、私たちを見ながら言った。
「ヒルマ嬢を偵察に行かせたとのことですが……彼女はこれまで何度も水賊の拠点に向かおうとして、皆が懸命にあの方が乗り込むのを止めておりました。敵は百以上……恐らくあの方は命に代えてでもと……乗り込むかもしれませんよ?」
敵は百以上!?
ガルドもいるが確かに人数が多い。
「ヒルマ嬢まで好戦的なのですね……きっと、ガルド殿なら……乗り込む」
アドラーが呟いた。
「そうだな……数百か……確か、ガルド殿が壊滅させた賊の集団で一番多かったのは百と少し……」
ラウルが考えるように呟いた後に、私を見ながら言った。
「クローディア様、お側を離れる許可を頂けますか?」
私はゆっくりと頷いた。
「ラウル、一人で行くの?」
ラウルは考えた後に答えた。
「そうですね……」
ラウル一人で……
私が不安に思っているとブラッドが口を開いた。
「レオンに報告を!! レイヴィンを……連れていけ」
「はい」
ラウルが頷くとボブが部下を道案内をに派遣してくれることになった。
◇
ラウルがボブの派遣してくれた道案内と共に外に出るとレオンとレイヴィンが話をしていた。
「副団長、どうした?」
レオンの問いかけに、ラウルが答えた。
「ガルド殿とヒルマ嬢が水賊の本拠地に乗り込む可能性があるというので、状況を見て止めるか、加勢をするか判断しようと思います]
ラウルの報告を聞いたレオンが声を上げた。
「……そうか。指導係はそれでお前を派遣することを決めたのか……では……レイヴィン、参謀としてお前を派遣する。スカーピリナ国の民の生活を脅かす水賊に対応せよ」
レオンは、ラウルがブラッドの指示を伝える前にレイヴィンを派遣することを決めた。
レイヴィンは深く頭を下げた。
「感謝します。必ず……」
そして、レイヴィンもラウルに同行することになったのだった。
――――――――――――――――
次回更新は11月5日(火)です☆
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