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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ
255 図書館外部にて
しおりを挟むクローディアたちが図書館に入ると、レオンたちはすぐに図書館を取り囲み内部に誰も侵入できないように包囲網を張った。
「レオン総司令官殿、全員配置に着きました!!」
兵の報告を受けてレオンは「ご苦労、そのまま警戒を」と言った。
そして兵が持ち場に戻ると、ガルドの方を見た。
「さて、聞かせてもらおうか……どうしてお前がここに残った?」
ガルドは困ったように言った。
「本当の水賊のアジトはどこだろうと思いまして……」
レオンが息を吐くと、すぐにレイヴィンを見つめた。
レイヴィンはレオンの視線の意味を感じ取ると、すぐに口を開いた。
「姉の話では、町の東側の川の向こうに水賊の基地があるそうです。ですが、もうすぐスカーピリナ国の応援も来ます。彼らに任せるのが得策かと……」
ガルドが目を細めながら尋ねた。
「水賊の規模は?」
レイヴィンが苦い顔で答えた。
「数百……」
さらにガルドは淡々と尋ねた。
「応援の規模は?」
「……小隊が数隊派遣されているはずだ」
ガルドがレイヴィンではなくレオンを見た。
「それで水賊と渡り合えるのですか?」
ガルドの言葉にレオンが口を開いた。
「元より、この町を守るために応援を呼んだのだ。ボブたちと共に町に侵入した水賊を防ぐのが目的だ。ハイマのように……いや、死神、お前のように全て賊を捕らえるなど現実的ではないことを……上に立つ者として選択できない」
ガルドはまっすぐにレオンを見ながら言った。
「ヒルマ殿の仲間も小隊ほどの規模でした。それでも、町を守り切れずに森に身を隠している」
ガルドは、町を見ながら言った。
「恐らくこの町を人々が離れてから半年は経つはずです。違いますか?」
ガルドの言葉にヒルマが頷いた。
「ええ。スカーピリナ国の衛兵が水賊に対抗できなくなって撤退してからだから……半年くらいね……」
ガルドは、切なそうに町を見ながら言った。
「人のいなくなった町は……荒廃します。これほど美しい町を……失ってもいいのですか?」
レオンが拳を握り声を上げた。
「ではどうすればいい。スカーピリナ国は現在、どこも水賊の襲撃を受けて余裕がない。ベルンが立ち直ったことで今後は、水賊の流入が押さえられる可能性もあるが、現時点でこの国に入り込んだ者たちを排除するのは至難の業だ」
レオンの言葉に、ヒルマが声を上げた。
「あなたが他国に戦を仕掛けていたのは……水賊の侵入を防ぐためだったの? 領土を拡大するためではないの?」
「ああ……」
ガルドは困った顔をしながら言った。
「ですから、私が本物のアジトの様子を見てきますよ」
するとヒルマが声を上げた。
「……私は恩人、フィルガルド殿下が来ると情報を得たのから、町の入り口を土嚢を重ねて封鎖して、この町に賊が一時的に入れないようにしたわ。あなた方が船を停泊させて給水ができるように、安全を確保した……もし、それを解除したら、賊が流れ込んで来るわ……」
ガルドがヒルマを見ながら言った。
「ああ、そんなことをしてまで、殿下たちを守って下さったのですね。ますます……放ってはおけませんね。ご安心を、ヒルマ殿たちの築いてくれた防御壁には手を触れずに町を出ます」
ヒルマは唇を噛むと、ガルドを見ながら言った。
「私も行きますわ。抜け道なら知っていますので」
するとレイヴィンが声を上げた。
「姉さんが? 抜け道を教えてくれたら、俺が行きます」
ヒルマはレイヴィンを見据えながら言った。
「レイちゃん、あなたのお役目は?」
レイヴィンは静かに答えた。
「ハイマの王太子妃殿下の警護です」
「そうね。それに引きかえ、私はただあなたという見張りがいなくなったのでついてきた捕虜。監視がガルド様になってもさほど問題はないわ」
ガルドたちが話をしているところに、丁度アリスとリリアがやって来た。
「どうした? 何かあったのか?」
レオンの問いかけにリリアが小声で答えた。
「クローディア様たちに問題はありません。ご安心を。詳しくは戻って報告いたしますが、急ぎこの建物の全容を外から把握する必要があり確認に参りました」
「全容を把握……そうか……わかった」
レオンが胸を撫でおろすと、アリスがにっこりと笑いながら言った。
「先ほど、ヒルマさんの監視がガルド様になるという話を耳に挟んだのですが、どういうことですか?」
レイヴィンが二人に事情を話した。
「確かに……どのくらいの規模なのか現状把握は必要かと思います」
リリアもガルドの意見に賛成した。
「ただ……何かあった時に捕虜の方だけが同行するというのは問題かと……クローディア様とブラッド様にお話をして微力ながら私が同行いたしましょうか? 有事の際の連絡係くらいはできると思います」
リリアが言った後にアリスが声を上げた。
「リリアが行くのなら、私が行きます。元諜報員ですし、お役に立てると思います」
レオンがリリアとアリスを見ながら言った。
「スカーピリナの諜報にいたのなら、腕は確かだ。ここは元諜報員に頼む」
「かしこまりました。では、クローディア様とブラッド様の許可を貰って参ります」
アリスが中に戻って行った。
リリアは「アリスが戻るまではここで待ちます」と言った。
その後すぐに、アリスが戻って来た。
「クローディア様とブラッド様に確認いたしました。『あまり無理をしないで』とクローディア様にお願いされましたので、ガルド様が無茶をされないように気をつけます」
レオンが「頼むぞ」というと、ガルドは複雑そうな顔をした後に「行きますか」と言った。
そして、アリスとヒルマを連れて調査に出たのだった。
残ったレイヴィンはつらそうな顔をしていたが、首を振ってリリアに声をかけた。
「距離を測るのをお手伝いいたしましょうか?」
リリアは「お願いします」というとレイヴィンと共に建物の距離を測るために歩いて行った。
レオンはガルドたちの背中見つめた後に、息を吐いたのだった。
――――――――――――――――
次回更新は11月2日(土)です☆
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