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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ
252 プライド
しおりを挟む食事が終わると私たちはそのまま食堂で今後のことを話し合った。
「図書館の地下に研究室?」
私はジーニアスたちから話を聞いていた。
そして私の問いかけにはジーニアスが答えてくれた。
「はい。詳しい資料などは処分されたのか、ほとんど残されていなかったのですが……ダラパイス国の噴水に描かれた植物の絵や情報の書かれた紙が数枚見つかりました……」
え? あの噴水の絵が?
私は、なぜかとても気になってしまった。
「私もその場所に行きたいです……」
正直に声を上げると、フィルガルド殿下が慌てて声を上げた。
「危険です!! ジーニアスとヒューゴ殿は水賊に襲われたのでしょう? 何があるかわかりません。船の留守を守るのも大切な役目です。調査は別の者に任せて私と共にの船に残りましょう」
私はそう言われてがっかりと肩を落とした。
王族が外に出るというのはかなり危険だというのはわかっている。
だが……それでも気になってしまったのだ。
フィルガルド殿下が心配してくれるのは嬉しいでも……気になる……
「ですが……どうしても気になって……」
どうしてもあきらめきれない私と、フィルガルド殿下の不許可の声。
誰も何も言えない空気が流れた。
重苦しい空気の中意外にも、ロウエル殿が声を上げた。
「彼女が気になると言っているのです。行かせるべきでは?」
「な、ロウエル殿……何を……」
驚くフィルガルド殿下に向かってロウエル殿が口を開いた。
「危険だというが、船にいることが安全だと言い切れないのは昨日の一件で身に染みたはずです。それに彼女のこれまでの功績を考えれば、彼女が気になるというのなら彼女自身が自分の手で調べる価値は十分にある。フィルガルド殿下、周りをよく見ろ。彼女を守る者たちの顔を……何も戦場に送り出すわけではない……彼らを信じ、そして……彼女の可能性を信じてみなさい」
ロウエル殿の声でフィルガルド殿下が周りを見渡した。
・元ハイマ最強で、諸外国からも死神だと恐れられているガルド。
・最強だと言われたガルドから教えを受けたブラッド
・そして現役副団長、実質ハイマの騎士団のトップのラウル
・現役副団長と互角に渡り合えるクローディアの側近アドラー
・イドレ国の刺客の攻撃を鉄扇一つで防いでみせた侍女リリア
・元スカーピリナ国諜報員で暗器を得意とするアリス
・そして鬼神と呼ばれたスカーピリナ国の軍総司令官レオン
・レオンの右腕と言われる参謀レイヴィン
・イドレ国の凄腕刺客と互角に渡り合い退けた王太子側近レガード
皆がフィルガルド殿下を真剣な顔で見つめていた。
そしてブラッドがゆっくりと口を開いた。
「彼女のことは――必ず守ると約束しよう」
するとその場にいる全員が頷いた。
そして再びロウエル殿がフィルガルド殿下を見ながら言った。
「本来なら、長らく円卓の座についていた私たちあなたに信頼を伝えるはずだった……それを伝えることが出来なかったことを心から詫びるしかありません。ですが、まだ遅くはない……フィルガルド殿下。どうかあなたの治世が良きものにあることを願い、この者たちを信じてみて下さい。あなたのような方を信を知らぬ王になどするわけにはいかない。どうか……」
そしてロウエル殿が深々と頭を下げた。
フィルガルド殿下は呆然としながらロウエル殿を見ていた。
そしてフィルガルド殿下は、凛々しい顔になりロウエル殿に向かって言った。
「ロウエル殿……助言、感謝する」
そして、今度は私を見ながら言った。
「クローディア、私はこの船の留守を守ります。図書館の地下の捜索をお願いできますか?」
私は真っすぐにフィルガルド殿下を見ながら言った。
「かしこまりました」
そして、ブラッドを見据えながら言った。
「ブラッド、彼女を守るための布陣を……」
「御意」
ブラッドはすぐに頭を下げたのだった。
こうして、私たちは図書館に捜索にいくために作戦を立てることにしたのだった。
◇
「クローディア、全員が中に入れば何かあった時に対応できない。俺たちが周辺の賊の討伐と、外の見張りをしよう」
レオンが声を上げた。
「皆様、姉も同行してもいいでしょうか? 見張りの私も船からいなくなりますし……水賊相手なら邪魔にはならないと思います」
レイヴィンの言葉に、ブラッドは少し考えた後にレオンを見た。レオンは「何かあったら責任は俺が取る」と言ったので、ブラッドは「いいだろう」と答えた。
「あの辺りは賊が多いでしょからね。スカーピリナ兵も同行させましょう」
レイヴィンがさらに声を上げた。
「ブラッド様、私も外の見回りでもよろしいでしょうか?」
ガルドの提案に、ブラッドは「ああ」と頷いた。
「では、クローディア殿と共に図書館内部に潜入する者は、私とラウル、アドラー、リリア嬢、アリス嬢、ジーニアス、ヒューゴ」
ブラッドに名前を呼ばれたラウルたちは力強く頷いた。
「図書館の周辺、及び外の見張りはレオン、レイヴィン、ヒルマ殿、ガルド、スカーピリナ兵」
レオンたちも静かに頷いた。
すると今度はフィルガルド殿下が口を開いた。
「では、船には私と、ロウエル殿と、レガード、ハイマ騎士団が残ろう。それでは各自準備を!!」
「はっ!!」
各自が準備のために席を離れると、レオンがレイヴィンを連れてロウエル殿に近づいた。
「あなたのような方がいて……クローディアたちの結婚を止めることが出来なかったのか?」
レイヴィンが通訳をしようとすると、ロウエル殿がスカーピリナ国の言葉で答えた。
「円卓の場に座していた頃の私は、自分の守るべきもの、山積する問題に日々忙殺され……大局が見えなくなっていた」
レオンは切なそうに言った。
「……そうか、どの国も……同じか……」
「耳が痛いな……」
「責めたわけじゃない……誤解しないでくれ。ただ……知りたかった、それだけだ。だが、自分であやまちを認め、自国の王太子に提言するのはさすがだ」
「過去は消せない。しかし、これからは少しでも殿下と妃殿下のために尽力したい。それが私の公爵だったという誇りだ」
「そうか……誇りか……」
そして、食堂の外に歩いて行った。
私がそんなレオンを見つめていると、フィルガルド殿下に名前を呼ばれた。
「クローディア!!」
私が「はい」と言ってフィルガルド殿下の方を見ると、フィルガルド殿下が近くまで来ていた。
そして心配そうな顔で「抱きしめてもいいですか?」と聞いた。
抱きしめてもいいか?
まさかそんなことを聞かれると思っていなくて、驚きながらも頷くとフィルガルド殿下に抱きしめられた。
「いってらっっしゃい、クローディア。どうか無事で」
「はい……いってきます」
こうして私は、船を出たのだった。
――――――――――――――――
次回更新は10月26日(土)です☆
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