244 / 265
第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ
250 余韻 +新聞
しおりを挟むジーニアスとヒューゴはすでに食事を終えて話をしていると、ラウルも手を止めて顔を上げた。
「ごちそうさまでした。ガルド殿ありがとうございました」
ラウルが食事を終えると、すぐにブラッドが食堂に入って来た。
ブラッドは無表情で席に着くと、ジーニアスとヒューゴを見ながら言った。
「待たせたか?」
ジーニアスは「いえ、先ほど戻ったばかりです」と答えた。そんなジーニアスに向かってブラッドは淡々とした調子で「そうか、では報告を聞こう」と言った。
ジーニアスは、町の様子と地下室ある研究所のような場所を見つけたことについて報告した。
話を聞いたブラッドはジーニアスとヒューゴを見ながら言った。
「ご苦労だった。明日、私も確認する。他の者にも明日の朝、伝えよう」
「はい」
「かしこまりました」
ジーニアスとヒューゴは返事をすると、ブラッドは皆を見ながら言った。
「今日は皆、休んでくれ。私も失礼する」
終始いつも通りのブラッドを見て、レオンが不満そうに声を上げた。
「不気味なほど変わんねぇな……」
ブラッドは無言で立ち上がって、座っているレオンを見下ろすと威圧ある声で「失礼する」と言って食堂を出た。
するとガルドも立ち上がって食堂を出た。
「それでは私も失礼します。おやすみなさい」
ガルドが食堂を出ると、ジーニアスとヒューゴが食器を持って立ち上がった。
「私たちもこれで」
ジーニアスとヒューゴが厨房に入って行くと、食堂に残されたレオンが不機嫌そうに呟いた。
「……あいつ……顔色一つ変えないのかよ……?」
不機嫌そうなレオンに向かってラウルが口を開いた。
「ブラッド様のお考えなど、誰にもわからないと思います。ですが……――少し動揺していたように思いますけど……」
レオンがラウルの見ながら言った。
「動揺? あれで?」
「ええ、ブラッド様は酷く心配したりすると、全く表情が動かなくなりますので」
「へぇ~~って、副団長……いつの間にスカーピリナ国の言葉を話せるようになったんだよ……」
確かつい最近まで、ラウルとはアドラーを介さないと話が出来なかったことを思い出す。
ラウルはレオンに「最近ですよ、指示を出す時に言葉が通じないと不便なので」と答えた。
ラウルは最近、仕事中も積極的にスカーピリナ国の兵に話かけたり、アドラーに教えてもらったりして言葉を学んでいた。
「はぁ~~そうか……――俺も覚えるかな~~」
レオンが顔を上げてラウルを見ると、ラウルは食器を持って立ち上がった。
「よろしければ私がお教えしますよ、貴重な情報のお礼に。では、レオン殿。失礼いたします」
そしてラウルも厨房に向かって歩いて行った。
レオンは、大きく息を吐いたのだった。
「余計なこと言うんじゃなかったな……」
そしてレオンは伸びをすると食堂を出たのだった。
◇
早足で廊下を歩くブラッドに向かってガルドが声をかけた。
「フィルガルド殿下とも話をされたのですか?」
ブラッドは立ち止めるとガルドに背を向けたまま答えた。
「……――ああ」
そんなブラッドに向かってガルドは目を細めると「焦る必要はありません。……それではブラッド様。おやすみなさい」と言って、歩き出した。
ブラッドも再び歩き出して、部屋に戻った。
部屋に入るなりブラッドは片手で顔を押さえた。
「不気味なほど変わらないか……――」
ブラッドは、顔を押さえたまま動かなった。
(私もフィルガルドのことは言えないな……)
クローディアがフィルガルドに向かって口にした言葉……
――……私には……他に想う人がいます。
恐らくその言葉は今のクローディアから溢れて来た紛れもない内心を現した言葉なのだろう。
だが……
決してブラッドの名前を口にしたわけではなかった。
あの時、もしクローディアがはっきりとブラッドの名前を口にしてくれたら、ブラッドはその場で彼女を抱きしめてフィルガルド前で堂々と『私も愛している』と宣言したかもしれない。
だが――クローディアだけはなく、ブラッドの中にはためらいが見えた。
フィルガルドにはエリスがいると必死な顔で訴えたクローディアを見て胸が痛んだ。
そして、フィルガルドが『クローディアのことを愛している』と言った時のクローディアの切なそうな顔を見て思わず目を背けた。
フィルガルドが『誰にも渡さない』と言った時の瞳の揺らぎを見た時……ようやく気付いた。
クローディアはずっと自分にとって――フィルガルドの妻だったということに……
ブラッドがこれまでの人生で一番深く関わった人物はフィルガルドだ。
そしてこれまでクローディアを大切にしてきた理由の一つに『フィルガルドの妻』だからという想いがあったことに先ほど気づいた。
ブラッドもまたこれまでクローディアは大切で慈しんでいたが、あくまでもフィルガルドの妻としての範疇を超えることなく、大切にしていた。
だからこそ常に心の中で彼女への想いが膨らむことを制御して抑えつけて来た。
だがクローディアが誰の名前も口にしなかったことで、ブラッドはクローディアという人物を独占したいと、彼女にフィルガルドや他の誰でもなく、名前を呼んでほしいと願っていることをようやく自覚した。
「……私もだ、フィルガルド。――私も彼女を誰にも渡したく……ない……」
そうはっきりと自分に教え込むように口にして、ブラッドは顔を上げたのだった。
――――――――――――――――
《 お ま け 》
ジーニアス・シャロンの壁紙新聞【第4号】
〇奇襲を撃退〇【記事担当:ジーニアス】
《速報!!》
カナンの町に到着後、水賊と山賊が何かを画策しているとの情報を入手。
それについて調べている隙に、敵の奇襲に合う。
しかし!!
見事に撃退。
その後で調べで参謀殿の身内が首領だと発覚。
以上がこれまでの流れとなっています。
今後、詳しく調べる予定となっております。
〇今後の進路について〇【記事担当:ジーニアス】
しばらくカナンの町に滞在する予定です。
〇気になるあの人に聞きたい〇【記事担当:シャロン】
今回はとあるルートから頂いたご質問にお答えして頂くためにレイヴィン殿をお呼びしております。
以下
ジ:ジーニアス
シャ:シャロン
レ:レイヴィン
ジ:レイヴィン殿、お忙しい中起こし頂きありがとうございます。
レ:いえいえ、この新聞はクローディア様も楽しみにしていらっしゃるのでしょう? 張り切ってお答えしますよ!!
シャ:そう言って貰えると助かるぜ!! じゃあ、早速『なぜレイヴィンは女力が高いのか、その秘密に迫ってほしい』っていう質問だ。
レ:……女子力……
ジ:以前、クローディア様の髪を結われたのですよね? ラウル殿がとても喜んでおられました。またレイヴィン殿の渾身のヘアアレンジが見たいとおっしゃっていましたよ。
レ:ははは、そうですね……クローディア様のヘアアレンジはぜひともさせて頂きたいですね~~
シャ:やっぱり、あれか? レイヴィン殿には姉君がいるだろう? 小さい頃に教えてもらった~とかそういう感じか?
レ:教えてもらう!? 私が!? 姉上に!?
シャ:おお、びっくりした。急にそんな大声上げてどうしたんだ?
レ:いえ、想像もしていなかった言葉が飛び出してきたので……
ジ:教えてもらっていない、ということですか?
レ:その通りです!! 姉上は教えるどこか、姉の辞書に女子力という言葉はないと言っても過言ではありません。ほっとけば頭は寝癖まみれで鳥の巣のようになり、服は一番上にあるものをとりあえず着る。その服が例え小さくても大きくてお構いなし、髪留めを買っても凶器にするし、ドレスに至っては破いてくるし……私が姉上を整えないとすぐにどこかの少年と間違われるような人なのです!! すぐに訓練に行ってしまうので侍女さえも手を焼き、私が普段から訓練場で姉を整えていました。
ジ:ではレイヴィン殿はどちらで学ばれたのですか?
レ:侍女たちの指導を受けました。
シャ:……結構本格的なんだな。
レ:特にヘアアレンジについては、専門家にお会いして学ばせて頂くこともありました。
ジ:すごいですね~~
シャ:マジか……想像以上にガチだった……
ジ:お姉様のために、そこまで仲が良さそうで羨ましいです。
シャ:そう思うのか……ただのシス……なんでもねぇ。
レ:……家の名誉のため使命感のようなものだったように思います……一応、貴族令嬢でしたので……あの人。
ジ:家の名誉。なるほど……ああ、そろそろ時間ですね。レイヴィン殿、今日はありがとうございます!!
レ:いえいえ。読者の皆様、このレイヴィン、これからも女性の魅力を最大に活かせるように精進する所存です。
シャ:なんのアピールだ?
ジ:何でしょうか? それではまた次回をお楽しみに~~!!
〇お知らせ〇
本日はとあるルートから絶対に新聞に掲載してほしいという声を頂きましたので掲載いたします。
以下
ジ:ジーニアス
シャ:シャロン
ジ:『ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します』絶賛発売中です!! とのことです。
シャ:あれ? それ、前にも紹介しなかったか? しつこくねぇか?
ジ:そう思わなくもありませんが、今月いっぱいはお伝えする予定だそうですよ。
シャ:まぁ、今月いっぱいなら……って、まだ結構日数あるぞ?
ジ:とにかく、よろしくお願いいたします!!
シャ:よろしくお願いいたします!!
――――――――――――――――
次回更新は10月22日(火)です☆
1,448
お気に入りに追加
9,251
あなたにおすすめの小説
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
意地を張っていたら6年もたってしまいました
Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」
「そうか?」
婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか!
「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」
その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。