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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ

250 余韻 +新聞

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 ジーニアスとヒューゴはすでに食事を終えて話をしていると、ラウルも手を止めて顔を上げた。

「ごちそうさまでした。ガルド殿ありがとうございました」

 ラウルが食事を終えると、すぐにブラッドが食堂に入って来た。
 ブラッドは無表情で席に着くと、ジーニアスとヒューゴを見ながら言った。

「待たせたか?」

 ジーニアスは「いえ、先ほど戻ったばかりです」と答えた。そんなジーニアスに向かってブラッドは淡々とした調子で「そうか、では報告を聞こう」と言った。
 ジーニアスは、町の様子と地下室ある研究所のような場所を見つけたことについて報告した。
 話を聞いたブラッドはジーニアスとヒューゴを見ながら言った。

「ご苦労だった。明日、私も確認する。他の者にも明日の朝、伝えよう」

「はい」

「かしこまりました」

 ジーニアスとヒューゴは返事をすると、ブラッドは皆を見ながら言った。

「今日は皆、休んでくれ。私も失礼する」

 終始いつも通りのブラッドを見て、レオンが不満そうに声を上げた。

「不気味なほど変わんねぇな……」

 ブラッドは無言で立ち上がって、座っているレオンを見下ろすと威圧ある声で「失礼する」と言って食堂を出た。
 するとガルドも立ち上がって食堂を出た。

「それでは私も失礼します。おやすみなさい」

 ガルドが食堂を出ると、ジーニアスとヒューゴが食器を持って立ち上がった。

「私たちもこれで」

 ジーニアスとヒューゴが厨房に入って行くと、食堂に残されたレオンが不機嫌そうに呟いた。

「……あいつ……顔色一つ変えないのかよ……?」

 不機嫌そうなレオンに向かってラウルが口を開いた。

「ブラッド様のお考えなど、誰にもわからないと思います。ですが……――少し動揺していたように思いますけど……」

 レオンがラウルの見ながら言った。

「動揺? あれで?」

「ええ、ブラッド様は酷く心配したりすると、全く表情が動かなくなりますので」

「へぇ~~って、副団長……いつの間にスカーピリナ国の言葉を話せるようになったんだよ……」

 確かつい最近まで、ラウルとはアドラーを介さないと話が出来なかったことを思い出す。
 ラウルはレオンに「最近ですよ、指示を出す時に言葉が通じないと不便なので」と答えた。

 ラウルは最近、仕事中も積極的にスカーピリナ国の兵に話かけたり、アドラーに教えてもらったりして言葉を学んでいた。
 
「はぁ~~そうか……――俺も覚えるかな~~」

 レオンが顔を上げてラウルを見ると、ラウルは食器を持って立ち上がった。

「よろしければ私がお教えしますよ、貴重な情報のお礼に。では、レオン殿。失礼いたします」

 そしてラウルも厨房に向かって歩いて行った。
 レオンは、大きく息を吐いたのだった。

「余計なこと言うんじゃなかったな……」

 そしてレオンは伸びをすると食堂を出たのだった。








 早足で廊下を歩くブラッドに向かってガルドが声をかけた。

「フィルガルド殿下とも話をされたのですか?」

 ブラッドは立ち止めるとガルドに背を向けたまま答えた。

「……――ああ」

 そんなブラッドに向かってガルドは目を細めると「焦る必要はありません。……それではブラッド様。おやすみなさい」と言って、歩き出した。
 ブラッドも再び歩き出して、部屋に戻った。



 部屋に入るなりブラッドは片手で顔を押さえた。

「不気味なほど変わらないか……――」

 ブラッドは、顔を押さえたまま動かなった。

(私もフィルガルドのことは言えないな……)

 クローディアがフィルガルドに向かって口にした言葉……

 ――……私には……他にがいます。

 恐らくその言葉は今のクローディアから溢れて来た紛れもない内心を現した言葉なのだろう。

 だが……

 決してブラッドの名前を口にしたわけではなかった。
 
 あの時、もしクローディアがはっきりとブラッドの名前を口にしてくれたら、ブラッドはその場で彼女を抱きしめてフィルガルド前で堂々と『私も愛している』と宣言したかもしれない。

 だが――クローディアだけはなく、ブラッドの中にはためらいが見えた。

 フィルガルドにはエリスがいると必死な顔で訴えたクローディアを見て胸が痛んだ。
 そして、フィルガルドが『クローディアのことを愛している』と言った時のクローディアの切なそうな顔を見て思わず目を背けた。
 フィルガルドが『誰にも渡さない』と言った時の瞳の揺らぎを見た時……ようやく気付いた。

 クローディアはずっと自分にとって――フィルガルドの妻だったということに……

 ブラッドがこれまでの人生で一番深く関わった人物はフィルガルドだ。
 そしてこれまでクローディアを大切にしてきた理由の一つに『フィルガルドの妻』だからという想いがあったことに先ほど気づいた。
 ブラッドもまたこれまでクローディアは大切で慈しんでいたが、あくまでもフィルガルドの妻としての範疇を超えることなく、していた。

 だからこそ常に心の中で彼女への想いが膨らむことを制御して抑えつけて来た。

 だがクローディアが誰の名前も口にしなかったことで、ブラッドはクローディアという人物を独占したいと、彼女にフィルガルドや他の誰でもなく、名前を呼んでほしいと願っていることをようやく自覚した。

「……私もだ、フィルガルド。――私も彼女を誰にも渡したく……ない……」

 そうはっきりと自分に教え込むように口にして、ブラッドは顔を上げたのだった。









――――――――――――――――


《 お ま け 》


ジーニアス・シャロンの壁紙新聞【第4号】


〇奇襲を撃退〇【記事担当:ジーニアス】
《速報!!》
カナンの町に到着後、水賊と山賊が何かを画策しているとの情報を入手。
それについて調べている隙に、敵の奇襲に合う。
しかし!!
見事に撃退。
その後で調べで参謀殿の身内が首領だと発覚。

以上がこれまでの流れとなっています。
今後、詳しく調べる予定となっております。


〇今後の進路について〇【記事担当:ジーニアス】

しばらくカナンの町に滞在する予定です。


〇気になるあの人に聞きたい〇【記事担当:シャロン】

今回はとあるルートから頂いたご質問にお答えして頂くためにレイヴィン殿をお呼びしております。

以下
ジ:ジーニアス
シャ:シャロン
レ:レイヴィン


ジ:レイヴィン殿、お忙しい中起こし頂きありがとうございます。
レ:いえいえ、この新聞はクローディア様も楽しみにしていらっしゃるのでしょう? 張り切ってお答えしますよ!!
シャ:そう言って貰えると助かるぜ!! じゃあ、早速『なぜレイヴィンは女力が高いのか、その秘密に迫ってほしい』っていう質問だ。
レ:……女子力……
ジ:以前、クローディア様の髪を結われたのですよね? ラウル殿がとても喜んでおられました。またレイヴィン殿の渾身のヘアアレンジが見たいとおっしゃっていましたよ。
レ:ははは、そうですね……クローディア様のヘアアレンジはぜひともさせて頂きたいですね~~
シャ:やっぱり、あれか? レイヴィン殿には姉君がいるだろう? 小さい頃に教えてもらった~とかそういう感じか?
レ:教えてもらう!? 私が!? 姉上に!?
シャ:おお、びっくりした。急にそんな大声上げてどうしたんだ?
レ:いえ、想像もしていなかった言葉が飛び出してきたので……
ジ:教えてもらっていない、ということですか?
レ:その通りです!! 姉上は教えるどこか、姉の辞書に女子力という言葉はないと言っても過言ではありません。ほっとけば頭は寝癖まみれで鳥の巣のようになり、服は一番上にあるものをとりあえず着る。その服が例え小さくても大きくてお構いなし、髪留めを買っても凶器にするし、ドレスに至っては破いてくるし……私が姉上を整えないとすぐにどこかの少年と間違われるような人なのです!! すぐに訓練に行ってしまうので侍女さえも手を焼き、私が普段から訓練場で姉を整えていました。
ジ:ではレイヴィン殿はどちらで学ばれたのですか?
レ:侍女たちの指導を受けました。
シャ:……結構本格的なんだな。
レ:特にヘアアレンジについては、専門家にお会いして学ばせて頂くこともありました。
ジ:すごいですね~~
シャ:マジか……想像以上にガチだった……
ジ:お姉様のために、そこまで仲が良さそうで羨ましいです。
シャ:そう思うのか……ただのシス……なんでもねぇ。
レ:……家の名誉のため使命感のようなものだったように思います……一応、貴族令嬢でしたので……あの人。
ジ:家の名誉。なるほど……ああ、そろそろ時間ですね。レイヴィン殿、今日はありがとうございます!!
レ:いえいえ。読者の皆様、このレイヴィン、これからも女性の魅力を最大に活かせるように精進する所存です。
シャ:なんのアピールだ?
ジ:何でしょうか? それではまた次回をお楽しみに~~!!


〇お知らせ〇

本日はとあるルートから絶対に新聞に掲載してほしいという声を頂きましたので掲載いたします。
以下
ジ:ジーニアス
シャ:シャロン

ジ:『ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します』絶賛発売中です!! とのことです。
シャ:あれ? それ、前にも紹介しなかったか? しつこくねぇか?
ジ:そう思わなくもありませんが、今月いっぱいはお伝えする予定だそうですよ。
シャ:まぁ、今月いっぱいなら……って、まだ結構日数あるぞ?
ジ:とにかく、よろしくお願いいたします!!
シャ:よろしくお願いいたします!!









――――――――――――――――






次回更新は10月22日(火)です☆







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