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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ

244 客人(1)

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 クローディアたちが食堂で待機していた頃。
 ガルドとハイマ兵とアリスが船に戻って来た。

「ラウル殿、賊を連れて来ました」

 ガルドはラウルを見ながら言った。

「ああ……ご苦労様です」

 ラウルは辺りを見回しながら尋ねた。

「それで、賊は?」

 ラウルの言葉に後ろに控えていた兵が3人の賊を差し出した。

「ラウル副団長!! こちらです」

「え……はい」

 ラウルは、ガルドと賊を交互に見た。

「残りの賊はアジトに捕えているのですか?」

 ガルドは首を横に振りながら答えた。

「いえ? 全て捕えて連れて来ましたよ」

 ラウルはガルドをじっと見た後に賊を捕らえている兵に向かって言った。

「船後方の小屋の前で、ケインが見張りをしている。そこへ連れて行け。残りの者は船の警備と、賊を捕らえている者たちの補佐に」

「はっ!!」

 ラウルの言葉に、兵がたちが動き出した。
 残ったガルドに向かってラウルが鋭い視線を向けながら尋ねた。

「ガルド殿、これはどういうことですか?」
 
 ガルドは他の兵がいなくなったのを見ながら言った。

「まぁ、つまりは踊らされたってわけだ。船を襲うのが本命で、アジトに行ったら彼ら3人しかいなかった。それにどうやら賊……というわけではないかもしれない」

 そしてガルドはラウルを見ながら言葉を続けた。

「まぁ、船にはラウルたちがいたからな……心配はしていなかった。やはり問題にようだな」

 ラウルは顔を赤くすると、後ろを向いた。
 そして後ろを向いたまま言った。

「当然です……あなたに……教えを受けたのですから……あの程度では……負けません」

 そう言ってラウルも捕えた兵の元へ歩いて行った。
 アリスが、目を細めるガルドの顔を覗き込みながら言った。

「へぇ~~堅物で有名なシーズルス副団長様もガルド様の前では、あんなに可愛い反応をされるのですねぇ~~」
 
 ガルドはアリスを見て、困ったように眉を下げながら言った。

「……それ、本人には言わないでください」

「あ、口調戻っちゃった、残念。でも……ふふふ、わかってます。私、ガルド様に嫌われたくないですから。結構本気で」

 アリスが真剣な顔でガルドを見た。
 ガルドは困ったように頭をかきながら言った。

「私には妻もかわいい子供もいますよ?」

 アリスは目を細めて言った。

「妻と子供……それはにはでしょう?」

「…………」

 ガルドが探るような瞳でじっとアリスを見つめた。
 アリスは切なそうに目を細めながら言った。

「言ったはずですよ。あなたに嫌われたくないって……大丈夫、悪いようにはしません。あなたの目的もわかっているつもりですから……」

 ガルドは真剣な顔をしてアリスに探るような視線を向けたが、アリスはその視線を正面から真っすぐに受け止めた。
 
「悪いようにしないなら、なぜあえて口にしたのです? 何が目的ですか?」

 ガルドの言葉に、アリスは少し考えた後に言った。

「目的? 今後のクローディア様の護衛のためにも個人的にも確認したかっただけです。あなたは自分が思う以上に有名ですから……でも、そうですね~~では、口止め料はガルド様のキスがいいですわ」

 にっこりと笑ったアリスにガルドは少し悩んだ後に、すぐに顔を近づけてアリスの額にキスをした。

「……え?」

 アリスは心底驚いたような顔をしてガルドを見上げた。目が合うとガルドが目を細めて笑った。

「約束、守って下さいね。では、私は先に船に戻ります」

 そしてガルドはすたすたと船の中に向かって歩いて行った。

「は……?」

 アリスは数秒固まった後に顔を真っ赤にしたまま両手で額を押さえた。

「嘘……」

 そして数秒固まった後に顔を真っ赤にして唇を尖らせながら呟いた。

「……ずるい、まるでこどもにするみたいに簡単に。……口にって……言えばよかった……」

 しばらくしてアリスも立ち上がると、ガルドの後を追って船に戻ったのだった。








 ラウルが捕えた兵の元に戻ろうとしていると、レオンとレイヴィン、スカーピリナ国、ベルン国連合軍が戻って来た。

 ラウルはレオンたちを見たが、捕らえた者たちの姿が見えなかった。

(レオン殿下たちも罠だったのか……)

 先ほどのガルドたちの例もあったので、ラウルはすぐに罠だったのだと思った。
 段々と距離が近くなりレオンが馬を降り話ができるほど近づいたので、ラウルが尋ねた。

「そちらも罠だったのですか?」

 ラウルの言葉にレオンは眉を寄せながら答えた。

「罠……と言えば罠か……船を襲った連中の首領を連れて来たが……」

「首領を?」

 ラウルが顔を上げると、レイヴィン馬の前に座っていた少年が「私で~~す」と言った。
 そして、馬からするりと降りると頭を下げた。

「あなた、ハイマ国の騎士でしょう? しかも、さっきから指示を出していたから、それなりに地位のある人。いつも弟がお世話になっております。もしも、弟がスカーピリナ国軍を抜けたら、ぜひ雇って……」

 レイヴィンが慌てて馬を降りると少年の口元を片手で覆った。

「ちょっと、姉上。ストップ!!」

 レイヴィンがヒルマの口を覆い、ラウルを見ながら言った。

「ラウル殿、姉のヒルマです。少々身なりを整えて、ブラッド殿の許可を貰ったらクローディア様にお目通りを願いたいと思います。それまで、私の部屋に連れて監視します。絶対に逃がしませんのでどうかご容赦下さい」

 ラウルは目を大きく開けた。

「え? レイヴィン殿が監視?」

 ラウルの言葉に、レオンも溜息を付きながら言った。

「副団長、悪いな。俺からも頼む。私の部下を部屋の前に見張りにつける」

 ラウルは「わかりましたが、絶対に逃がさないで下さい」と言った。
 するとレイヴィンが頭を下げた。

「恩にきります。姉上、行きますよ」

 レイヴィンは首領の口を押さえながら歩いていたがやがてラウルから離れると口を覆っていたレイヴィンに手を外しながら言った。

「ふごふごふご、ちょっと、レイちゃんったら、息が苦しいじゃない」
「姉上が余計なことを言うからです!!」
「あいさつしただけじゃない」

 レイヴィンは、捕らえたという賊の首領と共に船に入って行った。
 そしてレオンもスカーピリナ国とベルン国の兵に捕えた兵に『2名はレイヴィンに、あとはラウルの指示を仰げ』と言うと、ラウルに向かって「指導係に確認を取る」と言って船に入って行った。

 ラウルは、スカーピリナ国の兵たちの指示を与えた後に、少し考えて再び船を見た。

「……姉上? ……レイちゃん?」

 そして首を傾けたが、すぐに兵たちの様子を確認するために港の小屋に向かったのだった。





――――――――――――――――






次回更新は10月8日(火)です☆






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