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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ

240 水賊のアジト 【戦闘シーン??】

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本日も戦闘シーン??
剣を抜きますが、比較的すぐに終わってしまいます。
ですので、苦手な方も見て頂けると思います。



――――――――――――――――








 クローディアたちの待つ船を離れて、ガルドとハイマ兵はアリスの案内で水賊のアジトに来ていた。
 水賊のアジトは、およそアジトというのは相応しくないような立派な屋敷だった。
 場所も大変見晴らしがよく、庭も美しい。恐らく元は裕福な貴族の別荘だったのかもしれない。
 だが、今も全く荒れ果てた様子はなく、庭の草木も美しく整えられているし、屋敷の外観も細やかな修繕をされている。

(訓練所まであるのか……普段は多くの人間が生活をしていそうだ……だが……静か過ぎる)

「……アリスさん、ここですか?」

 ガルドが尋ねるとアリスは「はい」と答えた。
 ガルドは周囲を見渡し、ハイマ兵を配備した。元副団長だったガルドを知る者は多く、皆「はっ!!」と言って意気揚々と、配置された場所に向かった。

「アリスさんは隠れていて下さい。では、いってきます」

 ガルドがアリスにそう告げて、一人で屋敷の中に入ろうとすると、アリスもガルドの後をついてきた。ガルドは立ち止まってアリスを見ると、「危険ですよ」と言った。するとアリスはにっこりと笑いながら言った。

「ガルド様と一緒の方が危険がないと判断しました。ここに一人でいるのも危険でしょう? ガルド様の後ろに邪魔はしませんので……」

 アリスの意思の強そうな瞳を見て、小さく息を吐いた。

「わかりました。何かあったら、抱きかかえても逃がしますがよろしいですか?」

 アリスは優雅に「あら、ガルド様に抱きかかえてもらえるなら光栄ですわ! ぜひ!! 有事と言わずいつでもどうぞ!!」と言った。
 ガルドは、困ったように笑うと「わかりました」と言ってアリスと共に屋敷の中に入った。

 屋敷の中にはほとんど人の気配がなかった。

(……静かだな――)

 ガルドは、ゆっくりとアリスを守るように先に進んだ。そして二階に上がると、一際重厚な扉の前に剣を持った男性と大きな盾を持った男性が立っているのが見えた。
 二人はガルドを見ると、意外なことにハイマの言葉で「まさか、お一人ですか?」と尋ねた。
 ガルドは困ったように「一人というわけではありませんが……」がと答えた。
 そして守りの男性のあっさりとした様子に、柱の影に隠れていたアリスも顔を出した。

「これは、少々意外な組み合わせで驚きました。隊長とお話されますよね? 中へどうぞ」

(隊長?)

 ガルドは剣を持った見張りの男の言葉を心の中で繰り返した。
 アリスは、ガルドに近づくとガルドを見上げながら言った。

「これは罠でしょうか?」

 ガルドは「罠でも、話が出来そうな相手なら話をする必要があるかと思います」と答えた。するとアリスが嬉しそうに笑いながら言った。

「ふふふ、本当に噂以上にガルド様って素敵ですわね。そうですね、話のできる相手ならしたいですよね。行きましょう!!」

 アリスの言葉にガルドが驚きながら言った。

「え? あなたも中に?」
「ええ。ここで一人で待っている方が危険でしょ?」

 ガルドの袖を掴みながら上目遣い見上げるアリスにガルドは困ったように「わかりました」というと、見張りの兵に声をかけた。

「では、隊長の元へ案内お願いします」
「どうぞ」

 盾を持った男が扉を開けると、部屋の中にはガルドより少し年下だと思われる赤に近い茶色の髪の男性がソファから立ち上がった。そして待っていた男性もハイマの言葉で語りかけた。

「ようこそ、シュトラール卿と……お嬢さん??」
「……私を知っているのですか?」

 ガルドは眉を寄せながら言った。男は「ええ。もちろん」と言った。
 そして目を細めて言った。

「ここが水賊のアジトだと情報を流せば、必ずあなたが少しの兵を引き連れて、単身乗り込んで来ると踏んでいました。あなたは、死神と呼ばれながらも意識を失わせて『捕える』だけ……お優しいあなたに乗り込まれても私がケガする程度ですので……被害は最小です」

 アリスが青い顔で呟いた。

「まさか……町の人がすぐにここを教えてくれたのは……――罠?」
「ふふふ、ご明察。水賊とは水の上を拠点にしているので水賊と呼ばれているのですよ。こんな町の高台を拠点にしているわけがない……(真の拠点に行かれて何かあっても困るからな……)」

 男の言葉に、ガルドは男の言葉の裏に何か意図を感じて眉を寄せた。
 だが、アリスは青い顔で謝罪した。

「ガルド様、申し訳ございません」

 ガルドは、男を見たままアリスの頭に手を置いて、「この地に腰を下ろし、策をめぐらされていたのなら、短時間しか捜査時間のなかったあなたの責を問うのは酷でしょう?」と言った。
 ガルドは男を見たまま声を上げた。

「それに……あなたが優秀だったからこそ、ここに導かれたのでしょう」
「え!?」

 アリスが驚きながら声を上げた。

「随分と戦いに慣れた者たちのようです。間者の動きが優秀なら優秀なほど自分たちの情報を集めるように町中に罠を仕掛けた……あなた方は旧ザウル国の者ですね?」
「シュトラール卿……あなたも随分とお詳しいようだ、さすがですね」

 ガルドは冷静さを保ったまま言った。

「恐らく、ここの様子を見る限り、我々が船を出たと同時に船を襲ったのでしょう? ……もしも、船に何かあったら、もっと外が騒がしいはずです。ですが……静かだ。きっと船に残る者たちが食い止めたのしょう。船に残る者もひとかたならぬ人たちですから」

 ガルドの言葉に男がニヤリを笑いながら言った。

「それはどうでしょうか? シュトラール卿がいないのなら、我が最強小隊が負けるはずはない」

 アリスが呟いた。

「我が……最強小隊? そんなに……私の情報が間違ったばかりに……クローディア様を危険に……」

 ガルドは顔を青くして絶望するアリスに優しく声をかけた。

「アリスさん、大丈夫です。今、船にはくらいでは太刀打ちできない人たちが乗ってますので」
「……え?」

 男は大きな窓を開けて、広いバルコニーに出ると剣を抜いた。

「シュトラール卿、お相手願いますか?」

 そしてガルドもバルコニーに出ると剣を抜いた。
 しかしガルドが剣を抜いた時には、男の剣は空高くに舞い上がっていた。
 
「す、凄い……見えなかった……」

 アリスは金属音を立ててバルコニーに落ちる剣を見てようやく、ガルドが攻撃を仕掛けたことを理解した。

「これが……トランのシュトラール卿の実力か……想像以上に速い!!」

 すると男が両手を差し出した。

「どうぞ、ついて行きましょう」

 ガルドは、手早く男の手を拘束した。
 そして部屋の見張りをしていた兵も連れて、ハイマ兵と共に船に引き上げたのだった。





――――――――――――――――

 





 次回更新は9月28日(土)です☆





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