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1巻
1-3
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「はぁ~~~~お飾りの王太子妃もつらいわ……」
「……最低だと聞いていたが、付け焼刃にしては上出来だったぞ? お飾りの妃殿下」
テラスの柱の影から声が聞こえて、私は急いで声をあげた。
「誰?」
柱の影から出てきたのは、黒髪に紫水晶のような瞳の男性。失礼極まりないことを言われたにもかかわらず、月明かりに照らされたその美しい顔は、私から言葉を奪ってしまった。
男性は黙り込む私に近付いて、無表情に言った。
「今夜の主役のあなたが共も付けずに、一人でここにいるのはいかがなものかと思うけどな」
初めて見る顔なので、名乗ってもらわないとわからない。私のことを、王太子妃だと知ってもなおこの物言い。しかもここは高位貴族のみが入れるテラス……きっとそれなりの身分の男性なのだろうが……
でもそれだけじゃわからない。
私はこの人物が誰だかわからないが、嫌味には嫌味で対抗することにした。
「付け焼刃のお飾りの王太子妃だからこそ、疲れたから一人になりたかったの。今まで社交も真面目にしてこなかったから、私にはあなたが誰かもわからないわ。名乗ってもくれないしね!」
私も敬語を崩して、不遜な態度で言った。
「どうやら、この場では私の名前は邪魔なようだ。クローディア殿、短期間での成長は見事だった」
男性はそう言うと、私から少し離れた場所に立ったまま、庭園を見つめた。
それっきり男性は何も言わなかった。私はなぜかその場を動けなかった。
しばらくすると、バタバタと足音がして、護衛騎士が迎えに来てくれた。
「迎えが来たようだな。ではな」
男性は護衛騎士の姿を見ると、騎士とは反対方向の扉から音もなくテラスを出ていってしまった。
「え? 何……? もしかして……私が一人にならないように一緒にいてくれたとか……?」
結局私は失礼極まりない男性の名前も聞けなかった。
「あの人、私が成長したって……見事って……」
ずっとがむしゃらに頑張ってきた私を褒めてくれたのは、先ほどの失礼な男だけだったのだ。
私は嬉しくて、不覚にもずっと我慢していた涙を流してしまったのだった。
◇
本当に長い一日だった。
私はお風呂の中で眠ってしまいそうになりながらも、入浴を手伝ってくれる専属侍女のリリアとずっと話をしていたおかげで居眠りを免れた。
「おやすみなさいませ。クローディア様」
「おやすみなさい。リリア」
寝室では一人になりたいので、私はいつものようにリリアとは寝室の扉の前で別れた。
「やっと寝れる……」
私はベッドに倒れ込みたいと思い、フラフラと歩いて、寝室の扉を開けて――固まった。
「……え?」
私の寝室にはフィルガルド殿下がいたのだ。
殿下は月明かりの中、ラフな姿でソファに座っていた。
どうして、ここにフィルガルド殿下が?
もしかして部屋を間違えた?
疲れもあって混乱していると、フィルガルド殿下がとても嬉しそうに言った。
「待っていましたよ。クローディア」
待ち合わせなんてしていない。
それに明日からはしばらくフィルガルド殿下と顔を合わせる用事はなかったはずなので、打ち合わせもないだろう。
私は本気でフィルガルド殿下が、この部屋にいる理由がわからなかった。
「……待っていた? なぜ殿下がこちらに?」
私は、ようやく動き出した口から精一杯言葉を捻り出した。
フィルガルド殿下が少しだけ驚いた顔をして、私の近くに歩いてきた。そして、私を見つめながら言った。
「……今日は初夜でしょう?」
……初夜?
そういえば、そんな風習もあったね……
でも、それって普通の夫婦の話だよね?
私たちの間に初夜なんてものは存在しない。だからこそ、私も初夜という存在そのものが、すっぽりと抜けていた。なぜ、殿下は自分からしたくもない面倒なことに首を突っ込んだのだろうか?
そのまま自室で寝てしまえばよかったものを……
そう思って気が付いた。
そうか! これもお飾りの王太子妃だと私に後で文句を言わせないためか!
これは殿下の自衛の策だ。
新婚初夜に夫が妻の寝室を訪れないというのは、後で私にどんな不平不満を言われるかわからないと危惧したのだろう。もしかしたら殿下は新婚初夜だけは、どんなにつらくても私を抱こうと覚悟していたのかもしれない。
――でも、もちろん私には必要ない。
「クローディア……」
私がそんなことを考えている間に、殿下が私を抱き寄せ、整った顔が近付いてきた。
これって、キス?
私は慌てて殿下から顔を背けて、少し早口になりながら声を張りあげた。
「フィ、フィ、フィルガルド殿下!! 待って下さい!!」
「……恥ずかしいのですか?」
よくわからないが、すでに『早く抱いて終わらせようモード』になってしまっている殿下に甘い瞳で見つめられて、私はそのモードを早急に終わらせてもらうように、急いで初夜が必要ないことを伝えた。
「フィルガルド殿下、ご安心下さいませ! 私は殿下との行為は望みません。もちろん後日、不平不満を言うこともありません! 殿下もお疲れでしょうから、どうぞ御自分のお部屋でゆっくりと休まれて下さいませ」
フィルガルド殿下が、私から顔を少し離して眉を寄せながら言った。
「……ですが……今日は、新婚初夜ですよ? 今日くらい……」
殿下よ、そんなに私からのクレームが怖いのか?
大丈夫って言ってるのに!
「殿下、本当に安心して下さい。私が今日のことで、後から何か言うというようなこともありません。ご心配ならここに記録書記官様をお呼びしても……」
私の言葉を聞いたフィルガルド殿下が、急に不機嫌になったかと思うと、低い声で言った。
「記録書記官? ……クローディアは、初夜に私以外の男を寝室に入れるのですか?」
絶対零度の視線やめてぇ~~~~!!
本当に怖い。それに、人聞きの悪いことを言わないでほしい。
私は記録書記官を呼んで、私の証言を記録して、証拠を確保してもらって構わないという親切心で言ったのだ。
「殿下がご心配だと言うのなら、私の証言を記録するために、呼んで下さっても構わないと言ったのです!」
本当に……勘弁してよ……
確か王太子妃の浮気ってかなり罰が重いんだから……
そっちで断罪されるわけにはいかないので、必死で説明すると、殿下が断言しながら答えた。
「いえ、必要ありません。むしろ……絶対に入れたくはないですね」
「……そうですか」
さすがにいくら私を警戒しているとはいえ、初夜に記録書記官を寝室にまで入れたというと外聞がよくないのかもしれない。まぁ、普通に考えてよくないよね……それに呼ばれた方も困るだろうし……浅はかだった。ではどうやって安心だということを伝えればいいのだろうか、と考えていると、殿下が私の手を握りながら言った。
「では……今日は同じベッドで寄り添って一緒に眠るだけにしますか?」
私は目の前の少し焦った様子の殿下を見て気付いた。
今日は、記録書記官は呼べないのだ。初夜について何か言われた場合、全て殿下の責任になる。
私は白い結婚について、王妃教育を思い出した。一晩一緒のベッドで寝たからといって、白い結婚が成立しないわけではない。
それにこのベッドは元々かなり広い。大人三人がゆっくりと眠れる。
さらに言うと、私はかなり疲れている。このやり取りが面倒だ。私のことを疎ましく思っている男性と一緒に寝て、間違いが起こることもないだろう。
「わかりました。では、ベッドの端と端で寝るということで……」
私はベッドの真ん中にクッションを並べた。
「あの、クローディア……何をしているのですか?」
私はクッションを並べ終えると、殿下を見ながら言った。
「殿下は、こちらをお使い下さい。私はこのクッションの右側で寝ます」
もう今日はフィルガルド殿下と寝ると決めてしまえば、急速に眠気が襲ってきた。
フィルガルド殿下は困惑しているようだが、知ったことではない。
「クッション……?」
私はもう限界だ。眠過ぎる。
昨日私は遅くまで、今日の結婚式の手順などを覚えていた。しかも、朝早くからずっと休みなしで緊張の連続というかなりストレスフルな一日を過ごしたのだ。
過度の疲労により意識が段々薄れてきた。
「はいそうです。殿下、申し訳ございませんが、私はもう休みます。お休みなさい」
私は早々にベッドに入った。
「クローディア? 本当にもう眠ってしまうのですか?」
「…………」
殿下の声が聞こえる気がするが、本気で眠いのだ。もう……無理だ……
「クローディア……私への愛を失ったから変わったというのは本当なのですか? ……だとすれば……残酷なのは、あなたの方ですよ……」
夢の中で殿下の声がして、唇に何か柔らかいものを感じた気がするが、それが何かを理解することができないほど、私の意識はすでに深い眠りに落ちてしまっていた。
◇
目を閉じていても、光を感じる。
王妃教育で疲れて眠ると、私はよくカーテンを閉め忘れて寝ていた。
昨日も疲れてそのまま寝てしまったので、閉め忘れてしまったのだろう。もう少し眠っていたい衝動に駆られたが、二度寝をすると起きるのがかなりつらくなるので、起きることにした。
「ふぁ~~あ……」
私は身体を起こして大きなあくびをしながら両手を伸ばした。
「おはようございます、クローディア」
「ええぇ~~~~~! な、で、で殿下?」
私は思わず大きな声をあげてしまった。
だが、想像してほしい。
いつも一人で寝ているのだ。つまり部屋の中には誰もいないのだ。
それなのにすぐ隣で人の声がしたら――驚くでしょ?
「どうされました? クローディア様!」
ドンドンと扉をノックする音が聞こえた。
私の大声を聞いて、二人の専属侍女の一人であるアリスと護衛騎士が駆けつけてくれたようだった。
私が扉に向かって「大丈夫」と声をあげようとすると、隣に寝ていた人物が少し拗ねたように言った。
「……そんなに驚かなくてもいいのではありませんか?」
――あ、昨日は結婚式で、初夜だから殿下はこの部屋に泊まったんだ……
私はようやく昨日のことを思い出して、殿下を見た。
目の前には陽の光に照らされて輝く金色の髪に、新緑のようなエメラルドの瞳……寝起きにもかかわらず極上の美形。そんな人に寝起きに見つめられて反応が遅れている間に、扉が開いた。
「クローディア様、失礼します!!」
アリスと護衛騎士数人が急いで部屋に入ってきた。
「あ……」
『大丈夫』と声をかけるのを忘れたために、みんなが部屋に入ってきてしまった。
アリスは心配そうにクッションを挟んで寝ていた私と、フィルガルド殿下を見て大急ぎでベッドに近付いてきた。
ちなみに私たちは着崩れなし、クッションを挟んで両端に寝ているので、初夜に何もなかったことが明確だった。
何かを察して同情した瞳を向けてくれている護衛騎士の視線が居たたまれない。
私はそんな人たちに申し訳なくて項垂れながら言った。
「アリス、大きな声を出して心配させて申し訳なかったわ。私、昨日はすぐに寝てしまったから、殿下がこの部屋にいらっしゃってることを失念していたのよ……」
「殿下がいらっしゃることを失念……」
アリスが呆然と呟くように言った。
「ええ」
私が答えると、殿下が焦ったように声をあげた。
「クローディアは昨日、結婚式で疲れていたので、ゆっくりと休んでもらったのです」
だが部屋に流れる空気は非常に重たい。
その重苦しい空気の中、殿下は「一度部屋に戻ります。ではクローディア……また」と私の手の甲にキスをして寝室を出ていった。
アリスの話によれば、寝室に入ってきたのは、アリスと護衛騎士数人だったが、廊下には私の声を聞いて駆けつけた者が結構いたので噂が広がってしまうとのことだ。
殿下は『私がお飾りの王太子妃ではない』という宣伝活動をしているのだ。
それなのに、これで私と殿下が初夜に男女の関係になっていないことが城中に伝わるだろう。
折角、我慢して私の隣に寝たにもかかわらず、努力が水の泡になってしまったのだ。頭を抱えてしまうのも仕方ないかもしれない。
白い結婚で離婚を目論んでいる私にとっては、この噂が広がるのは悪いことではない。
しかし、アリスはどこか残念そうだった。
「折角、クローディア様がお飾りの王太子妃ではないということを証明する機会でしたのに……私は、クローディア様は素晴らしい王妃様になられると思っております。『お飾りの王太子妃』などど、こんな不名誉な噂など……早く消えてほしいのです」
最近、我儘クローディア時代の私を知らない人たちの間で『クローディア様は正妃に相応しい』と言ってくれる人がいる。
アリスは一カ月ほど前から私の侍女をしてくれているので、以前の私を知らない。
だから、私の噂を聞く度に怒ってくれるのだ。私はそんなアリスにいつものように答えた。
「殿下には好きな方がいらっしゃると言ったでしょう? これでいいのよ。さぁ、王妃教育に行くわ」
私の言葉を聞いたアリスが眉を下げながら言った。
「やはり……お休みされないのですか?」
本来なら結婚式の後、七日は王妃教育を含め全ての公務が休みになる。
だが休むとそれだけシワ寄せがくる。本来この休みは『イチャイチャラブラブの新婚蜜月期』、つまり私には一切関係ない休みだ。
だから、できるだけ王妃教育を終わらせて楽したい。
「ええ。学ぶことがたくさんあるもの」
「かしこまりました。それではお仕度お手伝いいたします」
「よろしくね」
私は、アリスに手伝ってもらって身支度を整えた。
◇
「今日は資料室に行くわ」
「かしこまりました」
支度を終えた私は、私を担当する護衛騎士に資料室に行くと告げた。
結婚式まで、女官のみんなには無理させてしまったので、彼女たちには七日間しっかりと休んでもらって、私は一人で復習と予習をすることにした。
一人で勉強するので、わからないことはすぐに調べられる資料室が都合がいい。
ちなみにこの世界には図書館もあるし、本もある。
だが王妃教育の内容は本にはなっておらず、高位貴族しか入れない資料室にしか資料がない。
「ここで待っていて」
「はっ」
私は、護衛騎士を資料室の前で待たせた。この資料室は何度か来たが、室内にはほとんど人はいない。
それに私も一人で集中したかった。
私は机に文箱を置くと、勉強を始めた。するとすぐにわからないことがあったので、資料を探すために席を立った。探していた資料を見つけたが、高いところにある。
届かない……せめてあと、二十センチ高かったら……
二十センチというとかなり高い気もするが、それくらいの身長がないと全く届かない。
あきらめて踏み台を探そうとしていた時。
「これか?」
「……え?」
背後から手が伸びてきたかと思うと、誰かが私の取りたかった資料を取ってくれた。
「ありがとうございます」
私はすぐにお礼を言って取ってくれた人物の顔を見た。
「あ! あなた……」
そこには、昨日の結婚披露パーティーのテラスで出会った謎の男性が立っていた。
男性は紫の瞳でじっと私を見つめながら、資料を手渡してくれた。
「今日は休みのはずだが、随分と熱心だな」
どうして休みを知っているのかと聞こうと思ったが、新婚の王族が七日間休みを貰えるのは、謁見可能な貴族には周知の事実なので、この資料室に入れるほどの身分であろうこの男性が知っていても不思議ではない。
私は予期せぬ再会にすっかり狼狽えてしまい、他にもたくさん聞きたいことはあったはずなのに、答えのわかりきった質問をしてしまった。
「……あなたはどうしてここへ?」
聞いてから、資料室にいる理由なんて、資料を見る以外にはないと気付いたがもう遅かった。
もう~~! 他にも『あなたは誰?』とかもっと大事なことがあるでしょう~~?
私が質問を間違えたことを後悔していると、男性が無言で私の前に書類を差し出した。
そして男性は藪から棒に言った。
「これを見て、どう思う?」
――は?
どう思う?
名乗りもせずに、いきなり人の前に書類を差し出してどう思うか、とな?
何、これクイズなの?
「見てみるわ」
私は自分の探していた資料を近くの小さなテーブルに置いて、軽い気持ちで男性の差し出した書類を手に取って……後悔した。
これ、全然軽い内容じゃないじゃん!
私は懸命に書類に目を通した。この書類は、どこかとどこかの数年分の取引記録のようだ。どことどこの取引かは固有名詞が全くないのでわからない。
一方が明らかに不利な条件での取引。だが、決定的な内容を断定するにはとても重要な情報が足りない。
「これは国外、国内、どちらの取引資料なの?」
男性は少しだけ目を開け、驚いたように見えた。そして、わずかに口の端を上げながら言った。
「よくそれが取引記録だとわかったな。そんな内容は学んでいないはずだが……?」
前世の私は商品開発部に所属していたが、その前は営業事務だった。だから、取引記録の類いは種類が変わっても場所が変わっても大体はわかる。まさか、こんな異世界でその知識が役に立つとは思わなかった。
だが……不可解なことにこの男性は私がこの内容を学んでいないと断定した。
私は追及されても困るのでお茶を濁すことにした。
「褒められたと受け取っておくわ。……それで、私の質問の答えは?」
私が男性を睨むように見ると、男性がじっと私を見ながら言った。
「その答えの前に、なぜ、そのような質問をしたのか問いたい」
質問にさらに質問で返すなんて失礼だが、この男は出会った時から失礼だったから今さらだ。私は息を吐いて、書類を男性に見せながら言った。
「その答えによって、この資料の意味が変わってくるからよ」
「どう変わるんだ?」
私は書類を指差しながら言った。
「これが国と国の取引なら、貿易摩擦で外交問題。これが、我が国の領内の取引なら不正取引、汚職の証拠資料となるわ」
私の言葉を聞いた男性が、口元を少しだけ緩めながら言った。
「これは嬉しい誤算だ。あの慈悲深いフィルガルド殿下が匙を投げたと聞いていたからな、使えないのかと思っていたが……君は、本当に恋に狂っていただけなのか……」
――恋に狂う。
凄い言われようだが、以前のクローディアは、まさに狂人だったので、あまり強く言えないのが悔しいところだ。
「それで、どっちなんです?」
私が男性を睨むと、男性は「ふっ」と小さく笑った後に口を開いた。
「これは国内の取引書類。つまり、不正取引の証拠だ。これからこの資料の裏付けを取るつもりだ」
不正書類の裏付け……
随分と地味なのに大変そうな仕事だ。でも、私は知っている。こういう地味で大変な仕事が全ての明暗を分けるほど大切だということを。
もしかしたら、この人は高位貴族の補佐官や、側近などの仕事をしているのかもしれない。
「大変ですね……頑張っ……」
「資料探すの手伝ってくれ」
私が男性を労おうとしていると、男性に言葉を被せられた。
「え? 手伝う? 私が?」
「そうだ。これが詳しい資料だ。頼んだぞ」
「は? え?」
私は男性に渡された資料と男性を交互に見た。この資料にははっきりと領の名前が入っている。
こんなの社外秘案件だ。いやいや極秘文書案件かもしれない。とにかくマズイ気がする。これ、コンプライアンス違反にならない? 大丈夫?
私がヒヤヒヤしていると、男性が声をあげた。
「こっちだ」
「え? もう、勝手な!」
私は男性の後ろを歩いた。
「……最低だと聞いていたが、付け焼刃にしては上出来だったぞ? お飾りの妃殿下」
テラスの柱の影から声が聞こえて、私は急いで声をあげた。
「誰?」
柱の影から出てきたのは、黒髪に紫水晶のような瞳の男性。失礼極まりないことを言われたにもかかわらず、月明かりに照らされたその美しい顔は、私から言葉を奪ってしまった。
男性は黙り込む私に近付いて、無表情に言った。
「今夜の主役のあなたが共も付けずに、一人でここにいるのはいかがなものかと思うけどな」
初めて見る顔なので、名乗ってもらわないとわからない。私のことを、王太子妃だと知ってもなおこの物言い。しかもここは高位貴族のみが入れるテラス……きっとそれなりの身分の男性なのだろうが……
でもそれだけじゃわからない。
私はこの人物が誰だかわからないが、嫌味には嫌味で対抗することにした。
「付け焼刃のお飾りの王太子妃だからこそ、疲れたから一人になりたかったの。今まで社交も真面目にしてこなかったから、私にはあなたが誰かもわからないわ。名乗ってもくれないしね!」
私も敬語を崩して、不遜な態度で言った。
「どうやら、この場では私の名前は邪魔なようだ。クローディア殿、短期間での成長は見事だった」
男性はそう言うと、私から少し離れた場所に立ったまま、庭園を見つめた。
それっきり男性は何も言わなかった。私はなぜかその場を動けなかった。
しばらくすると、バタバタと足音がして、護衛騎士が迎えに来てくれた。
「迎えが来たようだな。ではな」
男性は護衛騎士の姿を見ると、騎士とは反対方向の扉から音もなくテラスを出ていってしまった。
「え? 何……? もしかして……私が一人にならないように一緒にいてくれたとか……?」
結局私は失礼極まりない男性の名前も聞けなかった。
「あの人、私が成長したって……見事って……」
ずっとがむしゃらに頑張ってきた私を褒めてくれたのは、先ほどの失礼な男だけだったのだ。
私は嬉しくて、不覚にもずっと我慢していた涙を流してしまったのだった。
◇
本当に長い一日だった。
私はお風呂の中で眠ってしまいそうになりながらも、入浴を手伝ってくれる専属侍女のリリアとずっと話をしていたおかげで居眠りを免れた。
「おやすみなさいませ。クローディア様」
「おやすみなさい。リリア」
寝室では一人になりたいので、私はいつものようにリリアとは寝室の扉の前で別れた。
「やっと寝れる……」
私はベッドに倒れ込みたいと思い、フラフラと歩いて、寝室の扉を開けて――固まった。
「……え?」
私の寝室にはフィルガルド殿下がいたのだ。
殿下は月明かりの中、ラフな姿でソファに座っていた。
どうして、ここにフィルガルド殿下が?
もしかして部屋を間違えた?
疲れもあって混乱していると、フィルガルド殿下がとても嬉しそうに言った。
「待っていましたよ。クローディア」
待ち合わせなんてしていない。
それに明日からはしばらくフィルガルド殿下と顔を合わせる用事はなかったはずなので、打ち合わせもないだろう。
私は本気でフィルガルド殿下が、この部屋にいる理由がわからなかった。
「……待っていた? なぜ殿下がこちらに?」
私は、ようやく動き出した口から精一杯言葉を捻り出した。
フィルガルド殿下が少しだけ驚いた顔をして、私の近くに歩いてきた。そして、私を見つめながら言った。
「……今日は初夜でしょう?」
……初夜?
そういえば、そんな風習もあったね……
でも、それって普通の夫婦の話だよね?
私たちの間に初夜なんてものは存在しない。だからこそ、私も初夜という存在そのものが、すっぽりと抜けていた。なぜ、殿下は自分からしたくもない面倒なことに首を突っ込んだのだろうか?
そのまま自室で寝てしまえばよかったものを……
そう思って気が付いた。
そうか! これもお飾りの王太子妃だと私に後で文句を言わせないためか!
これは殿下の自衛の策だ。
新婚初夜に夫が妻の寝室を訪れないというのは、後で私にどんな不平不満を言われるかわからないと危惧したのだろう。もしかしたら殿下は新婚初夜だけは、どんなにつらくても私を抱こうと覚悟していたのかもしれない。
――でも、もちろん私には必要ない。
「クローディア……」
私がそんなことを考えている間に、殿下が私を抱き寄せ、整った顔が近付いてきた。
これって、キス?
私は慌てて殿下から顔を背けて、少し早口になりながら声を張りあげた。
「フィ、フィ、フィルガルド殿下!! 待って下さい!!」
「……恥ずかしいのですか?」
よくわからないが、すでに『早く抱いて終わらせようモード』になってしまっている殿下に甘い瞳で見つめられて、私はそのモードを早急に終わらせてもらうように、急いで初夜が必要ないことを伝えた。
「フィルガルド殿下、ご安心下さいませ! 私は殿下との行為は望みません。もちろん後日、不平不満を言うこともありません! 殿下もお疲れでしょうから、どうぞ御自分のお部屋でゆっくりと休まれて下さいませ」
フィルガルド殿下が、私から顔を少し離して眉を寄せながら言った。
「……ですが……今日は、新婚初夜ですよ? 今日くらい……」
殿下よ、そんなに私からのクレームが怖いのか?
大丈夫って言ってるのに!
「殿下、本当に安心して下さい。私が今日のことで、後から何か言うというようなこともありません。ご心配ならここに記録書記官様をお呼びしても……」
私の言葉を聞いたフィルガルド殿下が、急に不機嫌になったかと思うと、低い声で言った。
「記録書記官? ……クローディアは、初夜に私以外の男を寝室に入れるのですか?」
絶対零度の視線やめてぇ~~~~!!
本当に怖い。それに、人聞きの悪いことを言わないでほしい。
私は記録書記官を呼んで、私の証言を記録して、証拠を確保してもらって構わないという親切心で言ったのだ。
「殿下がご心配だと言うのなら、私の証言を記録するために、呼んで下さっても構わないと言ったのです!」
本当に……勘弁してよ……
確か王太子妃の浮気ってかなり罰が重いんだから……
そっちで断罪されるわけにはいかないので、必死で説明すると、殿下が断言しながら答えた。
「いえ、必要ありません。むしろ……絶対に入れたくはないですね」
「……そうですか」
さすがにいくら私を警戒しているとはいえ、初夜に記録書記官を寝室にまで入れたというと外聞がよくないのかもしれない。まぁ、普通に考えてよくないよね……それに呼ばれた方も困るだろうし……浅はかだった。ではどうやって安心だということを伝えればいいのだろうか、と考えていると、殿下が私の手を握りながら言った。
「では……今日は同じベッドで寄り添って一緒に眠るだけにしますか?」
私は目の前の少し焦った様子の殿下を見て気付いた。
今日は、記録書記官は呼べないのだ。初夜について何か言われた場合、全て殿下の責任になる。
私は白い結婚について、王妃教育を思い出した。一晩一緒のベッドで寝たからといって、白い結婚が成立しないわけではない。
それにこのベッドは元々かなり広い。大人三人がゆっくりと眠れる。
さらに言うと、私はかなり疲れている。このやり取りが面倒だ。私のことを疎ましく思っている男性と一緒に寝て、間違いが起こることもないだろう。
「わかりました。では、ベッドの端と端で寝るということで……」
私はベッドの真ん中にクッションを並べた。
「あの、クローディア……何をしているのですか?」
私はクッションを並べ終えると、殿下を見ながら言った。
「殿下は、こちらをお使い下さい。私はこのクッションの右側で寝ます」
もう今日はフィルガルド殿下と寝ると決めてしまえば、急速に眠気が襲ってきた。
フィルガルド殿下は困惑しているようだが、知ったことではない。
「クッション……?」
私はもう限界だ。眠過ぎる。
昨日私は遅くまで、今日の結婚式の手順などを覚えていた。しかも、朝早くからずっと休みなしで緊張の連続というかなりストレスフルな一日を過ごしたのだ。
過度の疲労により意識が段々薄れてきた。
「はいそうです。殿下、申し訳ございませんが、私はもう休みます。お休みなさい」
私は早々にベッドに入った。
「クローディア? 本当にもう眠ってしまうのですか?」
「…………」
殿下の声が聞こえる気がするが、本気で眠いのだ。もう……無理だ……
「クローディア……私への愛を失ったから変わったというのは本当なのですか? ……だとすれば……残酷なのは、あなたの方ですよ……」
夢の中で殿下の声がして、唇に何か柔らかいものを感じた気がするが、それが何かを理解することができないほど、私の意識はすでに深い眠りに落ちてしまっていた。
◇
目を閉じていても、光を感じる。
王妃教育で疲れて眠ると、私はよくカーテンを閉め忘れて寝ていた。
昨日も疲れてそのまま寝てしまったので、閉め忘れてしまったのだろう。もう少し眠っていたい衝動に駆られたが、二度寝をすると起きるのがかなりつらくなるので、起きることにした。
「ふぁ~~あ……」
私は身体を起こして大きなあくびをしながら両手を伸ばした。
「おはようございます、クローディア」
「ええぇ~~~~~! な、で、で殿下?」
私は思わず大きな声をあげてしまった。
だが、想像してほしい。
いつも一人で寝ているのだ。つまり部屋の中には誰もいないのだ。
それなのにすぐ隣で人の声がしたら――驚くでしょ?
「どうされました? クローディア様!」
ドンドンと扉をノックする音が聞こえた。
私の大声を聞いて、二人の専属侍女の一人であるアリスと護衛騎士が駆けつけてくれたようだった。
私が扉に向かって「大丈夫」と声をあげようとすると、隣に寝ていた人物が少し拗ねたように言った。
「……そんなに驚かなくてもいいのではありませんか?」
――あ、昨日は結婚式で、初夜だから殿下はこの部屋に泊まったんだ……
私はようやく昨日のことを思い出して、殿下を見た。
目の前には陽の光に照らされて輝く金色の髪に、新緑のようなエメラルドの瞳……寝起きにもかかわらず極上の美形。そんな人に寝起きに見つめられて反応が遅れている間に、扉が開いた。
「クローディア様、失礼します!!」
アリスと護衛騎士数人が急いで部屋に入ってきた。
「あ……」
『大丈夫』と声をかけるのを忘れたために、みんなが部屋に入ってきてしまった。
アリスは心配そうにクッションを挟んで寝ていた私と、フィルガルド殿下を見て大急ぎでベッドに近付いてきた。
ちなみに私たちは着崩れなし、クッションを挟んで両端に寝ているので、初夜に何もなかったことが明確だった。
何かを察して同情した瞳を向けてくれている護衛騎士の視線が居たたまれない。
私はそんな人たちに申し訳なくて項垂れながら言った。
「アリス、大きな声を出して心配させて申し訳なかったわ。私、昨日はすぐに寝てしまったから、殿下がこの部屋にいらっしゃってることを失念していたのよ……」
「殿下がいらっしゃることを失念……」
アリスが呆然と呟くように言った。
「ええ」
私が答えると、殿下が焦ったように声をあげた。
「クローディアは昨日、結婚式で疲れていたので、ゆっくりと休んでもらったのです」
だが部屋に流れる空気は非常に重たい。
その重苦しい空気の中、殿下は「一度部屋に戻ります。ではクローディア……また」と私の手の甲にキスをして寝室を出ていった。
アリスの話によれば、寝室に入ってきたのは、アリスと護衛騎士数人だったが、廊下には私の声を聞いて駆けつけた者が結構いたので噂が広がってしまうとのことだ。
殿下は『私がお飾りの王太子妃ではない』という宣伝活動をしているのだ。
それなのに、これで私と殿下が初夜に男女の関係になっていないことが城中に伝わるだろう。
折角、我慢して私の隣に寝たにもかかわらず、努力が水の泡になってしまったのだ。頭を抱えてしまうのも仕方ないかもしれない。
白い結婚で離婚を目論んでいる私にとっては、この噂が広がるのは悪いことではない。
しかし、アリスはどこか残念そうだった。
「折角、クローディア様がお飾りの王太子妃ではないということを証明する機会でしたのに……私は、クローディア様は素晴らしい王妃様になられると思っております。『お飾りの王太子妃』などど、こんな不名誉な噂など……早く消えてほしいのです」
最近、我儘クローディア時代の私を知らない人たちの間で『クローディア様は正妃に相応しい』と言ってくれる人がいる。
アリスは一カ月ほど前から私の侍女をしてくれているので、以前の私を知らない。
だから、私の噂を聞く度に怒ってくれるのだ。私はそんなアリスにいつものように答えた。
「殿下には好きな方がいらっしゃると言ったでしょう? これでいいのよ。さぁ、王妃教育に行くわ」
私の言葉を聞いたアリスが眉を下げながら言った。
「やはり……お休みされないのですか?」
本来なら結婚式の後、七日は王妃教育を含め全ての公務が休みになる。
だが休むとそれだけシワ寄せがくる。本来この休みは『イチャイチャラブラブの新婚蜜月期』、つまり私には一切関係ない休みだ。
だから、できるだけ王妃教育を終わらせて楽したい。
「ええ。学ぶことがたくさんあるもの」
「かしこまりました。それではお仕度お手伝いいたします」
「よろしくね」
私は、アリスに手伝ってもらって身支度を整えた。
◇
「今日は資料室に行くわ」
「かしこまりました」
支度を終えた私は、私を担当する護衛騎士に資料室に行くと告げた。
結婚式まで、女官のみんなには無理させてしまったので、彼女たちには七日間しっかりと休んでもらって、私は一人で復習と予習をすることにした。
一人で勉強するので、わからないことはすぐに調べられる資料室が都合がいい。
ちなみにこの世界には図書館もあるし、本もある。
だが王妃教育の内容は本にはなっておらず、高位貴族しか入れない資料室にしか資料がない。
「ここで待っていて」
「はっ」
私は、護衛騎士を資料室の前で待たせた。この資料室は何度か来たが、室内にはほとんど人はいない。
それに私も一人で集中したかった。
私は机に文箱を置くと、勉強を始めた。するとすぐにわからないことがあったので、資料を探すために席を立った。探していた資料を見つけたが、高いところにある。
届かない……せめてあと、二十センチ高かったら……
二十センチというとかなり高い気もするが、それくらいの身長がないと全く届かない。
あきらめて踏み台を探そうとしていた時。
「これか?」
「……え?」
背後から手が伸びてきたかと思うと、誰かが私の取りたかった資料を取ってくれた。
「ありがとうございます」
私はすぐにお礼を言って取ってくれた人物の顔を見た。
「あ! あなた……」
そこには、昨日の結婚披露パーティーのテラスで出会った謎の男性が立っていた。
男性は紫の瞳でじっと私を見つめながら、資料を手渡してくれた。
「今日は休みのはずだが、随分と熱心だな」
どうして休みを知っているのかと聞こうと思ったが、新婚の王族が七日間休みを貰えるのは、謁見可能な貴族には周知の事実なので、この資料室に入れるほどの身分であろうこの男性が知っていても不思議ではない。
私は予期せぬ再会にすっかり狼狽えてしまい、他にもたくさん聞きたいことはあったはずなのに、答えのわかりきった質問をしてしまった。
「……あなたはどうしてここへ?」
聞いてから、資料室にいる理由なんて、資料を見る以外にはないと気付いたがもう遅かった。
もう~~! 他にも『あなたは誰?』とかもっと大事なことがあるでしょう~~?
私が質問を間違えたことを後悔していると、男性が無言で私の前に書類を差し出した。
そして男性は藪から棒に言った。
「これを見て、どう思う?」
――は?
どう思う?
名乗りもせずに、いきなり人の前に書類を差し出してどう思うか、とな?
何、これクイズなの?
「見てみるわ」
私は自分の探していた資料を近くの小さなテーブルに置いて、軽い気持ちで男性の差し出した書類を手に取って……後悔した。
これ、全然軽い内容じゃないじゃん!
私は懸命に書類に目を通した。この書類は、どこかとどこかの数年分の取引記録のようだ。どことどこの取引かは固有名詞が全くないのでわからない。
一方が明らかに不利な条件での取引。だが、決定的な内容を断定するにはとても重要な情報が足りない。
「これは国外、国内、どちらの取引資料なの?」
男性は少しだけ目を開け、驚いたように見えた。そして、わずかに口の端を上げながら言った。
「よくそれが取引記録だとわかったな。そんな内容は学んでいないはずだが……?」
前世の私は商品開発部に所属していたが、その前は営業事務だった。だから、取引記録の類いは種類が変わっても場所が変わっても大体はわかる。まさか、こんな異世界でその知識が役に立つとは思わなかった。
だが……不可解なことにこの男性は私がこの内容を学んでいないと断定した。
私は追及されても困るのでお茶を濁すことにした。
「褒められたと受け取っておくわ。……それで、私の質問の答えは?」
私が男性を睨むように見ると、男性がじっと私を見ながら言った。
「その答えの前に、なぜ、そのような質問をしたのか問いたい」
質問にさらに質問で返すなんて失礼だが、この男は出会った時から失礼だったから今さらだ。私は息を吐いて、書類を男性に見せながら言った。
「その答えによって、この資料の意味が変わってくるからよ」
「どう変わるんだ?」
私は書類を指差しながら言った。
「これが国と国の取引なら、貿易摩擦で外交問題。これが、我が国の領内の取引なら不正取引、汚職の証拠資料となるわ」
私の言葉を聞いた男性が、口元を少しだけ緩めながら言った。
「これは嬉しい誤算だ。あの慈悲深いフィルガルド殿下が匙を投げたと聞いていたからな、使えないのかと思っていたが……君は、本当に恋に狂っていただけなのか……」
――恋に狂う。
凄い言われようだが、以前のクローディアは、まさに狂人だったので、あまり強く言えないのが悔しいところだ。
「それで、どっちなんです?」
私が男性を睨むと、男性は「ふっ」と小さく笑った後に口を開いた。
「これは国内の取引書類。つまり、不正取引の証拠だ。これからこの資料の裏付けを取るつもりだ」
不正書類の裏付け……
随分と地味なのに大変そうな仕事だ。でも、私は知っている。こういう地味で大変な仕事が全ての明暗を分けるほど大切だということを。
もしかしたら、この人は高位貴族の補佐官や、側近などの仕事をしているのかもしれない。
「大変ですね……頑張っ……」
「資料探すの手伝ってくれ」
私が男性を労おうとしていると、男性に言葉を被せられた。
「え? 手伝う? 私が?」
「そうだ。これが詳しい資料だ。頼んだぞ」
「は? え?」
私は男性に渡された資料と男性を交互に見た。この資料にははっきりと領の名前が入っている。
こんなの社外秘案件だ。いやいや極秘文書案件かもしれない。とにかくマズイ気がする。これ、コンプライアンス違反にならない? 大丈夫?
私がヒヤヒヤしていると、男性が声をあげた。
「こっちだ」
「え? もう、勝手な!」
私は男性の後ろを歩いた。
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