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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
228 旅立ち(2)
しおりを挟むフィルガルド殿下は、扉を開けた途端に走って来て私を抱きしめた。
だから……久しぶりに会うのに顔はほとんど見ることができなかった。
でも顔が見えなくても私は、声や匂い、体温……感覚全てでフィルガルド殿下に抱きしめられていることを実感していた。
ああ……私、今……フィルガルド殿下に抱きしめられているんだ……
不思議なことに殿下に会うことをあれだけ恐れていたのに、そんな感情を覚えることはなかった。
私が快も不快もなく、ただあるがままにフィルガルド殿下を感じていると、視界にブラッドの氷像のように美しく、まるで体温など感じないほど冷え切った顔が見えた。
その表情を見た私まで氷像のように動けなくなった。
ブラッドがたまに見せるこの顔をする時、彼は何を考えているのだろうか?
ふとフィルガルド殿下の体温が離れたと思った瞬間、彼の顔が近づいてきた。
両手はフィルガルド殿下に握られていて動かせなくて目を閉じようとした時、視界にブラッドが苦しそうに視線を逸らした姿が映った。
ブラッドのつらそうな顔が気になって目を閉じるのを忘れてブラッドを見ていると、今度はフィルガルド殿下の顔が視界を覆う。相変わらず、キレイな顔だなとそんなことを思っていると、風を感じて誰か私とフィルガルド殿下の間に入ったのが見えた。
「フィルガルド殿下、突然クローディア様を抱きしめ……さらにそのような不埒なことなど……絶対におやめ下さい」
私はその男性の背中しか見えなかったが、声で誰かわかった。
「レガード!!」
私が声をかけるとレガードは、フィルガルド殿下から私を守るように離すと、私を見て本当に嬉しそうに微笑んだ。
「クローディア様、再びお会いできましたことを光栄に思います」
「ケガはもういいのね?」
そう、私とフィルガルド殿下の間に入ってくれたのはレガードだったのだ。
レガードは私を真っすぐに見つめながら言った。
「はい。ご心配をおかけしました」
レガードと話をしていると、フィルガルド殿下がレガードを見ながら目が全く笑っていない笑みを浮かべながら言った。
「レガード、夫婦の再開を邪魔するのは無粋だと思いますよ」
そんなフィルガルド殿下に向かってレガードが真剣な顔で言った。
「邪魔をしたと思っておられるのは殿下だけです。クローディア様は困惑しておいででした。私が優先するのはクローディア様です。殿下もそれを了承して下さったはずです」
「クローディアとは、久しぶりの再会なのですよ?」
「ですから、それは殿下のご都合です。自分の感情をクローディア様の意向も聞かずにぶつけるのは、大変幼稚な行為だと判断しました」
「幼稚……随分と手厳しいですね……レガード……」
二人の周りには吹上花火のようなちょっと近付くと危ない雰囲気の火花が飛び散っているように見えた。
でも、そんな二人の間には親しみや気安さが透けて見え、なぜだろう……フィルガルド殿下が生き生きと自分の言いたいことを言えているのがとても嬉しくて胸の中があたたかくなるように感じた。
フィルガルド殿下とレガード……仲がいいな……知り合いだったのかな?
私は二人のやり取りを微笑ましく思いながら見ていた。そして、フィルガルド殿下と目が合ったので疑問に思ったことを尋ねた。
「あの……お2人は……お知り合いだったのですか?」
私の問いかけにフィルガルド殿下が答えてくれた。
「ああ、訳があってレガードを私の側近にしました」
「え!? レガードがフィルガルド殿下の側近!?」
フィルガルド殿下の側近はクリスフォードだったはずだ。
どうして彼ではなく、レガードが側近をしているのだろうか?
理解が追い付かずに困惑していると、近くにいて様子を見ていたブラッドが私の隣まで来て声を上げた。
「レガードが側近……? フィルガルド、それは本当か?」
うっかり『殿下』が取れてしまうほど動揺しているであろうブラッドに向かって、フィルガルド殿下は曇りない眼差しで「本当だ」と答えた。
私はその瞬間、ブラッドが嬉しそうな顔をしたのがわかったのだった。
ブラッドは、フィルガルド殿下を見据えながら言った。
「詳しい話を聞かせろ」
「ああ」
フィルガルド殿下もゆっくりと頷いたのだった。
「クローディア殿、ブラッド殿、ご無事で何よりです」
私たちが話に区切りをつけた頃、奥からハイマ国騎士団長のカイル団長が歩いて来た。
「お久しぶりです。カイル様」
私があいさつをすると、ブラッドもあいさつをした。
そして、カイルは私たちの後ろに控えていたラウルの元に向かった。
「ラウル、我々はお前と合流したのでそろそろ下船する」
どうやら、カイル団長とハイマからの兵士はラウルと合流するまでフィルガルド殿下の護衛のために船に乗っていたようだった。ラウルが「承知しました」と言った。
そして、カイルが私を見て声をかけた。
「クローディア殿下、ブラッド殿。出発前にラウル副団長を始め騎士団の者たちと話をしてもよろしいでしょうかな?」
「はい」
私が頷くと、カイルはラウルたちを見ながら「船の外へ」と言った。
そしてラウルたちは船から降りたのだった。
◇
船を降りると騎士団長カイルは、ラウルたちと話をした。
彼らはクリスフォードの裏切りや、国際会議で決まった水賊討伐などについて情報交換をした。
その後にカイルが、クローディアがハイマを出た時からずっと護衛として付いて来た騎士に向かって言った。
「ここで任務を終えたいと希望する者がいたら聞き入れる。スカーピリナ国やベルン国からも兵を出してくれるとの返答を得ているからな」
今回クローディアの護衛についてきた騎士たちは、『スカーピリナ国への護衛』という任務だった。だが、急遽イドレ国に行くことになった。中には家族に会いたいと願う者や、イドレ国に行くのなら護衛を辞退したいと言う者もいるだろうという団長の配慮だった。
カイルの提案に、数人が名乗りを上げて騎士の交代が行われた。今回交代した中には、自らイドレ国行きを志願した騎兵隊のロニの姿もあったのだった。
情報交換や、騎士の交代が行われて全てが終わると騎士団長カイルが真っすぐにラウルを見ながら言った。
「ラウル副団長。引き続き王太子殿下と、王太子妃殿下の護衛、頼んだぞ」
ラウルは姿勢を正すと「はっ」と返事をした。
ハイマ国の騎士団の引継ぎが終わった頃。
スカーピリナ国の精鋭と、ベルン国の有志の兵を率いていたレオンとレイヴィンがクイーンイザベラ号に到着した。
ハイマ騎士団は団長カイルを先頭にしてスカーピリナ国の兵を迎えた。
馬を降りたレオンたちに向かってカイルが声を上げた。
「私はハイマ国騎士団長カイル・フォン・フル―ヴ。この度は共に我が国の王太子殿下及び王太子妃殿下の護衛を受けて下さったとのことにハイマ王国騎士団長として最上級の敬意を表します」
レオンはカイルと見ると「久しいな、ハイマの騎士団長殿。ハイマ王都への道案内の際には世話になった」と言った。そして、カイルとレオンの言葉をレイヴィンが隣で通訳をして短く言葉を交わした。
その後、スカーピリナ国の兵はハイマ騎士団と交代で船に乗り込んだ。
スカーピリナ国のパルミラ港に出航を告げる汽笛が鳴り響いた。
街の人々は、その汽笛の音を聞きふと手を止めた。
そして海の方向を見つめて、どこかの誰かの航海の無事を祈った。
そんな人々の祈りを受けて、クイーンイザベラ号は大海原へ駆け出したのだった。
――――――――――――――――
次回更新は8月22日(木)です☆
第六章に入る前に……
次回からはお礼SS(ShortStory)をお届けいたします!!
大変お待たせいたしました。
きっと待ってくれていた方はいらっしゃるはず?
(気が付けば……投稿を始めて1年近く経っていました。早いです)
本編を早く進めてほしいという方がいらっしゃいますのも充分に承知しておりますが、どうか少しだけ番外編をお届けさせて頂きますことをご了承下さい。
追伸:人物紹介は準備が出来次第投稿いたします。
たぬきち25番
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