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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
227 旅立ち(1)
しおりを挟む国際会議が終わった日。
陽が落ちると私の部屋をルーカス陛下とレオンが尋ねて来た。
「クローディア殿、あなたには弟の命を救っていただき大変感謝しています」
そう言って、ルーカス陛下は私に頭を下げた。
「どうか、頭を上げて下さい。私がどうしてもレオンを助けたかったのです」
レオンのために頭を下げるルーカス陛下を見て、レオンはルーカスに疎まれていたわけではないのか、とほっとした。ルーカス陛下は、ただ何も知らなかっただけ。
ゼノビアに操られた人々に囲まれ、彼に適切な情報を与える者がいなかった……だけ。
でもそれで、きっと彼の一番の味方であろうレオンを……永遠に失うことになったかもしれないのだ。
「本当に……感謝しています。あなたがいて下さって……よかった」
ルーカス陛下はお礼を言いながら私の手を取ると、手の甲に口付けた。
そして、私を見つめながら言った。
「どうか、少しだけ私たちに時間をいただけませんか?」
私は「はい」と言って頷いた。するとルーカス陛下が私を見て、「エスコート役はレオンでもよろしいでしょうか?」と尋ねた。私は「もちろんです」と頷いた。
すると、レオンが私の前に来て優しく微笑んだ。
「お手をどうぞ」
レオンの初めての紳士的なふるまいに私は目を大きく開けて驚いてしまった。
私はレオンの差し出した腕に手を乗せた。
「それではこちらです」
もちろんブラッドやガルド、アドラーたちも付いて来てくれた。
ルーカス陛下もみんなが付いて来ることは想定済だったようだった。
「クローディア、大丈夫か?」
しばらく歩くとレオンが気遣ってくれた。
もしかしてまだ歩くのだろうか?
今は、国際会議のドレスからゆったりとした服に着替えていたし、靴も履きなれたものだ。足も痛くないので問題ない。
「大丈夫よ」
「……そうか、まぁ、そう言うよな」
「え!? ちょっと、レオン!?」
「大丈夫だ」と確かに言ったはずなのにレオンは私を抱き上げ、私を軽々と片方の腕に乗せた。
私はまるで子どものようにレオンに抱き上げていた。
落ちないように急いでレオンの首元に手を寄せるとレオンが嬉しそうに言った。
「クローディア、しばらくここにいてくれ」
あまりにも優しそうの笑うので私は思わず「うん」と頷いてしまった。
結局私は、そのままレオンに運ばれることになったのだった。
城から少し歩くと、3回ほど強固な壁に囲まれた場所を通り向けた。随分物々しい雰囲気だ。
そして、小さな鉄の扉の前に着くと兵士がカギを開けてくれた。
ルーカス陛下は私を見て微笑んだ。
「ここですよ、クローディア殿」
そう言って、扉の中に入った私は思わず声を上げた。
「凄い……花が光ってる……」
まるで蛍のように闇夜に淡い光が浮かび上がって光っていた。
きっと空からみたら、この辺り一帯が星空のように見えるだろう。
するとレオンが私を地面に下ろしてくれた。そんな私に、ルーカス陛下が誇らしげに言った。
「これが、スカーピリナ国王家に伝わる『夜光草』です」
そういえば、ゼノビアとのカード勝負に勝ったので、私は『夜光草』が貰えるはずだった。
「これほど美しい花だったのですね……」
ふと隣を見ると、レオンも声を失っていた。もしかしたら、レオンも初めて見たのかもしれない。
「執事に聞きました。ゼノビアと勝負をしていたのでしょう?」
私はルーカス陛下を見上げて頷いた。
「なぜゼノビアが『夜光草』のことを知っていたのかわかりませんが、約束通り『夜光草』はあなたに差し上げます。本来『夜光草』は乾燥して使いますのでそちらを差し上げようと思いますが……レオンと……私、そしてこの国の恩人のあなたにはこの景色を見せたいと思いました」
そう言って、ルーカス陛下が切なそうに目を細めた。
内部に居ては見えないこともある。
だからこそ、ルーカス陛下もゼノビアのことに気付けなかったのだろう。
きっとルーカス陛下は、毎日の業務に追われ、何か問題はあるものの原因はわからずにもがいていた……そんな気がした
「クローディア殿、レオンもあなたと共にイドレ国に連れて行ってもらえませんか?」
「レオンを?」
私は、ルーカス陛下の言葉の意味がわからずに、声を上げた。
するとレオンは膝をついて真剣な顔で私を見ながら言った。
「クローディア。今度は俺にあなたを……守らせてくれ」
「え? え?」
戸惑っていると、ルーカス陛下が弾んだ声で言った。
「我が国からの援助は、食料と船の燃料。そして――」
隣でレオンが微笑んでいるのが見えた。
「スカーピリナ国軍総司令官レオン・スカーピリナ及び、スカーピリナ国王軍参謀レイヴィンが同行し、あなたの剣と盾になりましょう」
え?
レオンとレイヴィンが一緒にスカーピリナ国に行ってくれるの??
「総司令官? 総大将ではないのか?」
ブラッドが尋ねると、レオンが答えた。
「軍の総大将と、近衛兵の総督、二つを監視する役職『総司令官』がつい先ほど、スカーピリナ国の議会で設置することが決まった。今後、同盟国内で水賊の討伐隊などを組織するに辺り、軍と近衛がすぐに連携を取れるように変革した」
どうらやらスカーピリナ国は今日の国際会議の後に緊急で会議を行ったようだった。
「レオンが来てくれるなら心強いけど……いいの?」
新しく体制が変わったのなら、そのトップはかなり忙しいのではないだろうか?
私が思案していると、ルーカス陛下が優し気に言った。
「イドレ国への対応以上に急務を要することはないと判断しました。それにレオンを派遣してイドレ国の真の姿を見て来てもらうという目的もあります。レオンの観察眼はとても優れていますので」
イドレ国の真の姿を見るのが大切なのはとてもよくわかる。
「わかりました。お願いします」
私が返事をすると、ルーカス陛下が微笑んだ後に言った。
「それとクローディア殿――あと一人、あなたに付いて行きたいという者がいます」
首を傾けていると、近くの小屋の影から誰かが飛び出して来た。
やって来た人物を見て私は思わず声を上げてしまった。
「アリス!?」
アリスは、パンツスタイルで背筋を伸ばして直角にお辞儀をした後に私の目を見つめながら言った。
「アリス・キュレルと申します。実は一つだけお伝えしていないことがございます。私は本来は近衛諜報機関所属です。これまでゼノビア様の命で、侍女として諜報活動を行っておりました。情報収集、また暗器などを扱えますので、護衛も可能です。さらにハイマ国の宮廷上級侍女の資格も有しておりますので、引き続き、侍女としてもお支えさせて下さい」
「……ええええ!?」
アリス、出来ると思っていたけど……諜報!? しかも一緒に来てくれるの??
驚いていると、アリスがにっこりと笑いながら言った。
「クローディア様。私はこの度、ルーカス陛下直属の部下になり、お給金はルーカス陛下から頂いております。つまり、私は例え相手がハイマの王族であろうと、ハイマの公爵子息様であろうと、クローディア様以外の命には縛られておりません。ルーカス陛下にも『恩人のクローディア殿を誠心誠意お支えしろ』との命を受けております」
これは……暗に何かあった時に、フィルガルド殿下やブラッドからでも私を守れる……という意味……だろうか?
ちらりとブラッドを見ると、ブラッドは無表情に答えた。
「諜報……なるほどな……戦力が増えるのは歓迎だ」
戦力扱い……。
私は、レオンやアリスを見ながら答えた。
「では……どうぞ、よろしくお願いいたします」
こうして私は、ルーカス陛下から『夜光草』と旅に必要な物資をもらった。
そして、頼りになる仲間を得たのだった。
◇
次の日。私たちはエントランスでダラパイス国のガイウス様たちをはじめ、ベルン国のアンドリュー殿下たちも見送られていた。
アンドリュー殿下が、私の手を優しく握りながら言った。
「クローディア様、私は水賊討伐についての準備をすすめます。ベルン国はイドレ国にも近いですので何かありましたら、すぐにご連絡下さい」
「数名はクローディア様に同行いたしますが、私も何かあれば早急に救援に向かいます」
普段は無口なネイ団長が真剣な顔で言った。
「ありがとうございます。アンドリュー殿下、ネイ団長。ジルベルト様」
私がベルン国のみんなにお礼を言うと、ダラパイス国の王太子ガイウス様が口を開いた。
「ディア。無理はするな。危険があると思ったら、すぐに戻って来るのだぞ!?」
「はい、ありがとうございます」
ガイウス様の後に、王太子妃のヴェロニカ様が私を見て微笑んだ。
「ゼノビアに対峙している時のクローディア様は、とても頼もしく思えました。あなたは素晴らしい王太子妃です。どうぞ、胸を張って……道中、お気をつけて」
「ありがとうございます、ヴェロニカ様」
ヴェロニカ様に抱きしめられて離れると、すぐにサフィールが声を上げた。
「ディア~~ああ、なぜ私は一緒に行けないのだ!? レオン殿は同行されるというのに!!」
サフィールの言葉にディノが「うんうん」と頷きながら言った。
「本当ですよ。人使いの荒い上司のせいで、私までディア様に付いて行けないんですから!! 閣下、こうなったら、速攻戻って、面倒事を片付けましょう!! あ~~船の上のディア様……見たかった……」
「ああ、そうだな!! 本当に人使いの荒い上司のせいで、ディアの危機に遠くで指をくわえて見ているなど耐えられない、ディノすぐにダラパイス国に戻るぞ!!」
「ええ、全く人使いの荒い上司のせいで!! 閣下、船の上は危険がいっぱいです!! 少し開放的になった男女。あ~~~!! 危険過ぎます~~一緒に行きたいよ~~~」
「なんだって!? 船の上……開放的な男女? くっ!! 人使いの荒い上司のせいで~~~~!! ディア、どうか無事でいてくれ!! 待て、やはり私も同行を……」
私は二人の言葉にオロオロしていた。
ねぇ、なんか……二人の後ろのガイウス様の顔が怖いんだけど……大丈夫?
二人の嘆きに、ガイウス様が青筋を立てながら笑顔で言った。
「ほう~その……人使いの荒い上司とは誰のことだ? はぁ~~ヒューゴ、ディアを頼むぞ」
「かしこまりました」
ダラパイス国からはヒューゴが同行してくれることになった。
やはり薬の知識が豊富なことと、探し物のためだった。
私は見送りのみんなを見ながら言った。
「皆様、それではいってまいります」
こうして、みんなに見送られて私たちはスカーピリナ国王都を出発したのだった。
◇
私たちはそれから、スカーピリナ国王都の南のパルミラ港を目指した。
王都から途中2泊してとうとう、パルミラ港に到着した。
「ここがパルミラ港なのね……」
私が馬車の中から港を見ていると、ジーニアスが言った。
「ここにクイーンイザベラ号が停泊しているのですよね?」
「そうだ」
ブラッドがぶっきらぼうに答えた。
私は見つけられるかと不安になったが、パルミラの街に到着した途端に、すぐに船を見つけた。
パルミラの街は海に向かって坂になっていたので港が良く見えた。
そしてその港には一隻、とてつもなく大きな船が停泊していた。
「あ……すぐに見つけられた……」
「そうですね」
私の言葉にリリアも頷いた。
船はとても大きくて、私たちは馬車に乗ったまま船に乗船することになった。
そして、船に着くと懐かしい顔の男性に迎えられた。
「クローディア殿。よく、ご無事で……」
私のことを恨んでいるかと思っていたが、とても嬉しそうに迎えられて私まで頬が緩んでしまった。
「ロウエル様こそ、よくご無事で」
そう――この船に乗っていたのは、私が罪を暴いて爵位を剝奪されたロウエル元公爵だった。
ロウエル元公爵と握手をして微笑み合っていると、後ろから大きな音が聞こえた。
甲板を走るような大きな足音と共に、扉が勢いよく開いた。
「クローディア!!」
あ……。
声も出せないまま立ち尽くしていると、私は大きな腕の中に抱かれていた。
懐かしい声と、匂い……。
「会いたかった……」
気が付くと私はフィルガルド殿下にきつく抱きしめられていたのだった。
――――――――――――――――
次回更新は8月20日(火)です☆
お休みをいただき、ありがとうございます!
今後ともよろしくお願いいたします
たぬきち25番
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