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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

222 お披露目式(2)

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 お披露目式はレオン不在で滞りなく進んでいく。
 まるで初めから、ルーカス殿下が王だったように……。
 ゼノビアはルーカス殿下の隣で始終誇らしげな顔をしていた。

 私は時折手を叩きながらも、複雑な思いでお披露目式を見ていた。


 そして、とうとうお披露目式が終わってしまった。
 この後は会場を変えてお披露目会、つまり夜会が予定されており、明日は国際会議が開かれる予定だ。

 この後、スカーピリナ国の貴族に対してルーカスからのあいさつがあるというので、私たち他国の王族は、夜会まで控室で休むことになっている。
 退場は、入り口に近い方から行うのが慣例だ。次々に各国の王族が会場を出て行き、ベルン国、ハイマ国、ダラパイス国の王族だけが残る状況だった。
 会場内にはアリスの姿も確認した。反対側に座るダラパイス国の席を見ていると、ディノが動いた。私はジーニアスとリリアに合図をすると、二人は頷いてアリスの元に向かった。

「何事ですか?」
「レオン閣下、お待ちください」
「この先にはお通しできません」

 扉付近で兵の声が聞こえた。

「……いよいよだな」

 ブラッドの呟きに私は「ええ」と頷いた。

 すると同時に、レオンを止めていたと思われる大勢の兵士が吹き飛んだ。
 そう――文字通り吹き飛んだのだ。
 そして兵士が全員倒れた場所には、ガルド、ネイ、レイヴィンがレオンを守るように立っていた。
 
 そして三人が兵を倒して道を開けると、レオンが姿を現した。

「レオン……様!?」

 ゼノビアが目を大きく開けて声を上げた。
 私は上座にいたので、ゼノビアの声が聞こえてしまった。
 レオンは、少し高い位置に座っていた私を見たのでバッチリと目が合った。
 そしてレオンはまるで私に語りかけるようによく通る大きな声で言った。

「待たせたな……」

 レオンはゼノビアの断罪の場を、自国の貴族とこの件に関わっている私たちの前でだけ行うことにしたのだ。

 これはレオンがスカーピリナ国の醜聞を少しでも他国に晒さないための彼なりの配慮だ。
 ゼノビアを表舞台から引きずり下ろすためには衆人環視の前で罪を暴く必要がある。
 だが……他国の王族の前でそのようなことをすれば、スカーピリナ国の今後の国際的な立場に影響する。
 レオンは二つを天秤にかけた結果…兄のルーカスと決めた王位を独断で退く代わりに、この国を牛耳る女狐をゼノビアを表舞台から引きずり下ろすことを選んだ。
 
 レオンは私から視線を外すと今度は周りを見ながら言った。

「ご参列の皆様、遅れて申し訳ございません」

 会場内が一気に大騒ぎになった。
 隣を見ると、ブラッドと目が合い静かに頷いた。

 ――始まる……レオンが王位と引き換えにした、ゼノビアの断罪劇が……。



 スカーピリナ国の貴族はまるで海を割るようにレオンの通り道をあけ、王座への道が開いた。
 ルーカス陛下は王座から立ち上がり、目を大きく開けて呆然としながら声を出した。

「レオン……生きていたのか……?」

 生きていた?

 私はその言葉に恐怖を感じた。
 この言葉がルーカス陛下から飛び出したということはつまり、ゼノビアは配下の者にレオンの死を伝えさせたということだ。
 どうやらゼノビアは本気でレオンを亡き者にするつもりだったようだ。
 思惑通りにことが運ばずに、醜いほどに歪んだ顔を隠せていないゼノビアを横目に、レオンが皮肉を浮かべた表情で答えた。

「兄上、いえ……陛下。私は陛下の隣に立つゼノビア殿の命で捕らえられておりました。誰から何をお聞きになったのか存知上げませんが、ハイマ国のクローディア殿に助けられなければ、間違いなく殺されていたでしょう」

 みんなの視線が一斉に私に突き刺さる。

「ハイマの王太子妃がお助けした?」
「どういうことだ?」
「陛下はご存知なかったのか?」
「他国の王族に助けられるなど……近衛兵は何をしているのだ!?」

 そして、会場はさらに混乱した。
 人の視線が痛いというのを体感して私は震えていた。
 
 ひぇ~~~レオン、どうしてこんな場面で私を名指し~~~!?

 それにレオンを助けたのはみんなの力だ。
 私だけの力ではない。
 お願いだからダラパイス国のガイウス殿下やヴェロニカ様、ベルン国のアンドリュー殿下の名前も出してくれ!!
 
 私の願いも虚しく、会場が騒然とする中再びレオンが私を見ながら声を上げた。

「クローディア殿、感謝する。危うくゼノビア殿に殺されるところだった!!」

 これ、ノーリアクションじゃダメなヤツだよね!?
 どうする? どうする? 

 パニックに陥った私の手をブラッドが取って腰を支えるようにして立たせた。
 私がブラッドを見ると『何か言え』というような目をしていた。私はきつくブラッドの手を握り返しながら、大きな声を上げた。

「レオン様、無事で……よかった」

 会場が水を打ったように静かになる。
 私はというと、大勢の疑念や混乱や不安の混じったネガティブな視線に晒されて、声が震えるし、足は震えるし、ブラッドが支えてくれなければ倒れてしまいそうだった。私だけが助けたわけではないと言えればよかったが、今のセリフが私の精一杯だ。
 静かな会場内にルーカス陛下の声が響いた。
 その瞬間私は無数の光線のような視線から解放され息が普段通りにできるようになった。

「ゼノビアに殺されそうになった? クローディア殿に助けられた? レオン、どういうことだ?」

 私と同じように、ルーカス陛下の声も震えていた。
 その目に映していた感情が、絶望なのか、驚愕なのか……いずれにしても見たこともないほどの闇が支配する瞳は背筋が凍るほど……恐ろしい。

 ――知らなかった。

 彼の目はそう語っていた。

 国を担う王太子とは孤独になりがちなのだろうか?
 接する人間も少なく、自分をさらけ出せる相手もいない。

 孤独な王族の情報統制など……実はとても……容易たやすいのかもしれない。

遺憾いかんだ!! レオン閣下は虚言で我が家を陥れようとしている。近衛兵は何をしている。レオン閣下を取り押えろ!!」
 
 一番王家に近い場所にいた貴族男性が声を上げた。
 話の内容からするとあれが公卿第一位のゼノビアの父だろう。しかもゼノビアと目と髪の色が同じだった。
 彼に言われて近衛兵が動き出し、ガルドとネイとレイヴィンげ剣に手をかけた時だった。

「黙れ!!」

 威圧を含んだ声が広間に響いた。
 
「陛下……?」

 意外なことに大きな声を上げて近衛兵を制したのは、ルーカス陛下だった。

「レオン、話を続けろ」

 ルーカス陛下の言葉の後に、今度はゼノビアが声を上げた。

「お待ち下さいませ、ルーカス陛下。レオン様は何か誤解をされています。それに今はお披露目式の最中です。各国の王族の皆様を待たせております」

 いつもならゼノビアの言葉を素直に聞き入れるというルーカス陛下は、ゼノビアに氷のように冷たい無機質な視線を向けながら言い放った。

「黙れ、と言ったはずだ」

 ゼノビアはとても衝撃を受けたようで手をわなわなと震えさせながら顔を青くして押し黙った。
 沈黙が支配する空間で、ルーカス陛下が声を上げた。

「レオン、何があった」

 ルーカス陛下は周りは気にならないというように真剣に尋ねた。
 
「はっ、申し上げます。実は――」

 レオンはこれまでのことをルーカス陛下に説明した。

・ルーカスと謁見の間で話をした後、兵に捕えられたこと
・レオンを捕らえた兵がゼノビアの手先だったこと

 ルーカス陛下はレオンの話を聞くと、低い声で言った。

「なるほど……ではゼノビアは近衛兵を私物化しているというのか?」
「はい、証人はこちらに……」

 レオンの言葉を聞いて、レイヴィンが手を上げるとスカーピリナ国軍の兵士が数名の近衛兵を連れて来た。
 そしてレイヴィンが声を上げた。

「恐れながら陛下、発言を許可願えますか?」
「許す」

 ルーカス陛下の言葉でレイヴィンが声を上げた。

「レオン陛下を捕らえた近衛兵数名を尋問したところ、ゼノビア殿に家族を人質に取られてレオン陛下を捕らえた、との証言を得ております」

 ルーカス陛下は近衛兵を見ながら尋ねた。

「今の発言に相違ないか?」

 近衛兵は、頷きながら言った。

「相違ございません。レオン閣下が軍部の総大将を退き、ノアール閣下が近衛総督から、軍の総大将に任命され近衛騎士団を去られてから、近衛兵は全てゼノビア様の命で動いておりました」

 ルーカス陛下は眉を寄せながら会場の隅に控えていた男性を見ながら言った。

「どういうことだ? 近衛の総督はナーダだったはずだ」

 ナーダは膝を床に付け、騎士の礼をとり頭を深く下げた後に答えた。

「申し訳ございません、わたくしもゼノビア様に膨大な利子を支払う代わりに家族を人質に取られ、ゼノビア様の命を聞くように言われておりました」

 ルーカス陛下は、黙ってナーダを見ていた。その横でゼノビアは顔を歪めて、すでに初めて会った時の美しい姿は影も形もなかった。
 そして新たに扉が開いて、兵たちが入って来た。

「ルーカス陛下、失礼いたします。例の件……誰かがイドレ国の者を手引きしている可能性があるという疑惑が解明いたしました」
「ノアール!? ついに判明したのか!?」

 ルーカス陛下が大きな声を上げた。

 ――例の件? 判明?

 私は何も聞いていない話だったので、咄嗟にブラッドを見た。
 ブラッドは私の耳元に口を寄せて囁いた。

「大丈夫だ」

 単純かもしれないが、私はそれだけで少し落ち着いた。
 中央では先ほど話題になった近衛総督から、軍部の総大将になったと言われたノアールが声を上げた。

「先程、レイヴィン参謀より、裏の山に不審な広場があるという報告を受け急ぎ確認し、さらに庭師の証言でその広場を整備を命じたのはゼノビア様との証言を得ております」

 は?
 裏の山に不審な広場??

 どういうこと~~~~!?

 私は何が起こっているのかわからず、混乱していたのだった。








――――――――――――――――

以上、
222話でした♪

ฅ^•ω•^ฅ♡



次回更新は8月3日(土)です♪






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