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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
220 多国籍チームミッションスタート!(8)
しおりを挟むレオンを無事に救出した頃。
ブラッドたちは、ダブラーン国の次期国王の元を訪れていた。
どうやらブラッドたちの求めていた『石花木』は、宝物庫に見本があるだけの幻の植物のようだった。
「ベルン復国の祝いに差し上げたいところだが……生憎と生息地を把握していない。だが……あの植物にそれほどの価値があるとは思えないが……ただの石のように砕ける小枝ですぞ? 花は可憐で心を和ませてくれると聞いたことはありますが……」
加えてダブラーン国の次期国王は、『石花木』に全く価値を見出しておらず、ただ珍しい植物ということしか把握していなかった。アンドリューは少し考えて口を開いた。
「そうですか、ちなみにその植物の国外への輸出などを許しておいでですか?」
ダブラーン国の次期国王は大きく頷いた。
「はい。我が領には砂漠もあり、作物があまり実りません。食料など民の必要とする物と交換できる資源があるのなら規制などはしません」
もしも『石花木』を見つけることができれば、手に入れることはできる。
現状では、輸出が可能だということがわかっただけでもいいだろう。
「お時間を頂き、感謝いたします」
「こちらこそ、アンドリュー殿の元気な姿が見れてほっとしました。病死したと聞いておりましたので……デマだったようですな。ハイマのレナン殿も今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
ブラッドとアンドリューは、ダブラーン国の次期国王と握手を交わすと部屋を出た。
そして、部屋を出るとアンドリューが呟くように言った。
「クローディア様に助けて頂けなければ、きっと私は今、ここにいることはなかったのでしょうね……」
アンドリューはそう言って顔を上げると、ブラッドを見ながら言った。
「そろそろ、クローディア様を迎えに行きませんか? 少し早いですが、そろそろお披露目式の刻限です」
ブラッドは頷きながら答えた。
「ええ……」
こうして、ブラッドたちはクローディアたちが集まってお茶を飲んでいる場所に向かったのだった。
◇
時折、窓の外から風の吹く音が聞こえる。
空は青く澄み切っている。
そしてこの空間は外の風の音が聞こえてくるほど――静かだった。
沈黙。
もう、ここまで来たら煽るのも軽口も必要ない。
静かすぎる、この沈黙がゼノビアの精神を追い詰めていることは明白だった。
いかさまを覚えてしまったゼノビアには、もう真剣勝負などできないのかもしれない。
そういえば学生時代の先生が『カンニングなんて覚えてしまったら、その後がつらいんだ。だから点数が少々悪くても、成長を止めることになるし、いざという時の勝負が出来なくなるから手を出すなよ』と言っていた。
まさに今のゼノビアだ。
私はあまりポーカーは詳しくないが、やってみるとこのゲームはとても面白い。
このカードは、人は丸が書かれており、土地は台形、資源は三角が二つ繋がり、守り神はアルファベットの『S』のような形が書かれている。そして、それはまるでこのスカーピリナ国のこれまでの歴史を物語ように転換する。
このゲーム最強のカードは人、土地、資源、守り神の全ての最高の数字を集めた『キングダム』という手が最高の手のようだった。
通常、ポーカーの最強の『ロイヤルストレートフラッシュ』に当たる同じ種類を数字の高い順にそろえるというのは二番目の手だ。
人、土地、資源、守り神……それは戦において重要な要素だ。
もしかしたら、このカードゲームは兵士たちに戦略を学ばせるための教材のようなものだったのかもしれない。
すごろくは、教育的な側面で庶民に広がったという専門家もいたように記憶している。もしかしたらこのゲームもそれと同じ役割を担っていたのかもしれないと思えた。
そして私は、今、このカードゲームを心から楽しんでいた。
リリアのおかげで戦略書を読んだが、その戦略が頭の中でまるでこのカードゲームで実践で使っているかのように展開していく。
そう思って自分の手元に来たカードを見た時、私は思わず震えてしまった。
ああ……偽りの結婚式を挙げた私に神様は少しだけ同情してくれたのだろうか?
私が一瞬下を向いて結婚式のことを思い出していると、ゼノビアが私を見て目を光らせた後に声を上げた。
「――勝負しますわ」
ゼノビアがついに勝負に出た。どうやら、ヴェロニカ様の勝負に出るようだ。
もし神様がいるのなら、今の私にこのカードが巡ってきたのはなんの因果だろうか?
私に同情してくれた?
それとも、神様はフィルガルド殿下のバラを守りたい?
いや……もっと単純に、神様は心底ゲームを楽しむ者に微笑むのかもしれない。
皆が一斉にカードを開いた。
ゼノビアはこれだけ悩んで勝負を仕掛けるだけはある。
――ストレートフラッシュ。
ヴェロニカ様は……。
――フォーカード。
そして私は……。
「信じられない……!! 何か仕掛けがあるに決まっていますわ!!」
私の手札を見たゼノビアがガタンと音を立てて、椅子から立ち上がった。
ヴェロニカ様も驚いていた。
私の手札は、人、土地、資源、守り神全てが最強を備えた奇跡のカード。
――キングダム。
『信じられない、仕掛けがあるはずだ』と声を上げるゼノビアに向かって、ヴェロニカ様が少し大げさに言った。
「何が信じられませんの? それに仕掛けとは? このゲームの発祥の地、スカーピリナ国で研鑽されているゼノビア様のいう仕掛けというものを後学のためにもぜひとも教えて頂きたいわ」
ゼノビアが悔しそうな顔で押し黙った。
私はというと、フィルガルド殿下のバラを渡さずに済んで正直ほっとしていた。
二人で対峙しているヴェロニカ様とゼノビアを横目に時計を見ると、そろそろお披露目式の時間だった。レオンを無事に救出できただろうか――そう思って、下を向いて口角を上げた。
大丈夫、ガルドたちがきっと助けてくれたわ。
私は、『もう勝負は終わった』と伝えるために二人からそっと離れて扉に向かってノックした。すると、すぐに扉が開いて、アドラーとリリアが入って来た。私はそんな二人に言った。
「お待たせ、勝負はついたわ」
私の顔を見たアドラーが優しく微笑みながら言った。
「勝利の女神はクローディア様に微笑んだのですね」
私は驚いてアドラーを見た。
「わかるの?」
アドラーは誇らしそうな顔をして「ええ」と答えた。私は、アドラーとこのカード勝負したら勝てないかもしれないと思ったのだった。
「これはハイマ国の小公爵様、ベルン国王太子殿下のお迎えでしょうか?」
私たちが入口で話をしていると、執事が廊下で声を上げた。
どうやら、ブラッドたちが到着したようだった。
「ルーカス殿下、ダラパイス国王太子殿下」
反対側から侍女が声をかけた。
どうやら、みんな同じタイミングでこの場に揃ったようだ。
廊下でルーカス殿下が、アンドリュー殿下に「皆でこのまま会場に向かいましょう」と言った。
ヴェロニカ様は椅子から立ち上がると、座ったまま奥歯を噛み締めるゼノビアに向かって言い放った。
「ゼノビア様、大変楽しかったですわ。どうぞお約束……お忘れなきよう」
そう言うと、ヴェロニカ様はガイウス殿下の元に向かった。
そして、ガイウス殿下と一緒にいるルーカス殿下に向かって言った。
「この度は、素晴らしい時間をありがとうございます。また、大変貴重な物を譲って下さるそうで感謝しております」
ヴェロニカ様の言葉に、ルーカス殿下が唖然としながら言った。
「貴重な物……それは一体……?」
ヴェロニカ様は侍女から扇を受けとると、扇を開き口元を隠しながら答えた。
「それは……ゼノビア様にお聞きくださいませ。それでは、ごきげんよう」
ヴェロニカ様はガイウス殿下の腕に自分の腕を絡めると、悠然と廊下を歩いて行った。
するとゼノビアがゆっくりと部屋から出て来てルーカスを瞳に映しながら言った。
「も、申し訳ございません。ルーカス殿下……」
ルーカス殿下は眉を寄せて「何があったのだ?」尋ねた。ゼノビアは俯いて口を閉ざしていた。そんな彼女に向かってルーカス殿下は「では後で話をしよう」というと、ゼノビアに腕を差し出した。
ゼノビアはルーカス殿下の腕を取ると、ゆっくりと歩いて行った。
そんなゼノビアたちの後ろ姿を見ていると、アンドリュー殿下に声をかけられた。
「クローディア様、ご一緒しませんか?」
「ええ、ぜひ」
アンドリュー殿下に声をかけられて頷くと、突然、誰かに手を取られた。
見ると、ブラッドが私の手を取りじっと見ていた。
「ブラッド? どうしたの?」
ブラッドは何も答えず私の手を自分の腕の上に置いた。そして不機嫌そうに「行くぞ」と言った。
そして私は、ブラッドにエスコートされながら、アンドリュー殿下と三人で歩くという不思議な図式でお披露目式の会場に行くことになった。
そして後ろにはラウル、アドラーとリリアがいる。
歩きながらブラッドが小声で尋ねてきた。
「貴重な物を譲るとはどういうことだ?」
恐らくヴェロニカ様の言ったことを聞いていたのだろう。相変わらず、地獄耳だ。
私は成り行きで賭けをすることになったことを話したのだ。
◇
「――……それでね、私が勝ったと言う訳」
話を終えると突然、アンドリュー殿下とブラッドが立ち止まって、信じられないと言った表情で私を見ていた。
「どうしたの? 二人とも」
私が二人の顔を交互に覗き込むとブラッドが口を開いた。
「本当にあなたは何をするのかわからないな……」
何をするのかわからない~~~!?
え……どうして私、突然悪口言われたの??
ちゃんとフィルガルド殿下のバラ、守ったんだけど!?
私が少しムッとしていると、アンドリュー殿下が目を輝かせながら言った。
「我々はずっと、『夜光草』を手に入れる方法を考えていたのです。それなのに、まさかあなたがすでに入手するルートを確保していたなんて!! あなたは本当に幸運の女神ですね」
よくわからないが、私は自分でも気づかないうちにいい働きをしたようだ。
それなら、素直に褒めてくれてもいいのに……と私はブラッドを少し恨みがましい目で見てしまったのだった。
――――――――――――――――
次回更新は7月30日(火)です♪
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