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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
218 多国籍チームミッションスタート!(6)
しおりを挟むクローディアたちが、女狐ゼノビアと優雅にお茶を飲んでいた頃。
ブラッドは、アンドリュー、ラウル、ジーニアスとディノフィールズとヒューゴとジルベルトと共に話をしていた。
重苦しい空気の中、ブラッドはヒューゴを鋭い瞳で見つめながら尋ねた。
「それで……例の物は完成しそうなのか?」
ブラッドの言葉に、ヒューゴが答えた。
「いくつか材料が不足している物がございますが……現段階でも効果は絶大です」
ブラッドが小さく息を吐きながら言った。
「そうか……」
そして今後はジルベルトを見ながら言った。
「ジルベルト、それでイドレ皇帝の探しているものはこれで間違いないか?」
ジルベルトは頷きながら答えた。
「恐らく……。ベルン国が支配されてすぐ、中央から多くの役人が来て、必死になって探しておりました。我が国の両陛下が生かされたのもそれが理由ですので間違いないかと……」
ブラッドはジルベルトの言葉を聞くと、ヒューゴを見ながら言った。
「それで足りない物は何か、特定出来ているのか?」
ブラッドの言葉に答えたのは、ヒューゴではなくディノフィールズだった。
「私から説明を。現在足りていない材料は、スカーピリナ国王家の管理する『夜光草』、ダブラーン国で数回目撃された幻の薬草『石花木』そして、イドレ国北部で確認されている『凍平草』そして、現在調査中なのが、ディア様の発見された噴水に隠されていた植物です」
ディノフィールズの説明を聞いてブラッドが呟いた。
「今回、ダブラーン国の次期国王も来ている。『石花木』についてはこの機会に交渉しよう。それに――折角スカーピリナ国に来ているのだ。『夜光草』も手に入れたいところだな。レオンは存在自体を知らさせていなかった。ルーカス殿に直接交渉する必要がある」
ブラッドの言葉に、ジルベルトが眉を寄せながら言った。
「『夜光草』はスカーピリナ国王家の至宝……果たしてルーカス殿が譲ってくれるだろうか?」
ブラッドは少し考えて口角を上げた。
「相手が譲りたくなる状況を作る必要があるな……」
その場にいた者全てが、ブラッドの言葉に息を飲んだ。
恐怖さえも感じるセリフに皆が戦慄した。
「私は、『夜光草』を交渉する術を考えながら、ダブラーン国の王に話をしてみる必要があるな……」
ブラッドの言葉に、アンドリュー王子が声をあげた。
「ダブラーン国の次期国王とは懇意にしておりますの私も同行いたします」
そしてジーニアスが提案をした。
「それでは、私はこのスカーピリナ国の一般開放されている書物庫でクローディア様の見つけられた噴水の植物に該当する植物がないかを探してもみます」
するとヒューゴもジーニアスを見ながら言った。
「私も行きます」
「では、私が案内を。私はこのスカーピリナ国に留学していたので案内できると思います」
書物庫まではジルベルトが案内してくれることになった。
そしてディノフィールズが皆を見渡しながら言った。
「それでは私は西庭園に向かい、西の棟や近衛兵の屯所で何かあった時に対応できるように控えます」
皆で頷き合うと、それぞれが自分のするべき場所に向かったのだった。
その時のブラッドは、まさかクローディアが女狐ゼノビアと『夜光草』をかけてカードゲームをすることになるなど夢にも思いもしなかったのだった。
◇
「今回は……見送りますわ……」
ゼノビアは、これで二回目となる勝負を離脱する宣言をした。
このカードゲームの面白いとこは、自分の手札を見て勝負を受けるか、見送るのかを決められることだ。
ゼノビアは勝負が始まってからずっと険しい顔をしているし、落ち着きもない。
一番初めのカードは、ゼノビアが勝負を受けていたら勝っていたほどの好カードだったにもかかわらず、勝負を降りた。
私は、表情を変えずに確信していた。
――ゼノビアは自分の過去に支配されている。
ゼノビアは、ずっといかさま勝負の中で常勝していたのだろう。
そんな彼女が、現在、万能の武器を捨て自分の力だけで戦っている。
ふと脳裏に、出会ってすぐに言われたブラッドの言葉が浮かんで来た。
あれは、騎士団の不正を調査しようとしていた頃の話だ。
騎士団に潜り込もうと言っていた時にブラッドが言ったセリフ
――いわばこれは根比べだ。騎士たちがクローディア殿の訪問にいい加減うんざりして、もう内部を見せて終わらせようと思わせ、クローディアを内部に招き入れるまでの勝負だ。
そう……あの時、確かにブラッドはそう言った。
あの時の私は、『酷い!!』としか思わなかった。だが、きっとあれはブラッドが幼い頃からずっと、真実を追い求めてきた過程で学んだ彼なりの成功哲学のようなものだったのだろう。
今ならわかる。
私はここで、ゼノビアがもうこの状況にうんざりするまでひたすら耐える必要があるのだろう。
これは根比べだ。
隣を見ると、ヴェロニカ様は涼しい顔をしていた。
ヴェロニカ様は幼い頃から、他の二人の側妃を地道に説得して円満に王太子妃の座を守り続けている。
『忍耐』というスキルにおいて、おそらくこの中で最も優れている。
今回のゼノビアの態度など可愛いものなのだろう。
こうして私たちの勝負は、ゼノビアがうんざりするまでの根比べと形を変えていたのだった。
◇
クローディアが女狐との根比べをしていた頃。
ガルド、レイヴィン、ネイは近衛兵の鎧を身に着けて、西の棟への侵入を果たしていた。
本来、この西の棟に入るには門で厳重なチェックがあるが、ガルドたちは棟の裏から忍び込み、すでにチェックを受けて勤務している兵の鎧を奪ったので、特に何もなくすんなり西の棟に入れた。
ここにはレイヴィンを知る者も多い。念のために近衛兵の鎧を付けている時は、彼は口を開かないことになった。
西の棟の最上部まで特に問題もなく到着すると、見張りの兵が2人、ドアの前に立っていた。
ネイが二人に向かって言った。
「交代の時間だ」
すると近衛兵は顔を見合わせて「もう交代なのか?」と尋ねた。そこで、あらかじめ用意していた答えをガルドが口にした。
「今日は屯所の警備で人も少なく、この後お披露目式もあるので、早めの休憩に入ることになりました」
ガルドの言葉を聞いた騎士が唖然としながら言った。
「お前……近衛兵ではないな? どこの所属だ?」
「え?」
まさかバレるとは思わなかった。すると、もう一人の見張りの男性の不審そうに言った。
「ああ。そんな声のヤツ……近衛の中にはいねぇな。お前……何者だ?」
するとその瞬間、ガルドが剣を抜いて、見張りの一人を剣で気絶させた。
そして、もう一人をレイヴィンが同じく剣で気絶させた。
「声バレ……死神……お前も苦労するな……」
レイヴィンが呆れたように言った。するとネイが、真剣に言った。
「レイヴィン殿は、スカーピリナ国軍の参謀なので、知り合いもいるかと考慮しましたが……ガルド殿は声でバレるのですね。もう、お二人は今後一切話をしないで下さい!!」
「……はい、ご迷惑をおかけしてすみません」
ガルドは小さな声で謝罪したのだった。
そして、3人は扉を開けて奥に進んだ。
牢の最深部の柵の中にはレオンが両手、両足に鎖を付けられて座っていた。
「お迎えが遅れて申し訳ございませんでした。レオン陛下」
レイヴィンが膝をついて声を発した。
「その声……レイヴィンか……」
レオンが目を大きく開いてレイヴィンを見た。
レイヴィンは、近衛兵の鎧を脱ぐと、腰に下げていた袋から様々な針金を取り出し鍵穴に刺した。
「ん……これかな?」
『カチャッ』と音がしてカギの開く音がした。
そして柵を開けて一般的な貴族の部屋のように整った牢の中に入ると、今度はレオンの前に跪いて彼の両手に付く鉄錠を針金を差し込んだ。
鉄錠は見事に外れて、レオンが両手首を回してレイヴィンを見た。
「相変わらず見事だな……」
「ええ、まぁ。手先は器用なので」
レイヴィンが楽しそうに笑いながら言った。
「では、レオン殿。こちらを」
いつの間にか先程の近衛兵の鎧を剥ぎ取っていたガルドが、鎧をレオンに渡した。
「その声……死神か……」
「……ええ、そうです。お早く」
そして、四人で西の棟を抜け出したのだった。
――――――――――――――――
次回更新は7月25日(木)です♪
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