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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

216 多国籍チームミッションスタート!(4)

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 王族女子同士の苛烈なあいさつ合戦……どう乗り越える?
 私は高速で考えた。

 まず、お手本を探さなきゃ!!
 王族経験者で優美で上品で華麗でこの戦いに参戦しても勝てそうな人物……。
 私は、瞬時に考えて……そしてお手本を見つけた。

 私はその人に表情を近づけ、その人の仕草一つ一つを体現するように口を開いた。
 幼い頃からずっとずっと見てきたその人の仕草は、すぐに脳裏に浮かんでくるほど、私の中に刻まれていた。

「本当に、これほど素晴らしい方々とお話できる機会などありません。素晴らしい機会に恵まれ、光栄です」

 二人が私を見て、大きく目を見開いたように感じた。
 ヴェロニカ様は『え? 誰?』と言った様子で固まっている。ゼノビアも瞬きもせずに私を見つめてぼんやりとしていた。
 ――結論。

 凄い!! ただ真似をしただけなのに……私、戦えてる!!

 私が真似をした人物、それは――フィルガルド殿下だった。
 いつでも理想の王子様といった様子で輝く笑顔でみんなに接し、我儘放題だったクローディアにもずっと紳士な態度だった。今になってわかる。あれは……王族として築き上げてきた顔だったのだ。
 それが証拠に本当に数回だが、私はフィルガルド殿下の素顔を見たことがある。

 フィルガルド殿下は、ブラッドと話をしている時だけは……完全無欠の王子様の顔が崩れる。
 私では彼の素顔を見ることはできなかった。
 エリスならきっと見れるのだろうが……。

 自分が同じ状況に立たされてみると、よくわかる。
 フィルガルド殿下は、王族として、私を守りながら……1人で戦っていたんだ。
 まだ彼が幼い頃から……小さな背中で私をかばいながら……ずっと……。

 1人王族としての顔を作り戦う彼の横で、私はそんな彼の背負っているものなど気づきもせずに、足を引っ張っていた。
 ――今ならわかる。
 
 ああ、この顔を保ち続けるのは……とてもつらい……フィルガルド殿下はずっと素顔を見せることもできずに……大変だっただろうな……。

 涙が流れそうになって、私は顔を上げてフィルガルド殿下の笑顔が透けてみえるような殿下そっくりの笑顔で言った。

「ゼノビア様。はじめまして、ハイマ国王太子妃のクローディアと申します」

 手を差し出すと、はっとした様子でゼノビアが手を差し出した。

「クローディア様、わたくしはスカーピリナ国第一王子妃のゼノビアと申します。ヴェロニカ様、ごきげんよう」

 私とのあいさつを終えると、今後はゼノビアがヴェロニカ様に手を差し出した。

「ごきげんよう。ゼノビア様」

 二人が手を握り合い微笑む。
 表面上は和やかで上品な画なのに、極寒の地の如く寒気がする。
 
「さぁ、どうぞ。お座りになって」

 ゼノビアの溢れんばかりの笑顔に、ヴェロニカ様と私も答えながら席に着いた。

 ――こうして、お茶会がスタートした。

 
 ◇


 探り合いをしながらも表面上はとても和やかな会話が続き、この状態なら何とか保てるだろうと思っていた時だった。ゼノビアが可憐な表情全開で言った。

「皆様との時間は大変楽しいですわ。ですが、そろそろお披露目式の準備を……」

 私たちはすでにこのままお披露目式に出席できる服装でこのお茶会に望んでいる。
 今さら準備などないはずだ。
 第一王子ルーカスからも、ゆっくりとして構わないという返事をもらっている。

 ――逃げられる!! 何とかしなきゃ!!

 そう思った時だった。
 ヴェロニカ様が、とびきり上品な王太子妃といった様子で口を開いた。

「まだよろしいではありませんこと? そうだわ。カードをしませんか?」

 その時だ。
 女狐、ゼノビアがゆらりとこれまでまとっていった清純な顔を少し取り崩しながら言った。

「カード……ですか……」

 何? 急にゼノビアの空気が変わった。私が不思議に思っていると、ヴェロニカ様が楽しそうに言った。

「ええ。スカーピリナ国はカードがお盛んでしょう? 近年、ダラパイス国でも嗜む者が増えましたの。ぜひご教授願いたいわ」

 スカーピリナ国はカードが盛ん!?
 ダラパイス国でも嗜む者が増えた?

 そう言われて見て、私はダンテ領邸の遊戯室を思い出した。あの場所は貴族が羽根を伸ばす観光地だ。そこに専用の場所まであったのだ。
 ちなみハイマの城にはカードゲームを嗜むという文化がようやく入ってきたといった感じだ。この前、レオンとジーニアスとリリアと一緒に遊んだが、リリアもジーニアスもあまり経験はなく、ルールを知っている程度という感じだった。
 
 つまりカードゲーム先進国のスカーピリナ国に、カードゲーム後進国の私たちが勝負を挑むという女狐さんにとっては美味しい状況をヴェロニカ様は提示したのだ。
 ゼノビアは、緩く口角を上げて言った。

「そうですね……それは面白そうですわ……」

 そう言うと、ゼノビアは急に扇を開いて口元に当てた。
 ――女狐、その言葉を体現するように、目を三日月のようにして笑いながら言った。

「では折角ですから、ご褒美を用意しませんこと?」

 ヴェロニカ様が少しだけ片眉を上げながら尋ねた。

「ご褒美?」

 ゼノビアはますます目を弧にしながら言った。

「ええ。例えば……勝った方が、それぞれの国の貴重な物をわけて頂くというのはいかがでしょう?」

 は?
 貴重な物をわけてもらう??

 私が表情を保ったまま考えていると、ゼノビアが楽しそうに言った。

「そうですね、スカーピリナ国からは『夜光草』、ダラパイス国からは『大樹の涙』そして……ハイマ国からは、新種のバラ通称『クローディア』などいかがでしょう?」

 私はそれを聞いて混乱してしまった。
 『クローディア』はフィルガルド殿下が作ったバラだ。よくそんなもの知ってるな!? 私も最近知ったのに……。そう思ってアリスが脳裏に浮かんだ。なるほど、女狐さんは随分とお国事情に詳しいようだ。

 だが……フィルガルド殿下の作ったバラ……そんな物、私の一存でわけられるはずがない。
 
 それに『夜光草』というのはどこかで聞いた……思い出せ!!
 そうだ!!
 噴水だ!!
 ダラパイス国の噴水に描かれていた植物だ!!

 私が思い出した時、ヴェロニカ様がゴクリと音がするほど息を飲んだ。
 そして、平静を保ちながらも少しだけ震える声で言った。

「ゼノビア様、『夜光草』は確か、スカーピリナ国の王家が管理していると聞きました。そのような貴重な物を賭けにして用意できるのですか?」

 ヴェロニカ様の問いかけにゼノビアが優雅に答えた。

「ええ。ですから、わたくしが負けた場合は、夫に頼みますわ。それに、夜光草だけではなく、大樹の涙も、クローディアも皆、それぞれ王家が管理しています。夫に頼る必要があるという条件は皆同じですわ」

 なるほど……つまり、この賭けの背後にはそれぞれの夫が絡んでいるというわけだ。

 つまり……フィルガルド殿下に頼み事をする!?
 いやいや、それは無理だ。
 ただでさえ、フィルガルド殿下は私を疎んでいる。それなのに頼み事なんてできない。

 賭けには乗れないと思っていると、隣でテーブルの下できつく両手を握りしめていたヴェロニカ様が、覚悟したように顔を上げて、パンッと大袈裟に扇を開いて目を細めた。

「いいですわ。その賭けお受けいたしましょう」

 私はぎょっとしながらヴェロニカ様を見た。

 ええ~~!? この賭けに乗っちゃうの? 本気!?

 私が内心オロオロしていると、ヴェロニカ様は扇を広げたまま、ゼノビアを睨みつけるように言った。

「ただし、わたくしが勝ったら、絶対に『夜光草』を譲って頂きますわ」

 ゼノビアは目を細めながら言った。

「ええ。もちろん……わたくしがご用意いたしますわ」

 そして、ゼノビアは私に鋭い視線を向けながら言った。

「それで……クローディア様はどうなさいますか?」

 正直、降りたい。
 フィルガルド殿下に頼み事なんてできない。
 そんなことを考えていると、ゼノビアが挑発するように言った。

「それとも……クローディア様は、夫に頼み事などできませんか?」

 な、何? 随分と挑発するな……。
 まぁ、私は殿下に嫌われているし、それでなくともヴァイオレットアッシュを剣に混ぜる技術を一度交渉で譲ってしまっているし、あのバラだって名前を変えることが出来るだろう。先程女狐さんも言ったが、まだ通称『クローディア』なのだ。今後エリスになるかもしれない。

 そもそもあのバラは、フィルガルド殿下が何年もかけて作り上げてきたのだ。
 そんな貴重なバラを女狐さんになんて……渡せるわけがない。

「何をおっしゃっているの? クローディア様は正妃ですのよ? ハイマの王太子だって愛するクローディア様の願い事を叶えるに決まっていますわ」

 断ろうとしたがなぜかヴェロニカ様が怒りを滲ませながら言った。

 ええ~~いやいや、そこは女狐さんの言う通りなんだって!!
 フィルガルド殿下に私への愛なんて全くないから!!

 ヴェロニカ様にこんなことを言わせてしまったら……降りられない。

 そもそも、なぜ私への要求がフィルガルド殿下の作ったバラ『クローディア』なのだ。そんなのフィルガルド殿下にしか頼めない……あ!!

 そう思って顔を上げた。
 そして、私はゼノビアを見ながら答えた。

「わかりました! 私もその賭けお受けいたします」

 ゼノビアが嬉しそうに言った。

「ふふふ。それでは、始めましょう!!」

 こうして私たちはカードをすることになったのだった。
 だが、この時の私はまだ気づいていなかった。
 この賭けの対象になった植物が、とんでもない代物だということに……。




 
 


――――――――――――――――







次回更新は7月20日(土)です♪




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いつも感想ありがとうございます!!
大変有難く読ませて頂いております。

現在、
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否承認希望の方、また

・承認のお手間は不要です
・たぬきち25番さんだけが見て下さい
・できれば、作者様だけに読んでほしい
・ガルド、ブラッド、レガードの声予想
(最近レガードの声の予想を多く頂き感無量です)

などの文言が入っている感想も否承認にしております。
ですが……。

・匿名での掲載をお願いします
・誤字脱字報告箇所のみ消して掲載して下さい

など……。
大変申し訳ございませんが、こちらでは皆様から頂い感想を編集して掲載することはできません。
ですので、そう言った感想も否承認にさせて頂いております。

何とぞ、御理解頂けますようにお願い申し上げます。


たぬきち25番

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