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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
213 多国籍チームミッションスタート!(1)
しおりを挟む私は、レイヴィンにこの城のあらゆる場所の風景画を見せたもらった。
どうやら、この城の見取り図は王家の人間しか見れない場所に保管してあり、持ち出せないらしいので、城の内部や外観を描いた物を見せてもらった。
西の棟付近には二カ所入口がある。だが、一方は近衛兵の屯所の正面。もう片方は、西庭園に面しており見通しもかなりいい。そして裏面は斜面のある山。
「西の棟はベルンと違って、見張りの兵士を倒して潜入というのは難しいと思います」
レイヴィンが悔しそうにさらに言葉を続けた。
「それに城中に、見張りがいてすぐに第一王子妃の耳に入る……彼女が命じれば、私兵も動き、かなり厄介です」
西の棟の裏は傾斜のある山があった。
私は、西の棟の書かれた絵を見ながら既視感を覚えた。
どこかで見たことがあるような……。
どこで見た?
ん~~。
「あ、逆落としだ……」
咄嗟に口に出した言葉に、サフィールがすかさず尋ねてきた。
「ディア、逆落としとはなんだ? 聞いたことがないな」
「え……どう説明したらいいのな……ちょっと待ってね……」
私がどう説明しようかと考えていると、リリアが口を開いた。
「クローディア様、僭越ながら私がお答えしてもよろしいでしょうか?」
「え? ああ。お願い」
「かしこまりました。サフィール様。逆落としとは、戦略書に書かれた計の一つです。馬で山の斜面を下り降りる戦法です」
リリアに言われて思い出した。
これは以前、リリアが図書館で借りてきてくれた本に乗っていたのだ。
あの本に書いてあった絵と同じような地形だったので浮かんできたのだ。
リリアの言葉を聞いたガルドが考え込むように言った。
「この斜面を馬で……馬の負担が大きいですね……。旧ドラン国に自生していた足の太い馬なら、可能でしょうが……我々が乗っている馬では難しいでしょうね……」
どうやら、馬にも種類があるらしい。
あの戦略書に書いてあった馬は、旧ドラン国の馬のようだった。
「いえ、戦略書に書いてあった絵と同じような風景だったから咄嗟に口から出ただけよ」
私の言葉を聞いたガルドが小さな声で呟いた。
「本物の剣聖だったら……どんな馬でも、可能かもしれませんが……」
他の人にはガルドの言葉は聞こえなかっただろう。
だが、ガルドのすぐ前に座っていた私には聞こえてしまった。
――本物の剣聖?
私がガルドの言葉を考えていると、レイヴィンが口を開いた。
「ガルド殿の言う馬が、ダクラス馬だとしたら……わが軍に軍行用で数頭飼育していますよ。確かにあの馬ながら……この斜面を下り降りることも可能かもしれない」
レイヴィンの言葉に、ガルドが声を上げた。
「ダグラス馬が……」
そう言うと、ガルドが声を上げた。
「クローディア様、その任務私にお任せ下さい。あまり目立たない方がいいので一人で……」
するとほとんど同時にレイヴィンとネイが声を上げた。
「一人では危険だ。私もダグラス馬には乗れます。私も行けます」
「我が国の陛下、救出に立ち会わないなんて、お断りです。俺も行きます」
レイヴィンと、ネイ……。
この二人がガルドを援護してくれるというなら、正直なんの心配もいらない。
だが……。
「でも、ネイがいなくなったら、アンドリュー王子の護衛はどうするの? 騎士団幹部といった上位役職の者でないとお披露目式の会場には入れないのでしょ?」
アンドリュー王子は私を見て微笑んだ。
「お気遣いありがとうございます。ですが私の心配は不要ですよ? 私もそれなりに剣も扱えます」
するとブラッドが声を上げた。
「ラウル。悪いがネイ騎士団長が不在の間、アンドリュー王子の護衛に就いてくれ。他国の王族を守る役目、我が国の副団長クラスでなければ、任せることができない。クローディア殿は、私とアドラーで守ろう」
確かにラウルが護衛を務めてくれるというのなら、これほど心強いことはない。
ラウルは、静かに頭を下げた。
「御意」
ブラッドの言葉を聞いてジルベルトが声を上げた。
「ご配慮感謝いたします」
こうしてレオン救出の人間が決まった。
後は、三人の邪魔をさせないようにしなければならない。
「ディア、近衛兵の目は私が引き付けるよ。さて……サフィール、どうする?」
どうしようと考えていると、ダラパイス国の王太子ガイウスが自ら囮になることを提案してくれた。さらに方法まで考えてくれるようで、サフィールに話を振った。
「ふむ……そうだな……ルーカス殿下も巻き込み、視察ということにするか。ディノ、すぐに手配しろ」
ディノは深く腰を折りながら答えた。
「はい! お任せ下さい!」
すると、ずっと口を閉じていたヴェロニカ様が扇を音を立てて閉じると、口角を上げながら言った。
「では……ゼノビアは私たちの役目ですわね……ふふふ」
待って――。
頼もしいけど……今、なんて言った。
私たちって言った?
ということはつまり……。
「ヴェロニカ様。私たちというのは、やはり、私たち……ですよね?」
ヴェロニカ様はにっこりと微笑みながら言った。
「ええ。そうよ。私と、クローディア様よ」
うん。なんとなく、覚悟していた。
女狐さんを引きつけなければ、この作戦は上手くいかないよな~って。
だって、ここ……女狐さんに掌握された城……だしね。
「よろしくお願いいたします」
私が頭を下げると、ヴェロニカ様がそれはそれは楽しそうに言った。
「ディノフィールズ。すぐに手紙を書くから、ゼノビアとのお茶会の約束も取り付けて頂戴。いいこと……ルーカス殿下経由で頼むのよ? 絶対に断れないように……ね。ふふふ」
ヴェロニカ様が悪い顔をしている。
そして、なぜだろう?
すごく、すご~~く楽しそうなのだが?!
――心強いと思うことにした。
こうして私は、ヴェロニカ様と共に女狐さんを引き付ける役目を担うことになったのだった。
◇
クローディアたちが、レオン救出作戦を立てていた頃。
「うっ……ここは……どこだ?」
レオンが、暗い部屋で目を開けた。
ぼんやりとして、上手く頭が働かない。
そういえば、甘い匂いを嗅いだ気がする。薬でも使われたのだろうか?
「兄上にあいさつをした後に……」
そして、自分の手元を見てレオンは全てを悟った。レオンの手は鉄の手錠で拘束されていた。大剣でもあればこの部屋から抜け出せるかもしれないが、両手が使えず、愛刀は近くにない。
レオンは窓から空を見上げて呟いた。
「女狐のヤツ……物理で王封じかよ……」
夜空にクローディアの心配そうな顔が見えた気がした。
「女狐から、守ってやるって……約束したのにな……。くっ!! こんな肝心な時に『愛する』人との約束も守れないなんて!! ……俺に、あいつを想う資格なんて……ねぇな……」
レオンは、そのまま静かに目を閉じたのだった。
――――――――――――――――
次回更新は7月13日(土)です♪
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