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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
208 女狐の城(2)
しおりを挟むそれから私は、サフィールとディノとアドラーと一緒にダラパイス国の王太子ガイウスにあいさつをして、久しぶりにヒューゴとの再会を果たした。
そこで、ガイウスにスカーピリナ国到着が遅れた経緯を話すと、私を襲った人間は許さない、なんでも協力すると言ってくれた。その後、私は3人と一緒に自分の部屋に戻った。
「クローディア様!! お久しぶりです。再びお会いできる日を一日千秋の思いでお待ちしておりました!!」
それから、アンドリュー王子たちもあいさつに来てくれて、ブラッドも私の部屋にやって来た。
みんな私の到着が遅れたことを気にしていて、話をすると協力を志願してくれた。
ふと時計を見ると、随分と時間が経っていることに気付いた。
「レオン……遅いわね……」
サフィールが頷きながら同意してくれた。
「そうだな」
レオンは兄にあいさつをしたらすぐに来ると言っていたが、そろそろ夕食の時間になるというのに、レオンは姿を見せない。
なんとなくイヤな予感がして黙っていると、ノックの音がしてレイヴィンがレオンの大剣を持って部屋に入って来た。
「クローディア様。レオン陛下に用事で参りました~~。陛下、大剣を謁見の間に控室にお忘れになっていますのでお持ちしましたよ。これから謁見の間と、控室は明日の準備をするらしいので私が預かりました。これを忘れるなんて、どれだけクローディア様の元に行きたかった……あれ?」
レイヴィンの問いかけにアドラーが答えた。
「レオン陛下は、ルーカス殿下にごあいさつをされると言われて、まだこちらにお見えになっておりません。我々もお待ちしております」
アドラーの言葉にレイヴィンが眉を寄せた。
「ルーカス殿下は、すでに明日のお披露目式の会場の設営監督をするために立ち会っておられます」
「え?」
おかしい。
確かに、レオンは兄のルーカス殿下にあいさつをしたら、私の部屋に来ると言っていた。それなのに未だに姿が見えない。
しかも、レオンがいつも持っている大剣を忘れる?
謁見の間では武器を持たないという決まりがある国があるのは王妃教育で聞いていた。だから、レオンも控室に大剣を置いたのだろうが……。
ブラッドが低い声で言った。
「レイヴィン。早急にスカーピリナ国王を探せ。イヤな予感がする」
レイヴィンはゆるく笑っていた顔から表情を消すと、無表情に答えた。
「御意」
そして、すぐに部屋を出て行った。
レオンがいない……?
これが何を意味するのか、私は必死で考えた。
この時代の移動は、かなり困難を極める。リスクも高いし、移動資金だって膨大だ。
そんな大変な状況で呼びつけておいて、スカーピリナ国王、つまり披露目式の主役が不在。
お披露目式の後は、各国の要人が一堂に会して、次の日には同盟会議も行われる。
あれ……もしかして……。
私がひとつの可能性に気付いて、青い顔をしていると、隣でブラッドが低い声で言った。
「乗っ取られるだろうな……」
クローディアがラノベでスカーピリナ国に行かないと言った時、ハイマは恐らくこのお披露目式を欠席するなら他の協力をしろ、と別の条件を出されたと思われる。
そのくらい気軽に欠席するというのが許されない状況だった。
ましてや、主催国のしかも王のお披露目式。
もしも主役のレオンがいないなんてことになったら……。
「そうだな……国際的な面子を保つためにも、ルーカス殿を王として皆に紹介するだろな。招待状に王の名ではなく、スカーピリナ国王家の紋章が入っていたのは、このような可能性があったからなのか……」
サフィールがそう言うと、静かに目を閉じた。
アンドリューも眉を寄せながら言った。
「そうですね……スカーピリナ国は主催国ですから……王が不在というのは絶対に避けるでしょうね」
これが女狐の狙いか!!
ここに来て、ようやく私は女狐さんの目的を知った。
女狐さんはまず、危険な旧ベルン国を奪う一連の流れをレオンに押し付けるつもりだったのだろう。レオンにハイマ国との交渉もさせて、ベルン国を探らせて、戦をするまでをやらせる。
そして、ベルンを手に入れたら、何らかの方法でレオンを蹴落とすつもりだった。
だが……。
当初の予定とは大幅に変り、ベルン国が旧ベルン国民の手で奪還された。この状況でベルンを奪えば、スカーピリナ国は悪者。しかも、ベルンが同盟国入りをするというのなら争う理由もない。
この作戦が、女狐さんだけが仕組んだものなのか、ルーカス殿下も絡んでいるのかわからないが、このままではレオンは闇に葬られてしまうかもしれない。
「絶対にお披露目式までに、レオンを見つけなきゃ!!」
それからしばらく経って、レイヴィンが部屋に入って来た。
「クローディア様。レオン陛下の私室、執務室、軍の執務室などレオン陛下のいらっしゃる場所を部下に調べさせましたが、レオン陛下は見つけられませんでした」
レオンはさらわれた可能性がかなり高くなった。
「では、皆で……」
私が人数を増やして捜索しようと言うと、レイヴィンが眉を寄せた。
「レオン陛下から聞いてはいませんか? この城は女狐が掌握している。城の警備は近衛兵の管轄で、我々一般兵が入れる場所は限られております」
レイヴィンの言葉を聞いて、ブラッドが口を開いた。
「もしも、我々が探していると知られれば、スカーピリナ王の命が危ないかもしれないな……今はまだ、どこかに幽閉されているに過ぎないだろう。それにこの城には今、多くの国の兵たちがいる。迂闊に移動などできない。レオンは現在、この城のどこかにいるだろう」
女狐の作り上げた包囲網の中、バレないようにレオンを助ける。
まずは正しい情報が欲しい。
私は一度瞳を閉じて考えた。
どうする?
どうすればいい?
完全にアウェーな状況……そんな中、どこにいるかもわからない人間を見つけ出す。
ふと脳裏に、イドレ国奪還後のレガードの言葉が蘇って来た。
『言葉もわからず、全く縁もゆかりもない土地で、何も知らない者同士が心通わせることが出来るということを知りました』
そうだ。
ここはアウェーだ。
だが、今はアウェーな人間がたくさんいる。
その人たちの力を借りることができれば……。
私は、必死に考える皆の顔を見ながら言った。
「ねぇ、こういうのはどうかしら?」
◇
「話には聞いていたが……ディアはいつも短期間でこれほど画期的な解決策を提示していたのか……それしか策がないというほど、素晴らしい策だ。ダラパイス国はもちろん協力しよう」
サフィールが目を大きく開けながら感心しながら言った。
私は、みんなを見た後に、ブラッドを見た。
ブラッドは口角を上げながら言った。
「ベルンやスカーピリナはどうだ?」
ブラッドの問いかけにアンドリューが頷きながら言った。
「ベルンも、もちろん協力いたします。ネイ、頼むぞ」
「はっ。丁度、適任者が同行しています」
ネイが答えた後に、今度はレイヴィンが答えた。
「スカーピリナも問題ありません。派手にやりましょう!!」
ブラッドはラウルを見た。
「ラウル。ハイマ兵は任せてもいいか?」
「はっ!! もちろんです。やるからには手は抜きません」
ラウルが爽やかに答えた。
そして、ブラッドがジーニアスを見ながら言った。
「ジーニアス、他国の人間との橋渡しを頼むぞ」
「はい!! お任せ下さい」
ジーニアスがにこやかに微笑んだ。
「では、我々は失礼します」
そして、レイヴィン、ネイ、ラウル、ジーニアスが部屋から出て行った。
すると今度はサフィールとディノ、ジルベルトが立ち上がった。そして、ディノが口を開いた。
「ディア様、ルーカス殿と、彼の懐刀ノアール殿には我々が手を回しましょう。大丈夫、サフィール閣下はこういうのは得意です。閣下、いいところ見せましょうね」
「ああ、必ずやディアに望む未来を捧げよう。ジルベルト、行くぞ」
「ええ」
こうして、サフィールとディノのジルベルトが部屋を出て行った。
三人が出て行った扉を見ていたら、ブラッドが口角を上げながら言った。
「あなたの策は本当に面白いな……」
私はブラッドたちを見渡しながら言った。
お披露目式は、明日のこの時間。
タイムリミットは……一日。
絶対に女狐さんの仕掛けた罠を打ち破る。
「明日の夜会までにレオンを見つけ出すわ……絶対に」
みんなも力強く頷いてくれたのだった。
――――――――――――――――
次回更新は7月2日(火)です☆
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