195 / 293
第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
207 女狐の城(1)
しおりを挟むレオンの話を聞いて、未来が変わったことを実感した私は胸騒ぎがした。
「ちょっと待って、レオンはエルガルド陛下に交渉するために、直接ハイマに来たって言っていたわよね?」
「ああ。そうだ」
私は、レオンに尋ねた。
「それ……レオンが自分の意思で直接ハイマに来ようと思ったの?」
「いや、評議会で決まった」
評議会で決まった……?
もしかしたら、私はとんでもなく大切なことを見落としているのではないだろうか?
私たちの作戦では、レオンのお披露目式の時に、女狐さんを追い詰めるつもりだった。
よく、パーティーで王子が婚約破棄を言い渡すがあんなイメージだ。
だが……。
それでいいのだろうか?
何かが引っかかる。
私が真剣に考えていると、レオンが口を開いた。
「クローディア。そろそろ城に到着する。何度も言うが、この城にはありとあらゆるところに、女狐の手先がいる。気をつけろ。俺も兄上にあいさつしたら、すぐにクローディアの部屋に向かう」
私はレオンを見て「……待って」と言ったが、無常にも馬車は城に到着した。
「どうした?」
待ってと言った私にレオンは私の顔を覗き込んできた。
だが、この違和感を咄嗟に言葉にすることが出来なくて、私は「いえ、気を付けてレオン」としか言えない。
馬車が完全に停止すると、私はよろけながら馬車から降りた。
そして、私の両方の手をブラッドとレオンが取って歩いてくれたが……。
想像してほしい。二人ともバレーボールとかバスケットボール選手くらい背が高い。まるで囚われているように見える。
ヨロヨロと歩いていると、前方から大きな声が聞こえた。
「ディアァァ~~~~~!!」
目の前には、競歩のようなスピードでこちらに向かって歩いて来ているサフィールがいた。
サフィールは、私の前まで来るとレオンとブラッドを見ながら言った。
「陛下、レナン公爵子息殿。お二人は長旅でお疲れだと思いますので、ディアは私が引き取ります」
引き取る?!
え?
サフィールの剣幕に私が困惑していると、私はサフィールに抱きかかえられた。お姫様抱っこというやつだ。
まずい!!
抱っこされたら……アレが見える!!
私が無意識に手を上げると足元にふわりと布が掛かった。
「ディア様。お久しぶりです。遅いので心配していましたよ」
声のした方を見ると、ディノがいつもつけているマントを取って私の足元にかけてくれた。
よかったこれでアレが見えない……。
ほっとしていると、アドラーとラウルとリリアがやってきた。
どうやら、レオンとブラッドが近くにいたので少し離れて様子を見ていたようだが、サフィールが私を抱きかかえたことで、急いで走ってきたようだ。
「ディアの部屋はこちらだ」
まるでこの城に住んでいるかのように、サフィールが私を抱き上げたまま言った。
「え?」
私は状況がわからないままサフィールに抱き上げられて、部屋に向かったのだった。そして私の後を、アドラーやラウルやリリアが急いで追いかけて来てくれたのだった。
エントランスに残されたブラッドに向かってレオンが言った。
「では、私は兄上にあいさつをして来る」
「ああ」
ブラッドも小さく返事をしたのだった。
◇
柱の影からクローディアたちの様子を見ていた執事服を着た男は口角を上げると、急ぎ足でその場を離れた。
「失礼いたします」
男は城の中でも一際豪華な扉の前に立って、声を上げた。
すると中なから侍女が出てきて、男を招き入れた。
部屋の中には、綺麗に着飾った美しい女性が佇んでいた。
「確認して参りました。ハイマの王太子妃はやはり足をケガしているようです。馬車からは、レオン陛下と、ハイマの者に支えられ、頼りない足取りで歩かれ、城に着いてからはダラパイス国王の大公閣下に抱き上げられて移動しておりました」
男の報告を聞いて、女性が扇で顔を隠しながら答えた。
「そう、わかったわ」
「それでは、引き続き監視を続けます」
男が部屋を去ると、女性は小さく呟いた。
「ハイマの王太子妃が、ダラパイス国王の大公様に……? ハイマの王太子妃は、すでにダラパイス国王の大公閣下に取り入っているのかしら? もしそうなら……そっちも使えそうね」
女性は、すぐ側に控えていた秘書に向かって言った。
「例の件。急ぎなさい」
「はっ」
秘書は頭を下げると、部屋から出て行ったのだった。
◇
「ディア。着いたぞ」
部屋に着くと、サフィールがソファーに下ろしてくれた。するとディノが、部屋に控えていた侍女に向かって、甘い瞳を向けながら言った。
「皆様、ディア様のために待機して下さり感謝いたします。ですが……少し、席を外してくれませんか? また何かありましたらすぐに呼びますので」
「はい……ディノ様……」
侍女たちはディノに微笑まれて、とろけた顔をしながらまるで催眠術にかかったかのように部屋を出て言った。私の部屋には絶対に女狐さんの命令で人がいると思ったので、素直に出て行ったのが不思議だった。
もしかして、サフィールたちは私たちの作戦を知っているのだろうか?
それで、こんな風に私を抱き上げたり、部屋から侍女を追い出してくれたのだろうか?
それなら、一体二人はどこで私たちの作戦を知ったのだろうか?
考えたくはないが……私たちの作戦が漏れたのだろうか?
私は、背中に汗をかきながらサフィールに尋ねた。
「あの……サフィール様。どうしてこのような……」
サフィールは私の隣に座って、見て切なそうな顔で言った。
「ディアは背伸びをする必要はない。そのままで十分に美しい!!」
「……え?」
全く予期せぬ言葉か返って来て、私は思わずサフィールの顔をポカンとしながら見つめた。
「レオン陛下と、ブラッド殿に挟まれてエスコートされるのだ。少しでも身長差を埋めてバランスを保ちたいというディアの気持ちは痛いほどわかる。だが、いつもより20センチ以上も高い靴を履くというのはやりすぎだ。転倒したら大変だ」
実は私は足をケガしてしていると思わせるためにいつもよりかなり高いヒールを履いていたのだ。私は演技が得意ではないので、ケガをしている演技が出来そうになかった。だが実際にケガをするわけにもいかないので、高いヒールを履いてフラフラすることでケガのように見せかける作戦を立てたのだ。
だが……サフィールには見抜かれたようだ。
「もしかして……周りも気付いたかな?」
私の言葉にディノが答えてくれた。
「いえ。皆はケガをしたのだろうか? と言っていました。ですが、私たちはディア様の身長が変っていることを瞬時に気付き、高い靴を履いている可能性があると思いました。それに靴はすぐに隠したので誰も気付いていませんよ」
ディノのかけてくれたマントは、高い靴を隠すためのものだったようだ。
私も必死で靴を隠そうとしていったので、動機はかなり違うが、以心伝心のようで怖いやら頼もしいやら複雑な気分だ。
「そうか……それならよかった。じゃあ、人払いをしてくれたのは?」
私が尋ねると、サフィールが真剣な顔で言った。
「高い靴を履いて身長を誤魔化そうとしていることなど、知られたくはないだろう?」
あ……なるほど……そう思われたのか……。
「ディア様。ご安心を!! レオン陛下とブラッド殿が高すぎるのです。私や、サフィール閣下と並べば、普通の靴で問題ありません。むしろ理想的な身長差になります」
ディノが私の手を取って力強く言った。
「ディアに気安く触るな!!」
「手くらいは普通です!! 閣下なんて、抱っこしたでしょう?!」
「……いや、それは……ケガをしたら……あ~~もう、うるさい!! とにかく不用意にディアに触れるな~~」
私は二人を見ながら思わず遠くを見つめた。
結果……上手く誤魔化せたのなら……よかったのだろうと思うことにしたのだった。
――――――――――――――――
次回更新は6月27日(木)です☆
※予告
6月29日は更新をお休みいたします。
また28日~1日までは感想の承認・返信もお休みいたします。
ご不便をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。
たぬきち25番
1,826
お気に入りに追加
9,120
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
何でもするって言うと思いました?
糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました?
王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。