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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

207 女狐の城(1)

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 レオンの話を聞いて、未来が変わったことを実感した私は胸騒ぎがした。

「ちょっと待って、レオンはエルガルド陛下に交渉するために、直接ハイマに来たって言っていたわよね?」
「ああ。そうだ」

 私は、レオンに尋ねた。

「それ……レオンが自分の意思で直接ハイマに来ようと思ったの?」
「いや、評議会で決まった」

 評議会で決まった……?

 もしかしたら、私はとんでもなく大切なことを見落としているのではないだろうか?
 私たちの作戦では、レオンのお披露目式の時に、女狐さんを追い詰めるつもりだった。
 よく、パーティーで王子が婚約破棄を言い渡すがあんなイメージだ。
 だが……。
 それでいいのだろうか?

 何かが引っかかる。
 私が真剣に考えていると、レオンが口を開いた。

「クローディア。そろそろ城に到着する。何度も言うが、この城にはありとあらゆるところに、女狐の手先がいる。気をつけろ。俺も兄上にあいさつしたら、すぐにクローディアの部屋に向かう」

 私はレオンを見て「……待って」と言ったが、無常にも馬車は城に到着した。

「どうした?」

 待ってと言った私にレオンは私の顔を覗き込んできた。
 だが、この違和感を咄嗟に言葉にすることが出来なくて、私は「いえ、気を付けてレオン」としか言えない。

 馬車が完全に停止すると、私はよろけながら馬車から降りた。
 そして、私の両方の手をブラッドとレオンが取って歩いてくれたが……。
 想像してほしい。二人ともバレーボールとかバスケットボール選手くらい背が高い。まるで囚われているように見える。
 ヨロヨロと歩いていると、前方から大きな声が聞こえた。

「ディアァァ~~~~~!!」

 目の前には、競歩のようなスピードでこちらに向かって歩いて来ているサフィールがいた。
 サフィールは、私の前まで来るとレオンとブラッドを見ながら言った。

「陛下、レナン公爵子息殿。お二人は長旅でお疲れだと思いますので、ディアは私が引き取ります」

 引き取る?!
 え?
 
 サフィールの剣幕に私が困惑していると、私はサフィールに抱きかかえられた。お姫様抱っこというやつだ。

 まずい!!
 抱っこされたら……アレが見える!!
 
 私が無意識に手を上げると足元にふわりと布が掛かった。

「ディア様。お久しぶりです。遅いので心配していましたよ」

 声のした方を見ると、ディノがいつもつけているマントを取って私の足元にかけてくれた。
 よかったこれでアレが見えない……。
 ほっとしていると、アドラーとラウルとリリアがやってきた。
 どうやら、レオンとブラッドが近くにいたので少し離れて様子を見ていたようだが、サフィールが私を抱きかかえたことで、急いで走ってきたようだ。

「ディアの部屋はこちらだ」

 まるでこの城に住んでいるかのように、サフィールが私を抱き上げたまま言った。

「え?」

 私は状況がわからないままサフィールに抱き上げられて、部屋に向かったのだった。そして私の後を、アドラーやラウルやリリアが急いで追いかけて来てくれたのだった。
 
 エントランスに残されたブラッドに向かってレオンが言った。

「では、私は兄上にあいさつをして来る」
「ああ」

  ブラッドも小さく返事をしたのだった。





 柱の影からクローディアたちの様子を見ていた執事服を着た男は口角を上げると、急ぎ足でその場を離れた。

「失礼いたします」

 男は城の中でも一際豪華な扉の前に立って、声を上げた。
 すると中なから侍女が出てきて、男を招き入れた。

 部屋の中には、綺麗に着飾った美しい女性が佇んでいた。

「確認して参りました。ハイマの王太子妃はやはり足をケガしているようです。馬車からは、レオン陛下と、ハイマの者に支えられ、頼りない足取りで歩かれ、城に着いてからはダラパイス国王の大公閣下に抱き上げられて移動しておりました」

 男の報告を聞いて、女性が扇で顔を隠しながら答えた。

「そう、わかったわ」
「それでは、引き続き監視を続けます」

 男が部屋を去ると、女性は小さく呟いた。

「ハイマの王太子妃が、ダラパイス国王の大公様に……? ハイマの王太子妃は、すでにダラパイス国王の大公閣下に取り入っているのかしら? もしそうなら……そっちも使えそうね」
 
 女性は、すぐ側に控えていた秘書に向かって言った。

「例の件。急ぎなさい」
「はっ」

 秘書は頭を下げると、部屋から出て行ったのだった。







「ディア。着いたぞ」

 部屋に着くと、サフィールがソファーに下ろしてくれた。するとディノが、部屋に控えていた侍女に向かって、甘い瞳を向けながら言った。

「皆様、ディア様のために待機して下さり感謝いたします。ですが……少し、席を外してくれませんか? また何かありましたらすぐに呼びますので」
「はい……ディノ様……」

 侍女たちはディノに微笑まれて、とろけた顔をしながらまるで催眠術にかかったかのように部屋を出て言った。私の部屋には絶対に女狐さんの命令で人がいると思ったので、素直に出て行ったのが不思議だった。

 もしかして、サフィールたちは私たちの作戦を知っているのだろうか?
 それで、こんな風に私を抱き上げたり、部屋から侍女を追い出してくれたのだろうか?
 それなら、一体二人はどこで私たちの作戦を知ったのだろうか?
 
 考えたくはないが……私たちの作戦が漏れたのだろうか?

 私は、背中に汗をかきながらサフィールに尋ねた。

「あの……サフィール様。どうしてこのような……」

 サフィールは私の隣に座って、見て切なそうな顔で言った。

「ディアは背伸びをする必要はない。そのままで十分に美しい!!」
「……え?」

 全く予期せぬ言葉か返って来て、私は思わずサフィールの顔をポカンとしながら見つめた。

「レオン陛下と、ブラッド殿に挟まれてエスコートされるのだ。少しでも身長差を埋めてバランスを保ちたいというディアの気持ちは痛いほどわかる。だが、いつもより20センチ以上も高い靴を履くというのはやりすぎだ。転倒したら大変だ」

 実は私は足をケガしてしていると思わせるためにいつもよりかなり高いヒールを履いていたのだ。私は演技が得意ではないので、ケガをしている演技が出来そうになかった。だが実際にケガをするわけにもいかないので、高いヒールを履いてフラフラすることでケガのように見せかける作戦を立てたのだ。
 だが……サフィールには見抜かれたようだ。

「もしかして……周りも気付いたかな?」

 私の言葉にディノが答えてくれた。

「いえ。皆はケガをしたのだろうか? と言っていました。ですが、私たちはディア様の身長が変っていることを瞬時に気付き、高い靴を履いている可能性があると思いました。それに靴はすぐに隠したので誰も気付いていませんよ」

 ディノのかけてくれたマントは、高い靴を隠すためのものだったようだ。
 私も必死で靴を隠そうとしていったので、動機はかなり違うが、以心伝心のようで怖いやら頼もしいやら複雑な気分だ。

「そうか……それならよかった。じゃあ、人払いをしてくれたのは?」

 私が尋ねると、サフィールが真剣な顔で言った。

「高い靴を履いて身長を誤魔化そうとしていることなど、知られたくはないだろう?」

 あ……なるほど……そう思われたのか……。

「ディア様。ご安心を!! レオン陛下とブラッド殿が高すぎるのです。私や、サフィール閣下と並べば、普通の靴で問題ありません。むしろ理想的な身長差になります」

 ディノが私の手を取って力強く言った。

「ディアに気安く触るな!!」
「手くらいは普通です!! 閣下なんて、抱っこしたでしょう?!」
「……いや、それは……ケガをしたら……あ~~もう、うるさい!! とにかく不用意にディアに触れるな~~」

 私は二人を見ながら思わず遠くを見つめた。
 結果……上手く誤魔化せたのなら……よかったのだろうと思うことにしたのだった。







――――――――――――――――







次回更新は6月27日(木)です☆





※予告
 6月29日は更新をお休みいたします。
 また28日~1日までは感想の承認・返信もお休みいたします。
 ご不便をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

 たぬきち25番


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