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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

151 旅立ち

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 私たちは、ベルン国奪還から十日ほど辺境伯の屋敷に滞在した。当初の予定よりも随分と長く滞在することになってしまったので、別の場所に滞在先を移そうかとも思ったが、辺境伯は笑って「水くさいことを言わないで下さい。いくらでも滞在して構いませんよ」と言ってくれたので、すっかり御言葉に甘えてしまったのだ。
 そしてこれから私たちはダラパイス国の王都に行く予定になっている。

「カールおじ様。お世話になりました」

 私が、長い間お世話になった辺境伯にお礼を言うと、カールおじ様が笑顔で答えた。

「また、帰りもお立ち寄り下さい。お待ちしております」

 私は笑顔で「ありがとうございます」と言って、今度はエルファンたちを見た。するとエルファンが私に抱きつきながら言った。

「クローディア様、また来て下さいね」

 私は、エルファンに笑顔で「ええ」と答えたのだった。エルファンは、これから勉強や剣を頑張って、近い将来ベルン国に留学するそうだ。エルファンの将来が楽しみだと思った。
 そして私は、ウィルファンとマリアにもあいさつをした。

「お世話になりました」

 二人は私の手を取り嬉しそうに言った。

「クローディア様。本当にありがとうございました。クローディア様のおかげでエルファンも人が変ったように勉強をするようになりました」

 ウィルファンもマリアもエルファンに目標が出来たことで、勉強を頑張るようになったことを喜んでいた。

「隣国がベルン国に戻ったことで、兵の負担も減りました。感謝いたします」

 ウィルファンが真剣な顔で言った。
 私は、カールおじ様、ウィルファン、マリア、エルファンに「ありがとうございました」と言って、ハグをすると馬車に乗り込んだ。

「クローディア様~~~お気をつけて~~」

 エルファンは、馬車が走り出しても私を走って見送ってくれた。
 私はずっと走りながら見送ってくれるエルファンに馬車から顔を出して、「ありがとう、またね」と言って別れた。
 ここは、クローディアの実家以上にあたたかくで、居心地のいい場所だったと思ったのだった。

 エルファンの姿が見えなくなって、馬車の窓を閉めると、ジーニアスが話かけてきた。

「クローディア様、また帰りにお会いするのが楽しみですね」

 私は頷いて「ええ」と答えた。ダラパイス王都までは馬車で3日ほどだ。私が窓の外を眺めていると、ラウルが窓に近付いて来たので、私は窓を開けて「どうしたの?」と尋ねた。

「クローディア様、虹が出ております」

 確かに空に大きな虹が見えた。とても美しくかかる虹を見て、心が洗われるようだった。私が綺麗な虹に見とれていると、前に座っていたブラッドがラウルに向かって声を上げた。

「朝に虹か……天気が崩れるな。速度を上げるのか?」

 するとラウルも大きく頷いた。

「はい。雨に降られる前に少々速度を上げたいと思います。お気をつけて」

 私はラウルを見ながら頷いた。

「わかったわ」

 そして、窓を閉めてブラッドを見た。

「雨が降るの?」

 ブラッドは、頷きながら言った。

「ああ。おそらくな……今日は近くに宿泊予定だったのが功を奏したな……」

 私は晴れた空にかかる虹を見上げた。するとブラッドがリリアにもっと私の近くに座るように言った。

「揺れるかもしれない。何かあったらすぐに言ってくれ」

 私は「わかったわ」と答えたのだった。
 その後、私たちは大雨に見舞われることになるのだった。

 








 クローディアたちが辺境伯を出発した頃。
 ランヴェルトはイドレ国の帝都に戻っていた。この街はこの数年で随分を大きく発展した。通常の帝都と言うと、城門で囲い外敵から身を守ったりするが、皇帝はあえて城壁を作らなかったことで、人が自然に集まり街は段々と大きくなっていったのだ。
 ただ、運河が帝都を囲むように流れているので、運河が防波堤のような役目を果たしていた。
 ランヴェルトは、運河にかかる大きな橋を渡り、宮殿へと急いだのだった。

 宮殿に着くと、ランヴェルトはすぐにイドレ国皇帝のいる執務室へと向かった。皇帝は、すでにベルン奪還の知らせは受けているはずだった。イドレ国皇帝は、ランヴェルトを見ながら口を開いた。

「戻ったか……」

 ランヴェルトは皇帝の言葉に短く答えた。

「ああ」

 皇帝は、ランヴェルトを見ると人の悪そうな笑みを浮かべながら言った。

「『顔と血筋だけのお飾りの正妃』さらには『王族としては元より貴族としても使えない女性』……そんな女性に随分と派手にやられたようだな」

 ランヴェルトは、眉を寄せながら言った。

「あの国には嫌な男がいる。恐らく……虚偽の情報を掴まされた。スカーピリナ国の令嬢に暴言、エル―ル国の令嬢に暴言、ヌーダ国の王太子妃に傍若無人に振舞った……他にも自分の立場を笠に着て随分とやりたい放題など随分と酷い話を聞いてハイマの王太子に同情していたが……彼女がそのようなことをするなど有り得ないな……」

 ランヴェルトの言葉に皇帝は目を細めて試すように尋ねた。

「虚偽だったのか? あれだけ手を尽くして調べた情報が?」

 ランヴェルトは、息を吐きながら答えた。

「そうとしか思えないほど……実物は聡明な人物だった。正直、あの女性が正妃で側妃を娶る理由など、肉欲としか思えないが……王太子と側妃になる娘とは手を合わせたこともない。かといって、側妃に盲目し、溺れているようにも見えない。情報を見ると側妃を娶るは当然だろうと思っていたが……今となっては、ハイマの王太子の考えていることは全く理解できないな」

 皇帝は、頬杖を付きながら面白そうに目を細めながら言った。

「言い訳か?」

 ランヴェルトはため息をつくと、皇帝を見ながら言った。 

「そう言うな。私もこれほどまでに集めた情報と違いがあったことなどないので、困惑してるんだ」
「お前を困惑させる令嬢か……ますます面白いな」

 皇帝はベルンが奪還されたというのに機嫌が良さそうだった。ランヴェルトは皇帝に問いかけた。

「ベルンはどうする? 再び兵を出すか?」

 皇帝は、興味が無さそうに答えた。

「ベルン……か。いや、ベルンは捨て置いて構わない。王から話を聞けなかったのは惜しいが……あの国には探しているものは……ない。それより……」

 ランヴェルトは、しばらく皇帝の言葉を待っていたが、無言になった彼の代わりに口を開いた。

「……ハイマの王太子妃か?」

 皇帝は目を細めながら口角を上げると「そうだ」と言った。ランヴェルトは、イドレ国皇帝を見ながらある提案をした。

「あの王太子妃を確実にここに呼ぶには……」

 イドレ国皇帝は、ランヴェルトの提案を受け入れたのだった。
 





 ランヴェルトがイドレ国で、皇帝と話をしていた頃。
 ハイマ国の王宮内、フィルガルドの管理する王太子の庭には、一人の女性の姿があった。
 金色の髪に青い瞳を持つ彼女は、王太子の庭に咲く、大輪のバラに手を添えながら目を細めながら呟いた。

「……綺麗に咲きましたね……ディア……」

 風が彼女の髪を揺らし、薔薇の花びらを数枚空に巻き上げたのだった。















―――――

いつもお読み頂きありがとうございます。
明日から本編をお休みして、感謝を込めて番外編をお届けいたします。
ずっと肩に力が入る内容だったと思いますので、数日のんびりとして頂けると有難いです。

たぬきち25番










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