122 / 293
第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還
147 歴史的瞬間(2)
しおりを挟むベルン国王城では、イドレ兵が民によって取り押さえられ、イドレ国皇帝の命を受けて派遣された貴族も皆に取り囲まれていた。
そこへアンドリュー王子が、杖を付きながらも凛とした姿で現れ、声を上げた。
「ベルン国を、返してもらおう」
その後、イドレ国の貴族は捕えられたのだった。
ここに長きに渡るイドレ国の支配は、ようやく幕を閉じたのだった。
イドレ国の兵は捕えられ、各地に残っていた兵もそれぞれ撤退することになるだろう。
人々は大いに喜び、涙を流した。
ガルド、レイヴィン、ジーニアス、レガードは、民が自らの力で国を奪還する光景をすぐ近くで見ていた。
「この事実はしっかりと記録する必要があります」
ジーニアスが、そう言ってどこから取り出した紙にペンを走らせた。
レガードは、喜ぶ人々を見ながら呟くように言った。
「私もこの光景を脳裏に焼き付けておきます。人々にとって国を失うことがどういうことなのか。騎士として……いえ、私個人としても、民のためになる選択をする必要があると思いました」
ガルドは、レガードの言葉を聞いて目を細めたのだった。
◆
そして私は……。
小高い丘の上で、国中に響き渡るかというのような民の喜ぶ声を聞いていた。
私は、民の歓声に湧く王都を見ながら呟いた。
「無事にベルン国を奪還出来たみたいね」
隣で、ラウルが嬉しそうに言った。
「ええ。これから街を復興しなければならないでしょうが、彼らならまたすぐに美しい街を作りあげることができます」
アドラーも頷きながら言った。
「そうですね」
みんなが笑顔で街をみているとブラッドは一人で眉を寄せていた。私は不思議に思ってブラッドに尋ねた。
「どうしたの、ブラッド?」
ブラッドは、私を見ると無表情に答えた。
「……少々感傷に浸っていたのかもしれない」
私は眉を寄せて、ブラッドの顔を覗き込みながら尋ねた。
「感傷に浸る?」
私は、ブラッドの考えていることを知りたかった。
もしかして、とても感動して泣きそうになっているのだろうか?
私がブラッドの言葉を待っていると、ブラッドは淡々を話をしてくれた。
「ああ。これからジルベルトをはじめ、ベルン国の貴族はやるべきことが山積して、寝る時間もないだろう。さらに王族も同様、しばらく何も考えられないほど多忙を極めるだろうな。現状把握、破損した道の整備、治安回復、民の住居の確保、民の日常回復への支援、他国への対応、そして他の領との連絡、自国の防衛……やることはかなり多いだろうとな……」
あ……。うん……。
想像すると……かなり大変そうだね。
ジルベルトたち……。
確かに……想像したら大変だろうな、とか、心が痛んだりするかもしれない。
「う……みんながベルン国を奪還して喜んでいるのに、ブラッド……そんなことを考えてたんだ。でも……そうだね。そう言われると、これからの方が大事だね」
ハイマ国の筆頭公爵家に生まれて、常に国全体を見ていたブラッドらしい考えだとも思った。
ブラッドはすでに、奪還した喜びではなく、ベルン国に住む民のこれからの幸せを考えていた。
つまり、彼にとってベルン国奪還は、ゴールじゃなくて過程だということだ。
私は、これからのベルン国を思って王都を見ていると、ブラッドが再び口を開いた。
「ああ。……それと……アンドリュー殿下を裏切り、イドレ国に嫁いだ者は、この知らせを聞きを何を思うのだろうか……と考えていた」
――確かにそれは……胸が痛む。
この知らせは、当然アンドリュー王子の元婚約者の元にも届くだろう。
その時、彼女は何を思うのだろうか?
国を離れたことを後悔するのだろうか?
それとも祖国が復活したことを遠いイドレの地から喜ぶのだろうか?
私が彼女の心中を推し量っていると、ブラッドが私の肩に手を置いた。
「そろそろ皆と合流するか」
私は、ブラッドを見ながら頷いた後に答えた。
「そうね」
こうして私たちは、ガルドやジーニアスたちと合流するために王宮に向かったのだった。
◆
私たちが、王宮に到着するとすぐにジーニアスとレガードが、走って側に来てくれた。
「クローディア様!! ご無事で何よりです!!」
ジーニアスが私を見ながら泣きそうになっていた。
「クローディア様、ベルンの民の力で、無事にイドレ国の貴族と兵を捕えました」
レガードが大きな声で報告してくれた。
私は二人を見て言った。
「そう。ジーニアスもレガードもありがとう、大変だったわね」
そして、ゆっくりと歩いてきたガルドとレイヴィンを見た。ガルドが私の近くまで来ると微笑みながら言った。
「クローディア様。素晴らしい音色でした。今度はぜひ、近くでゆっくりと鑑賞させて頂きたいです」
私はガルドを見ながら微笑んだ。
「ふふ、ありがとう、ガルド。ガルドも、レイヴィンも大変だったでしょう? ありがとう」
レイヴィンが私の言葉を聞いて目を丸くしながら言った。
「よくやったではなく、ありがとう……ですか……。言われ慣れていないので少し照れくさいですが……嬉しいものですね」
レイヴィンの言葉を聞いて、私はレオンを思い浮かべた。確かにレオンならこんな場合は、よくやったと言いそうだと思った。
私たちが話をしていると、ヒューゴと共にアンドリューがゆっくりと歩いて来た。
みんなは、私の後ろに下がると、私はアンドリューの正面に立って微笑んだ。
「もう歩けるほどに回復されたのですね。よかった」
アンドリューは、照れたように笑いながら言った。
「これも、ヒューゴ殿のおかげです。そして、何よりクローディア様、あなたのおかげです。本当に感謝しております。ささやかですが、皆様をお礼の宴にご招待したいと思います。クローディア様たちには、大変お世話になりました。ぜひ招待を受けて頂けませんか?」
アンドリューに熱の籠った瞳を向けられて、私は頷きながら言った。
「では、レオン陛下とリリアが戻ってからでもよろしいでしょうか? 我々は一度辺境伯の屋敷に戻り、レオン陛下とリリアを待ちたいと思います」
レオンとリリアの帰りを待って、私たちは三日後の夜に、このベルン国王宮に招待してもらうことになったのだった。
565
お気に入りに追加
9,120
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
何でもするって言うと思いました?
糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました?
王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。