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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

145 奪還作戦当日(4)

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 王都付近の森の中。馬車の中には、ネイとヒューゴとアンドリューとローザが乗っていた。
 彼らの耳にもクローディアの演奏は届いていた。
 ローザは目を閉じて音楽を聴きながら口を開いた。

「お兄様のお考えになった曲を、ここまで完璧に弾いて下さるなんて……本当に、クローディア様は素晴らしいですわ」

 ローザがクローディアの奏でる音楽に耳を傾けながら呟くように言うと、彼女は自分の前に座っていたアンドリューを見た。彼は頭を下げて、膝の上に乗せた手のひらを握りしめていた。

「お兄様……どうされました?」

 ローザが心配そうに声をかけると、アンドリューの膝に次々に雫が落ちてきた。

「火龍を見た時……私は、これは奇跡だと、心が震えた。そして、今、言葉に出来ないほどの心と身体の震えをどのような言葉で現せばいいのかわからない。――これも奇跡と呼ぶのだろうか? その言葉しか出て来ない自分が恨めしい……神に、いや彼女には本当に……感謝せずにはいられない……!!」

 アンドリューは大粒の涙を流しながら顔を上げた。

「ハイマの王太子妃、クローディア様にここまでさせたのだ。私は絶対に、ベルンの民を幸せにすると誓おう。――イドレ国よ。我が愛すべき民の暮らすこのベルン国、返して貰おう」

 アンドリューの瞳にはこれまで見たこともないほど強い意思が見えた。

「お兄様……ええ、必ず」

 ローザも力強く頷いたのだった。
 ヒューゴもネイもお互いの顔を見合わせて頷いたのだった。
 
 すると突然馬車が停まって、御者台に乗っていた男が叫んだ。

「ネイ様!! イドレ兵です!! 囲まれました!!」

 アンドリューたちの乗った馬車は、国王と王妃を捜索していた一部の兵に見つかってしまったのだった。ネイは、剣を腰に下げると、アンドリューに向かって言った。

「王子。少々こちらでお待ち下さい」

 馬車を出ようとするネイに向かってヒューゴが大きな声で尋ねた。

「ネイ殿。私も行きますか?」

 ネイは静かに首を振った。

「いえ、ヒューゴ殿はここで、お二人をお守りください。私一人で十分です。無粋な連中など……黙らせてきます」

 ネイはそう言って、馬車を飛び出すと、イドレ国の兵に向かって行ったのだった。






「それでは、ガルドさん、レイヴィンさん、行ってきます」

 ジーニアスはガルドたちにあいさつをすると、ガルドが「気をつけて」と言って送り出してくれた。ガルドたちは引き続き国王と王妃の護衛のために隠し扉のあった屋敷に待機だ。

 レガードとジーニアスは、クローディアの奏でる音楽を合図に、ジルベルトを公爵の率いる地下組織に合流させるために、ガルドたちが守っている屋敷を出た。屋敷から、公爵たちのいる場所まではかなり近い。
 レガードとジーニアスは、兵に見つからないようにフードをかぶったジルベルトを守りながら、足早に移動したのだった。
 
 公爵の屋敷に着くと、レガードたちは息を飲んだ。
 公爵たちの隠れている石造りの保管庫の前に、多くの兵が集まっていた。

「ここに出入りしている人間を見たと言っていた。ベルン国の王はここにいるかもしれない」

 どうやら、全ての捜索隊が王都を出たわけではなく、数人の兵は王都内を捜索していようだった。
 だが、これでは中にいる公爵たちは出て来ることが出来ない。

 レガードは剣を握りしめて言った。

「ジルベルト殿。この辺りに隠れていてください。ここは私が……」

 レガードが茂みにジルベルトに隠れているように促していると、ジーニアスも鞭を取り出しながら言った。

「微力ながら、お手伝いいたします。殺傷能力はありませんが、気絶くらいはしてくれると思います」

 レガードは、眉を上げると「では、いきましょう」と行って、ジーニアスと共に捜索隊に向かっていったのだった。
 





 レガードとジーニアスが、イドレ国の捜索隊と接触していた頃。
 クローディアたちのいる小高い丘の上の教会前には、五十人ほどのイドレ国の兵士が到着していた。
 イドレ国の兵は教会の前に隊列を組み、ラウルをアドラーに向かって声を上げた。

「即刻、立ち去れ。ここはイドレ国皇帝の治める土地だぞ?」

 ラウルは、やはり随分と多いな、と思って剣をきつく握った。




 ――私がクローディア様を、お守りいたします。教会の前に立ってイドレ兵を迎え撃ちます。

 クローディアがこの作戦を口にした時、教会で音楽を奏でるのは、かなり危険だと皆が言った。兵も多く集まるだろう。これまでのように少人数を何度も相手にするわけではなく、一斉多くの兵を相手にすることになる。しかも、目立たずに行動しなければならないので、あまり多くの護衛は付けることができない。そんな時、アドラーは真っ先に迷わず声を上げた。
 そして、その後すぐにラウルも声を上げた。

 ――私にもその役目、お譲り下さい。必ずクローディア様をお守りいたします。

 ラウルも、クローディアから作戦を聞いた時に、この役目を誰にも渡したくないと思ったのだ。
 ガルドが引き受けた方がいいのではないか、という空気も流れたが、クローディアは、アドラーとラウルをまっすぐに見て「お願いします」と言ったのだった。


 
 イドレ国の兵を前にして、ラウルは剣を構えると、ハイマ国騎士団副団長としての威厳に満ちた表情で答えた。

「生憎と、その言葉を聞くことはできないな」

 イドレ国の兵は、ラウルの睨みに一瞬怯みながらも大きな声を上げた。

「貴様!! イドレ国皇帝に刃を向けるというのか?!」

 さらに脅しの言葉を投げかけるイドレ兵に向かって、アドラーは無言で眼鏡を上げながら睨みつけた。
 全く動かないラウルとアドラーの様子にイドレ国の兵は怒りを含んだ叫び声を上げた。

「生意気な!! 後悔しても遅いからな!! 行け!!」

 そう言って、イドレ国の兵士は一斉に、ラウルとアドラーに襲い掛かったのだった。




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