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第三章 チームお飾りの正妃、隣国奪還

140 奪還作戦前日(3)

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 イドレ国が他国を奪った場合、イドレ国の皇帝は指定した税さえ納めれば、占領した国の統治は、それぞれ貴族に任せている。だから、良識のある者が統治すれば、元の国よりも豊かになり、国を奪還しようなどいう声は上がらない。
 だが、今回旧ベルン国に派遣された男は、自分のことしか考えない人間だった。
 旧ベルン国の民に重税を課し、従わない者は武力でねじ伏せた。ベルン国を統治するために訪れたイドレ国の兵は、その男の部下が大半で、ベルン王都内で傍若無人に振舞った。
 他の兵は、ベルン国のように占領されて、渋々付いて来た者たちばかりなので、人数は多いが、兵の統率は取れていないし、意欲もない。

 だからこそ、旧ベルン国の騎士が解体せずに、ダラパイス国とハイマ国の国境付近でクローディアを捕えるために軍を動かしても気付かなかった。
 イドレの皇帝から任命されて、派遣された貴族が住む王都以外は、重税を課せられた以外は、放置されている状態だった。
 王都内でも、兵が通らないような道は、放置され荒れ放題になっているようだった。

「なるほど、想像以上に使えない場所や、通れない道もあるのですね……感謝いたします」

 ジーニアスは、王都内の封鎖された場所や、危険な場所を偵察隊から聞き出し、それをまとめるとロニに渡した。
 偵察隊は、ジーニアスたちに向かって真剣な顔で言った。

「皆様もお気をつけください。この時間、外にいるのはイドレ国の兵と思った方がいい」

 偵察隊の言葉にジーニアスは「ありがとうございます」と言ったのだった。
 ジーニアスと偵察隊の話が終わった頃、ジルベルトと、旧ベルン国公爵が姿を現した。公爵は、ジーニアスに手を差し出しながら言った。

「あなた方が、スカーピリナ国王と、ハイマ国の王太子妃殿の使者でしたか……ご尽力感謝いたします」

 ジーニアスは、公爵の手を取ると「恐れ入ります」と言った。公爵は、レガードとロニとも握手を交わした。その後、ジルベルトはロニを見ながら言った。

「では、ロニ殿。公爵とは話は済みました。例の屋敷に向かって下さい。我々も次の場所に向かいましょう」

 ロニは「はっ」と言うと、ジーニアスやレガードも頷いたのだった。
 公爵の率いていた地下組織を出ると、ロニはローブをかぶって「それでは」と言って、ガルドやレイヴィンが国王と王妃を連れて来ることになっている屋敷に急いだのだった。






 それから、ジルベルトとジーニアスとレガートは、二つの地下組織を回り、残りはあと一つになっていた。
 もう深夜になっていたが、イドレ国の兵が私服姿で大きな声を上げて騒いでいた。最後の地下組織のある場所は酒場なども多く、灯りも多い。ジルベルトは人目のないところで灯りを付けると目立つので、あえて人の多い歓楽街の中に隠されている地下組織を最後に回ることにした。
 ジーニアスは酒場の前に、多くの松明をかかげて、異様な盛り上がりをみせている人だかりを見つけた。よく見ると、それはジーニアスもよく知っている光景だった。ジーニアスは国が違っても歓楽街というのは同じ文化があるのだと、興味深く思って、その場を通り過ぎようとした。

「もうすぐです」

 ジルベルトがそう声を上げた時。

「ん? おまえたち……見慣れない顔だな……」

 数人の私服を着た男たちに旧ベルン国の言葉で声をかけられた。偵察隊に夜に出歩いているのはイドレ国の兵だと言われたので、この男たちはイドレ国の兵なのだろう。ジルベルト以外は、あえて顔を出し堂々と歩いていた。偵察隊から、歓楽街では顔を出して歩いていた方が声をかけられないと聞いていたので、まさか声をかけられるとは思わなかった。

 ジルベルトと、レガードが背中に汗を流していると、ジーニアスが、レガードの前に片手を出しながら、旧ベルン国の言葉で声を上げた。

「最近、強い者が居ないと、嘆いておられたのでは? この者は大変腕っぷしが強く皆様を楽しませてくれると思いますよ?」

 ジルベルトと、レガードは『ジーニアスは一体何を言っているんだ?!』と思ったが、表情には決して出さなかった。すると男は上機嫌にジーニアスの肩を抱きながら言った。

「そうか、あんた強いヤツを連れて来たのか。最近知った顔ばかりで盛り上がらなかったんだ。確かにそっちの男は良い身体している。よし、行こう」

 ジーニアスの読み通り、少しお酒も入ってほろ酔い気分の男たちはジーニアスの言葉で、警戒心を霧散させた。

「ええ」

 ジーニアスたちは、イドレ国の兵と思われる男に肩を組まれて、男たちにどこかへ連れて行かれそうになった。レガードはわけがわからなかったが、こんなところで騒ぎを起こすわけにもいかないので、ジーニアスに黙ってついて行くことにした。するとジーニアスは、ジルベルトの方を向くと早口で言った。

「ああ、彼は私たちの従者です。先に宿に戻り、カギを開けておきなさい。宿が閉まってしまいます」

 するとジーニアスに声をかけてきた男は、「ああ、宿は開けておいた方がいいな」と言ってジルベルトを解放した。

 ジルベルトは目を大きく開けた後に、ジーニアスの意図を汲み取り「かしこました」と言って、走って地下組織に向かった。
 ジルベルトを逃がすことに成功したジーニアスと、レガードは異様な盛り上がりを見せている人だかりの中に、連れて行かれた。
 そこでは、男たちが腕相撲の勝負をしていた。

「おい、参加者を連れて来た」

 ジーニアスたちに声をかけてきた男が、中央で男同士の熱い腕相撲の実況をしていた男に声をかけた。レガードはジーニアスに近付くと耳元で尋ねた。

「ジーニアスさん……まさか私にこれに参加しろ、とは言いませんよね?」

 ジーニアスは困ったように言った。

「申し訳ございません。つい成り行きで……私が出てもいいですが、瞬殺されます。……一応、強い人を連れてきたと伝えたので……レガードさんに出て頂きたいのですが……」

 レガードは、ため息を付くと「わかりました」と言った。
 中央で実況してた男が、大きな声でレガードに向かって言った。

「おお~これは新たな挑戦者だ!! 兄ちゃん負けたら、出場料1万ゼミーを払いな。勝ったら、賞金5万ゼミーだ!! みんな~~~!! 今日は、なんと、飛び込みルーキーの登場だ~~~~!!」

 腕相撲を見ていたお客さんは、レガードの登場にかなり盛り上がっていた。
 どうやら、試合中は上半身を脱ぐようで、レガードが上半身に着ていたシャツを脱ぐと、周りから歓声が上がった。

「すげー身体……」
「あれは、期待できるな!」
「腕、見ろよ!! 脱いだら、なおさら凄い身体だな……」

 レガードは脱いだ服をジーニアスに渡すと「いってきます」と言って、腕相撲の向かったのだった。
 ジーニアスは、レガードの鍛え上げられた鋼のような背中を見てポツリと呟いた。

「レガードさん……着やせする方だったんですね……」

 そう言って、自分の身体を見た後に「人は人」と言って、レガードを応援したのだった。






 ジーニアスの機転のおかげで、ジルベルトは無事に最後の地下組織に到着した。ジルベルトは、街に馴染んでいる仲間に、ジーニアスとレガードの迎えを頼んだのだった。




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