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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

137 奪還作戦5日前

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 各自、準備があるというので作戦実行は五日後となった。
 レオンたちはスカーピリナ国の兵に、ラウルたちはハイマ国の騎士に説明をするために部屋を出て行き、ヒューゴは再びアンドリュー王子の元に向かった。そして、ジーニアスはどうしても気になる書類があるとかで、ウィルファンと共に書庫に向かった。
 私はブラッドとガルドとアドラーとリリアと共に、作戦室となっている会議室で話をしていた。
 リリアとレオンは、作戦を決行するイドレ国との国境付近に移動するまで二日ほどかかる。レオンとリリアだけながら馬で半日もあれば到着するが、私のフリをしながら大きな馬車での移動になるので、二日もかかるのだ。

「リリアは、明日、ここを出発するのね……」

 私は、リリアに私の振りをさせてしまうことが、申し訳なく思っていたし、何よりも心配だった。レオンのことを信用していないというわけではないのだ。それなのに、私の胸にはリリアと離れることへの不安が広がっていた。

「はい。クローディア様のお側を離れるのは、心苦しいですが……クローディア様。どうか、ご無理はされないで下さい」

 自分だって大変なのに、私の心配をしてくれるリリアの言葉に思わず涙が流れそうになり、リリアに抱きついた。

「リリア~~~!! お願い。絶対に無理はしないで。何かあったら逃げて」

 リリアは私の背を撫でながら呟くように言った。

「はい……ありがとうございます。クローディア様」

 私は、心からリリアの無事を祈ったのだった。







 クローディアたちが、ベルン国奪還の作戦を立て終わった頃。
 ハイマ国のフィルガルドの研究施設では、フィルガルドが研究者からの報告に、声を震わせていた。

「所長……これは……本当なのか?」

 所長のランドは、外から激しい雨音が聞こえていたので、少しだけフィルガルドの言葉が聞き辛いと思ったが、大きく頷きながら答えた。

「はい。本当です。我々もこの結果を見た時は目を疑いましたが、何度試してもこのような結果となりました」

 フィルガルドは、眉を寄せながら言った。

「バイオレットアッシュにこんな効果が……くっ!! ベルン国がイドレ国に奪われたのは……かなりの痛手だったな……」

 フィルガルドは、バイオレットアッシュに代わる物を研究している過程で、更なるバイオレットアッシュを価値を見出してしまったのだ。しかも、イドレ国の皇帝にバイオレットアッシュの価値を知られてしまったら、同盟国といえども太刀打ちできないかもしれない。
 ハイマ国でもバイオレットアッシュは採れるが、とても旧ベルン国の採掘量には及ばない。
 それにハイマ国では、採掘量が少ないため、バイオレットアッシュの採掘は三大公爵家、ロウエル公爵家が傾くほどの赤字の事業なのだ。
 
 考え込むフィルガルドを見ながら、研究所の所長ランドが声を上げた。

「先日の人工的な爆発の研究結果の報告は以上です。フィルガルド殿下、我々は引き続きバイオレットアッシュに代わる物の研究と、このバイオレットアッシュを効率使えるように研究します。殿下は、そろそろ城に戻られて、少しお休み下さい……このままでは、倒れてしまいます。しばらくは、早急に殿下のサインが必要な書類はないと思います」

 心配そうなランドの声に、フィルガルドは力なく答えた。

「そうか……所長……尽力に感謝する。皆にもゆっくりと休むように伝えてくれ」

 フィルガルドの言葉に、ランドは「はい」と答えるとゆっくりとフィルガルドの研究所内の執務室を出て行った。
 フィルガルドの執務室には、フィルガルドと側近のクリスフォードの二人になった。

「フィルガルド殿下……今日は城にお戻りになりますか?」

 フィルガルドは、こめかみを押さえながら答えた。

「いや、この雨だ。今日までは、ここに留まることにする」

 フィルガルドは、少し考えたいことがあったのだ。

 窓の外を見ると、大雨だった。この雨を見ていると、かつて大雨でクローディアと約束してた食事に行けなかったことがあったことを思い出した。あの時は、クローディアが自分を待ってくれていたことに、自分でも表現できないほど身体中の血が熱くなるような感覚を覚えた。
 フィルガルドは、雨音を聞きながら目を閉じた。すると、クローディアの真っ直ぐな瞳が思い出された。
 かつてのクローディアは、ずっとフィルガルドのことが好きだ、愛していると言いながら、全くフィルガルドのことなど見ていなかった。
 誰にも近付くなと言いながら、彼女はフィルガルドの話は一切聞かなかった。
 フィルガルドは、クローディアと一緒にいる時は、常に孤独だった。

 彼女は、好きだと言いながらフィルガルドの腕に掴まるが、彼女の瞳にフィルガルドが映ることはなかったように思う。
 クローディアが、好きだ、愛していると口にするたびに、言葉と態度の違いに心が冷たくなっていくように感じて、いつも……苦しかった。
 
 ところが、エリスとの結婚を告げてからの彼女は変った。
 フィルガルドから距離を置くようになった。だが、話をする時は、真っすぐにフィルガルドを瞳に映しながら話を聞いてくれるようになった。これまでの嫉妬心や、我儘はまやかしだったかのように消え去り、フィルガルドは、彼女の美しい瞳に自分の姿が映っている事実に歓喜した。

 ――クローディアに会いたい。

 フィルガルドは心の底からそう思った。
 だが、同時にこんなに不安を抱えた状態でクローディアに会うことも避けたいと思った。

 ――不安を取り除き堂々とクローディアに会い。

 フィルガルドは、クローディアのあの美しい瞳に映る時の自分はいつでも胸を張っていたいと、思っていた。
 そしてフィルガルドは、ゆっくりと目を開けると、クリスフォードを見ながら尋ねた。

「クリスフォード、確かカイル団長は、旧ベルン国の国境付近の様子を視察した時、ベルン国の騎士団は解体していなかった、と言っていたな」

 フィルガルドの言葉に、クリスフォードは頷きながら答えた。

「はい」

 フィルガルドは「……そうか」と答え、決意ある顔で窓の外を眺めていた。
 その姿を見ていたクリスフォードは妙に胸騒ぎがしたのだった。



 
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