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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

135 チームお飾りの正妃の戦略会議(4)

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 その後、私たちは作戦について細かく決めることになった。するとヒューゴも森の中の屋敷から戻って来た。
 私たちは、椅子から立って地図や書類の近くに集まり話をしていた。
 現在はジルベルトが用意してくれた王都の地図を囲んで、離宮に捕えられている国王と王妃の保護について考えていた。

「やっぱり一番難易度が高いのは、ベルン国の王都に潜入して、王城近くの離宮に捕えられている国王陛下と、王妃様を助けることよね……王城の前のこの大橋を渡るのは至難の技よね……」

 私はベルン国王都の地図を見ながら呟いた。きっと王都内には入れても、この城に入るための大橋はかなり目立つ。ここを通過するにはどうするかを考える必要がある。離宮は、王城の奥にある。ベルン国内は城壁で囲まれているので、城の後方から忍び込むというようなことは不可能だ。
 私の言葉にジルベルトが答えてくれた。

「王都の北西に城内に通じる抜け道があり、その道を使えば、城内の奥庭園の裏に入れます。ですが……離宮には多くの兵が見張っています。大人数で行けば、すぐに見つかり取り押さえられてしまいます」
「抜け道があるの?! ……まぁ、抜け道を使っての潜入なら少数精鋭ね……」

 抜け道があると言っても、王城の敷地内の離宮に近付くだけでも大変なのに、さらに見張りまでいる。
 私が頭を悩ませていると、レイヴィンがニヤリと笑いながら言った。

「そんなの、死神……ガルド殿なら朝飯前ですよね? かつて盗賊団だった私たちのアジトだってそれなりに厳重でしたが、それをたった一人で壊滅させたのです。それに、今回は私も同行しますので死神の手腕を近くで見せてもらいます」

 驚いたことに、レイヴィンは、ガルドと二人での離宮突破を提案してきた。
 レイヴィンは、かなり私利私欲の入っているように感じるのは気のせいだろうか?

「たった二人で、離宮に?! 無謀です!! イドレ国に潜入させた同士の情報によれば、離宮を守る人数は十や二十ではすまないのですよ?!」

 レイヴィンの言葉にジルベルトが大きな声を上げた。
 そんなジルベルトを横目に、ブラッドが隣で地図を見ていたガルドに尋ねた。

「どうだ? ガルド?」

 ガルドは、地図を見ながら顎に手を置きながら言った。

「そうですね~~この規模の屋敷で重要人物を警備するなら……私なら四十ほど兵を配備しますね……外に二十、中に二十……。レイヴィン殿、ラウル殿ならどれほどの兵を配備されますか?」

 ガルドに尋ねられて、ラウルも頷いた。

「……そうですね。外は西門四名、東門四名、裏口二名で、国王陛下や王妃殿下の部屋の前に三人ずつ、そして敷地内を移動する見回りに三名……中が、国王陛下と王妃殿下の部屋の前と中に二名ずつで、屋敷内の見回りに一階四名、二階四名、エントランスに二名……。そうですね、私もこの離宮の警備を任せられたら、ガルド殿と同じくらいの人数を配置するでしょうね」

 レイヴィンは、ガルドとラウルを見ながら言った。

「スカーピリナ国なら、交代の兵も同じ屋敷に待機させるので、追加二十は見た方がいいでしょうね」

 ガルドはブラッドを見ながら言った。

「クローディア様、ブラッド様。私が離宮に行きましょう。国王陛下と王妃殿下を保護いたします」

 ガルドは兵が六十と聞いたにも関わらず、離宮潜入に声を上げてくれた。

「待ってください。私も行きますよ。死神の活躍を間近で……いえ、一人では何かあった時に対応できないので、同行します」

 レイヴィンはガルドのファンなのかな?
 でも、ファンというだけで、レイヴィンも自ら随分と危険な任務を受けようとしていた。
 レオンを見ると、レオンはアドラーに通訳をしてもらった後に、レイヴィンを見ながら言った。

『頼んだぞ』

 レイヴィンは『はっ』と言って頭を下げた。
 次のことを決めようとしていると、ずっと黙っていたリリアが口を開いた。

「クローディア様。敵の目を一時的に逸らせる役目……私に任せて頂けませんか?」
「え? 敵の目を逸らせる策を思いついたの?」

 私は、敵の目を逸らせる方法については考えていなかったので急いでリリアを見た。
 リリアは私を見た後に頷いて口を開いた。

「クローディア様……私がクローディア様に成り代わり、ダラパイス王都方面に向かうフリをするというのはいかがでしょうか? 地図のこの辺り……旧ベルン国との国境付近を通れば、相手はそれなりに警戒して兵を集めるのではないかと思うのです。さらに上手くいけば、クローディア様の代わりにイドレ国の者と接触できるかもしれません」

 リリアが私の代わりに?!

「リリアが……でも……危険なんじゃ……」

 私も辺境伯邸にあまり長く留まっていると、相手に警戒されるとは思っていた。
 それに元々ブラッドやジーニアスとも馬車の中で、旧ベルン国との国境付近を通過する時は、小競り合いの可能性もあり危険かもしれないと、警戒していたのだ。
 敵の目は逸らせそうだが、リリアが心配だった。
 リリアは、そんな私を真っすぐに見つめながら言った。

「クローディア様。一般兵には決して後れを取らないとお約束いたします。それに不敬を承知で申し上げれば、荒事への対処は、クローディア様よりも、私の方が慣れております。それに私が、クローディア様の振りをして、ダラパイス国の王都に向かえば、向こうもこちらがベルン奪還を企てているなんて思いません。旧ベルン国の国境付近で少々もめれば、敵の目を一時的に私に向けることが出来ます」

 少々もめるという言葉に不安しかない。
 それに、リリアにイドレ国が接触するというもの心配だった。
 私は、アドラーを見るとアドラーはレオンに通訳をしていた。通訳を聞いていたレオンが目を輝かせて大きな声を上げた。

「リリア嬢の案、いいかもしれない!! 俺もリリア嬢に同行しよう」

 レオンが少し興奮した様子で声を上げた。

「レオンが同行?!」

 私は思わずレオンを見つめた。レオンはニヤリと人の悪い笑みを浮かべながら言った。

「ああ。俺は、あちらに顔が割れている。俺と一緒にいれば、リリア嬢をクローディアだと思わせることができる。それに……国境付近で少々小競り合いでも起こせば、確かにかなり目を逸らせるはずだ。スカーピリナ軍と私で少々国境付近で暴れよう。リリア嬢の言う通り、そういう場ならイドレ国のヤツも、接触しやすいはずだ。もちろん、リリア嬢は絶対に守る」

 レオンとスカーピリナ軍で少々の小競り合い?!
 それ、本当に少々なのかな?
 大丈夫?!

 私が不安に思っていると、リリアが真剣な顔で言った。

「お願いします、クローディア様。私にお任せください。クローディア様はイドレ国の者と接触したいとおっしゃっていますが……私は……会わせたくはありません……」

 リリアの気持ちが嬉しくて、私は泣きそうになってしまった。

「リリア……ありがとう」

 私は、リリアにお礼を言った後に、アドラーを見た。

「アドラー。どう思う?」

 アドラーは、リリアを見た後に頷いた。

「妹は、必ずクローディア様のお役に立てると思います。どうか妹にクローディア様の代役をさせる許可を」

 アドラーは、止めることはなく私にお願いしてきた。
 私は、鉄扇で刺客を撃退するリリアしか知らないが、真の実力を知るアドラーが出来ると言っているので、任せようと思った。
 私は、リリアとレオンを見ながら言った。

「では、リリア。レオン。よろしくお願いします」

 リリアとレオンが答えてくれた。

「お任せください」
「ああ。任せろ」

 こうして、リリアとレオンが敵の目を逸らすために、動いてくれることになったのだった。







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